逃げれば追いかけられる
世間のことを知ることは悪いことではないわとベラドナ様に対抗してるわけではないけど、城下町や周辺の町に視察に頻繁に私は行くようになった。
「陛下はあまり良い顔をしてませんが……」
護衛についてきたセオドアがそう言う。私は肩をすくめる。
「あんまり後宮から出てほしくないことはわかってるわよ」
「ならばやめたほうがよろしいのではありませんか?心配されてますよ」
「ウィルは私のことを心配し過ぎなのよ」
外出の許可はくれたものの、ウィルバートの困った顔が脳裏にうかんだ。彼は私を閉じ込めておきたい。私が怠惰にしてることを、実は彼が一番ホッとしてると思うし、望んでる。箱入り娘ならぬ箱入り嫁にしたいのだ。
でもそれは無理だとウィル自身が一番わかってる。だからこうして護衛をつけて渋々、許可してくれてるわけだ。
「この辺りを建設予定地にして……で、人材は……っと」
メモをとる。学校建設に向けて動き出している。私はちょっと急ぎすぎているだろうか?でも今、自分ができることをしたい。
私の様子に諦めたらしく、セオドアは静かについてくる。天気が良いので、城下町をうろつくのも散歩のようで気分が良い。
ふと、なにか視線を感じた。振り返る。……誰もいない。
しばらくして、また視線を感じた。しかし誰もいない。
気の所為なのかしら?気味が悪いわね。私はメモを止めて、城へ帰ることにしよう。気持ち悪い視線は嫌な予感がした。
「リアン様も気づきましたか?振り返ってはいけません。このまま気づかないふりをして馬車まで行きましょう」
私の表情を読んだセオドアが傍に寄り、ボソッと小声で言った。自然と手が剣の柄に置かれている。
「あの……王妃様ですか?」
後ろから声を控えめにかけられた。これは無視しては不自然かもしれない。私が振り返ると普通の中肉中背の男の人……どこにでもいそうな人の良さそうな笑みを浮かべた街の人がいた。
でもその笑みはどこか作りものめいていて、顔に作り笑いが張り付いているように見えた。感情の無い笑顔とはこのことだろう。
「なんでしょう?」
「やはりそうでしたか!初めてお会いしましたが、美しく凛々しいお姿に感動してます」
感動している割には抑揚のない声音だった。私は警戒をとかない。セオドアが鋭い目で男を見た。
その瞬間、あり得ないことが起きた。男がいきなり、叫んだ。
「おーい!ここに王妃様がいるぞ!……同士にも会ってほしいんです。皆、喜びます」
「え!?」
それはどういう意味?セオドアが剣を抜いた。ワラワラと人が集まってきた。どこにいたの?この人達は!?さっきまでは人の少ない通りだった。
「リアン様!馬車まで走りますよ!」
私の手をひいて、走るセオドア。片手を剣に添えている。
「待ってくれ!そのお姿と声を聞かせてくれ!」
「追いかけろー!」
スカートだから走りにくい。私は転ばないように持ち上げて走る。靴ももっと動きやすいものにすれば良かった!
幸い馬車までは近く、他の警備兵達もいた。セオドアが私を馬車に入れると同時に剣を鞘から抜いて振り返る。追いかけてくる人々に銀色の剣先を向けた。
「王族に対して無礼は許さぬ。それ以上近寄れば不敬罪として斬る」
淡々とした冷たい声音が響く。警備兵たちも弓矢や剣を構えているのが馬車の中から見える。私は走って乱れた呼吸を整える。
「なぜだ!王妃様のお声や姿を少しくらい見せてくれてもいいだろう!?」
「そうだ!そうだ!」
「エイルシアの王妃は王族だけのものではない!エイルシアの民のものでもある!」
この集団はなんなの!?私は目を見開く。しかし叫んでるだけで、セオドアの威圧感のおかげか近寄っては来なかった。セオドアが皆に声をかける。
「馬車を出せ!行くぞ!」
馬車が動き出した。いつもより早いスピードで駆けてゆく。
城に着くとセオドアは険しい顔をしていた。
「ウィルバート様に報告します。リアン様は後宮へ」
わかったわと私は返事をする。なんだか疲れてしまい、大人しく従ったのだった。
追いかけてくる不気味な集団……あれはなんだったのだろう?
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