夜会の笑顔に秘めしもの
大きな夜会では貴族たちも相当数集まる。今回はお忍びで来ているコンラッドやシザリア王までもが、こっそり参加していている。
早く帰れよ……と思うのだが、居心地の良い場所になってしまったらしい。お忍びだというのに、バレバレで、貴族の娘たちがコンラッドやシザリア王を見て、嬉しそうな゙様子が見られる。
「どうしたの?ウィル?微妙な顔してるわね」
「え?そうかい?」
リアンにバレかける。危ない。
「今宵の夜会に招待いただけて、光栄ですよ」
感謝の言葉とは裏腹に冷たさを含んだ声がした。リアンと共に視線を声の方へやるとベラドナお祖母様だった。
オレはリアンに近づけさせないように、前へ出る。
「これは珍しい。ベラドナお祖母様は派手な会をあまり好まないから来ないのかと思っていました」
「孫にたまに会いに来てもかまわないでしょう?」
……一度も祖母らしい優しさを見せたことなどなかったくせに?しかも自分の息子に孫の王座を奪わせようとしたのに?思わず苦笑してしまう。
「王妃様にぜひ友人達を紹介する機会がほしいわ。良いでしょう?福祉関係のお話を聞くのは悪いことではなく、王妃の仕事としては必要なことですしね」
なにか企んでないか?オレは断ろうとしたが、リアンがスッと前へ出る。
「ぜひ紹介してほしいわ。色々勉強させてくださいな」
本気でそう思っているか?オレの顔色を見て、お祖母様が優雅に扇子を口元に当てて笑いながら言う。
「心配なら、陛下もいらしたらどうかしら?」
そう言われ、オレもついていく。相手に主導権を奪われてるのは面白くないが。
「ベラドナ様!先日のチャリティーイベント、素晴らしかったです」
「陛下もお聞きになっている場で、言わせてください。ベラドナ様のお優しい施しの心を伝えたいです」
寄ってくる貴族たちの奥様方。苦手だなと思いつつ、オレもリアンもにこやかな雰囲気を崩さないようにする。
「ベラドナ様はいつも貧しい方にも話しかけられて、困っていることはないか?辛い思いをしていないか?と心を砕いています」
「本当に素晴らしい方で尊敬してます」
ベラドナ様と称賛する人々は、まるで何かの信者のようなようだが、確かに民に対する姿勢は素晴らしいと聞いているし、実績もある。それは認める。
「リアン様もベラドナ様に学ばれると良いと思います」
ふと誰かがそんなことを言い出した。リアンを見ると、彼女は穏やかに笑っていた。
「そうですわね。善い行いは学んでいきたいものです……善きものはね」
彼女の含みのある言い方に気づいたのはオレとお祖母様くらいだろう。そのくらいリアンの表面上の笑みは上手かった。
「ぜひ王妃様も参加されるとよろしいかと思います。王妃様が良ければですけれどね。民への奉仕は王家の義務ですからね」
お祖母様の声音が多少ピリッと緊張を含んだものになったが、上手く笑顔で隠されていて、こちらも友好的にしか見えなかった。
「まあ!それは素敵ですわ。王家の方々が民のために心を寄せるなんて、どんなに皆が喜ばれるか!」
「チャリティーイベントが盛り上がりますわ」
「孤児の子どもたちにも会ってあげてほしいですわね」
気づかぬ周囲の女性達がベラドナお祖母様の提案にのってくる。
なんだ?このやりとりは?一見普通に見えるが、お祖母様は確実になにかを仕掛けようとしてないか?
オレが眉をひそめると、突然横から声がした。
「一曲、お相手してくれる方はいないでしょうか?」
キャー!とその声に歓声があがる。コンラッドが横入りしてきた。
「美人が多い。今宵の夜会は最高だな」
シザリア王までもが割り込んできた。移り気な貴族たちはすぐにそちらへ気を取られてしまう。
邪魔されたお祖母様がギロリと嫌な視線を送ってきて、冷たさをふくんだ声音で言った。しかし顔は笑顔のままだ。
「他国の者が……ウィルバート、そろそろ失礼します。帰ります」
「どうぞお気をつけて」
面白くなさげにお祖母様は去っていく。
どうやら話に突然乱入してきたコンラッドは確信犯だったらしく、オレに小さい声で言った。
「ウィルバートのお祖母様は相変わらず老齢なのに元気ですね」
そうだなと口には出さす、心の中で同意した。わざわざリアンに見せつけたかったのかもしれない。これだけの貴族が自分のことを敬愛しているのだと。
しかしリアンは今も隣で顔色一つ変えることなく微笑む。その笑顔の裏にあるものはなんだろうか?
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