夜明けを待て

「言われた通り、余興に踊って、やつらを酔わせていた。酒の樽もバッチリ数通り積んだし……どうだ!?」


 エリックがドヤ顔しながら、時間通りに帰ってきた。できる男だ。


「素晴らしいわ!」


 バレバレのリアムの変装をしたままのリアンは拍手した。作戦遂行中の彼女はいきいきとしていて、次の一手を進めていく。


「クラーク家も準備を終えてるわ。ウィルも頑張って!」


「あ、うん。……リアンも来るか?」


「え!?私も行っていいの?」


「そのかわり。オレの傍を絶対に離れるなよ」


 その格好をしていると言うことは、行きたかったんだろ?バレバレだ。嬉しそうな顔をする。そんな嬉しい顔はドレスや宝石を贈ってもしないくせにと可笑しくなる。


 まだ夜が明けない。暗く、少し肌寒い空気の中、オレとリアンは船に乗り込む。クラーク家が船を貸し出してくれたおかげで、そこそこの船団になった。


 海運を始めたばかりなのに、この手腕。やはりリアンの父は世界商人関係者だろうと思わざるを得ない。リアンは知らなさそうだが……。


「緊張してるか?」


「少しだけ」


 言葉少なくそうリアンは答えた。不安を見せずに堂々としているように見せているが、内心は違うだろうとオレは気づいていた。


「以前も言ったが、戦の全責任はオレにある。この作戦を良いと思い、選んだのはオレ自身。戦略を聞いていけるだろうと思ったから、リアンの策を選んだ。ここに立つのはウィルではなく王であるウィルバートだ」


 うんとリアンは頷いた。


「ウィルにはできないことをウィルバートはする。それが残酷なことであろうがなんだろうが、勝つことしか考えてない。もし途中でリアンの策が破綻すると判断した時には、相手を総攻撃することを許してくれ。リアンは被害を最小限に……人の死を抑えるために常に作戦をたてていることはわかってる。だが、戦況によっては無理な時もあると先に謝っておく」


 少年に扮していても、彼女の緑の目はいつもどおり綺麗だ。キラキラとエメラルドのように輝いている。オレを見つめる目がいつか曇ってしまわないようにと願う。残酷なことをリアンの前でしなければならない時も来るかもしれない。


「ウィルバート、ありがとう」


 礼だけ言ってリアンは微笑む。言われなくても彼女なら、そんなこと百も承知だろうけど、言わずにはいられなかった。


 薄っすらと夜が明けてきた。オレとリアンは船上で登ってくる朝日を感じ、敵がいる方角を見た。


 今、この瞬間から始まろうとしている。海の上の彼女の作戦が展開していく。

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