王と彼女のどちらを選ぶ?

 エイルシア王と言われたら引かざるを得なかった。……違うな。オレは彼女に失望されたくなかったんだ。きっと無理矢理にでも連れ去れば、オレはリアンに失望されていた。


「どうでしたか?会えましたか?」


「ああ……ありがとうエリック」


「連れ去ってくるのかと思いましたよ。まぁ、そうなると、ここから先は罪人認定で、血路を開いて進んだ先は国家間の問題に発展しますけど、陛下が選ぶなら、僕はどっちでも良かったんですけどねー」


 エリックが軽い口調で重いことを言う。確かに三騎士なら命を懸けて血路をひらいてくれるだろう。だが……。


「リアンも来ると思ったか?」


 うーんとエリックは腕組みして考えて、ニカッと明るく笑う。


「そうはならないでしょう。ずっとリアン様を見てきましたが、恋愛に溺れるタイプではないですよね。私を連れてって!命を懸けて守ってくれるの?嬉しい!なぁーんて、この状況で言わないのは、女性的には可愛げがないですが、リアン様はリアン様ですからね」


 そのとおりだ……とオレが呟くと、エリックが慰めるようにポンポンと肩を叩く。


「陛下ともあろう方が、そんなしょぼくれた顔しないでくださいよ!仕方ありません。……ですが、リアン様は陛下のことすごーく愛してると思いますよ。普通の人と違う愛情表現ですけどね~」


 わかってる。そこまで鈍感じゃない。ベラドナのことも逃げるのを我慢してるのも、全部エイルシア王国……オレのためだ。リアンの愛は王であるオレごとを愛してくれてるんだ。知っている……わかってるが……。


 ダメだ。切り替えよう。額に手をやる。そしてエリックに尋ねる。


「それにしても、やけにスムーズに後宮内部に入り込めたな?どうやった?」


 エリックはフッと前髪をかきあげる。美青年だとは思うが、たまにこういうナルシスト的な仕草はどうなんだろう?と気になる。


「僕の魅力で力を貸してくれた侍女がいましてね。なんでも、リアン様がこちらに来てから、リアン様付きの侍女をずっとしてる女性でした」


「へぇ……その侍女が協力してくれたってことか?」


「そうなんですよ。抜け道や警備兵の動きなどを教えてくれたおかげで、短時間で把握できました」


 優秀な侍女だが、そんなことに詳しい侍女?おかしくないか?少し違和感を感じたが、エリックが得意気なので何も言わないことにした。


「……で、もし、リアン様から、ここから連れ去ってほしいと言われたらどうしてました?」


「それは王と彼女どちらを選ぶかという意味か?」


「深く考えればそうですね!よくあるんですけど『仕事と私、どっちが大切なの!?』っていうやつですよ。ウィルバード様ならどちらなのかな?と思いまして。単なる興味ですけどね」


 オレは嘆息した。


「単なる興味?違うだろ。三騎士はリアンを選べば、そんなオレにはついてこないだろ?王であるオレに仕えているのであって、一人の女性のために生きるオレなど求めてないだろ。さり気なく試すのは止めろ。例え話は好きじゃない」


 ビシッと返すと、出過ぎましたとエリックがスッと身を引く。部屋まで互いに無言で帰った。


 王と彼女……どちらを選ぶ?オレはいざとなったら、どちらを選ぶのだろう?いや、選ぶなんてオレに選択肢あるなのか?それはとても傲慢な考え方に思えたのだった。

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