10章

緑の風が吹き抜ける時

 ダム建設の視察へ行く。深く掘られていて、人々が一生懸命土を運ぶ。


 ざぁっと風が吹いて、時折緑の木々が揺れる。通り抜ける風はとても気持ち良く、風に草木の色がついているような気がする。


「ここからここまでの工事の計画は済んでます」


 工事現場の責任者が説明する。

 

「少し遅れてるみたいだけど、そこは気にせずに安全に気を付けて進めてほしいわ。人の安全が第一よ」


「はい!陛下も先日、来て、そう言ってました」

  

 しばらく、私は見て回ることを告げる。


「リアン様、日傘をきちんと被ってください。帽子だけでは日に焼けます」


 アナベルが慌ててついてきて、傘をかぶせる。


「お忍びといえど、よくウィルバート様はお許しになられる」


 護衛のトラスが肩をすくめる。


「こっそり抜け出されるよりマシって思ってるわよ」

 

「確かにそうでしょう。リアン様は活動的すぎます。護衛して気づきましたが、怠惰なのは見せかけだったのてすね。本来は国のために働いている」


 真面目な性格のトラスはジッとこちらを見て言うので、なんだか照れてしまう。そんなことないわよと笑って誤魔化した。


「さて、帰りましょうか」


 そうしましょう!とアナベルがホッとする。後宮で大人しく怠惰に過ごしていても『そんなゴロゴロしてて、大丈夫ですか?』とか言うのに出てきたら出てきたで心配らしい。


 後宮に帰ると手紙が届いていた。


「師匠から?なにかしら?」


 私から出してないのに、師匠から手紙が来るなんて珍しい。白い紙の封を切る。


『崇拝者に気をつけろ』


 崇拝者?なんのことなのかしら。それしか書かれていない。すべての答えを書かないのだから……まったく。


「なんのことでしょう?」


 アナベルも首を傾げる。


「まったくわからないけど、師匠がわざわざ手紙をくれると言うことは、なにかあるわ。少し調べてみるわ」


「そのほうか良さそうですね」


 師匠からこんな手紙が来ることは稀である。気をつけろなんて物騒すぎる。クラーク家になにか変わりはないか情報を集めよう。


「リアン様の先生に王城でお仕事して頂けたら心強くないのですか?」


 アナベルが尋ねる。私は肩をすくめる。


「ウィルは頼んでみたこと、何度もあるらしいわよ。でもねぇ……あの人は世捨て人みたいなものなのよ。晴耕雨読の生活が良いらしいわ」


 先生は小さな町でのんびりとしている。そもそも学校も自分が開いたわけではないらしい。あの先生のもとで学びたい!そんな人々が自然と集まってきたという話らしい。


 学を極める者にとっては最高の環境なのかもしれない。


 私はそれを羨ましい気もするけれど、またタイプは違うかもしれない。自分の知識がこうやって国の防衛、ダム作り、学校、病院など、形になっていくのが楽しい。


 ウィルの影であろうが、なんだろうが、私はは形にしていくことが好きらしい。実現できるのは耳を傾けてくれるウィルのおかげね。彼は王になったけれど、傲慢なところがあまりない。指揮系統をしっかりするために強さをみせることはあるけれど、人の意見にはとりあえず耳を傾けて考えてみる。


 彼のもとで、良い国にしたい。作っていきたい。そう思わせる王。良い王になったわと思った。


 ダムに吹く心地良い緑色の風を思い出し、フッと私は微笑んだのだった。

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