雨はいつ降る?

 朝になり、窓の扉をアイシャがバタッと開けた。今日も良い天気で暑い空気が流れる。


「また今日も雨が降りませんねぇ。これで何日目でしょう」


「そういえば私が来てから雨を見たことがないわ」


「もともとあまり降らないのですが、さすがにここまで降らないことは珍しくて、水不足らしいです」


 困った顔をしているアイシャ。ハリムが具合が悪くなるくらい忙しそうだったのは、そのせいなのね。


「雨……ねぇ……」


 私は空を見上げる。快晴で、雲一つない。この国にもう少し水があれば、民たちの生活が楽になることだろう。


「王宮でも水をあまり使わないようにということでした」


「かなり深刻なのね」


「はい。そうなんですよ。それでも王宮はまだマシな方です。王宮から見えるオアシスがあるでしょう?民たちは今にも干からびそうなあのオアシスへ毎日汲みに行ってます。海水があるから、それを飲めればいいのになぁとジョークを言う人もいますが、海水は飲水になりませんからね」


「なるほどねぇ」


 私はヒョイッと窓からオアシスが方角を眺める。青々とした木々や草が今にも砂の中に埋もれてしまいそうに見える。


「呪術師が雨乞いの儀式をする予定です」


「それって効果あるの?」


 呪術師というだけあって、なにか魔法の力があるとか!?


 アイシャが引きつった顔をした。


「それは大きい声で言えませんよ!」


 ……無いのね。アイシャがまずいこと言わないようにと、そそくさと去っていった。


 雨……水……と小さく呟く。私は窓からボンヤリと景色を眺める。だいぶ砂漠の景色にも慣れてきた。


 いつもなら、相手を翻弄する策や問題の打開策をいくらでもだせる。それなのに最近の私はいつもの調子が出ない。


 これはたぶん元気がないということなのだろう。原因は一つだった。


 ウィルに会いたい。


 私の欠片を辿ってきてくれるって思っているのに日を追うごとに気持ちは焦る。でもここに来て、何か問題が起こるよりは、このまま私はここにいたほうがいいのかもしれない。そんな気持ちにもなる。ウィルのお荷物になるくらいなら、そんな役立たずの私は私だっていらない。


 エイルシア王国の未来を二人の未来を描けることの幸せが私の幸せなんだってことを痛いほど自覚する。

 

 何不自由ない砂漠の後宮にいても、やっぱり頭に浮かぶのはウィルのことだった。ウィルのお荷物になりたくないって綺麗事なんていくらでも言える。


 でも私の心は誰にも見えないから自分の心の内だけ正直に言っておく。


 私、何を犠牲にしてもウィルの傍にいたい。彼の青い目と柔らかくてサラサラの髪、私より大きな手を思い出す。私はウィルの傍にずっといたい。


 ウィル……ウィルに会いたいの。声に出して名を呼びたい。


 雨が降っていないのに、私の手は濡れていた。

 

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