怠惰なお茶会へようこそ

 私は後宮の庭園へお客様を招く。薔薇咲いていた庭には最近私が好きだと言ったハーブを植えてくれ、少しずつ私の気に入りの庭園に庭師達が作ってくれている。


 そのうち果物も植えたいわねと言うと、ウィルが果樹園になっちゃいそうだから、それは止めておいてよと笑っていた。


「お茶会にお招きしてくれてありがとう。ここはあまり変わらないわね」


「懐かしいお庭なんですね」


「子供の頃、よく仲の良い姉妹たちと一緒に、ここで遊んでいたわ」


 私が椅子を勧めると、あらっ?と長椅子風のベンチに驚く。ゴロンと横になれるくらい広い。怠惰に過ごせる用の特注のベンチだ。


「この椅子変わってるわね。ベンチなの?」


「フフッ。そうなんです。クッションもどうぞ」


 クッションも置き放題だし、これは我ながら良い物を作ってもらったわと思っている。


「クッション!?」


 私がお茶を頼むわと言うとアナベルがかしこまりましたといつものようにお茶を持ってきてくれる。


 今日はお招きするため、ちょっと豪華なお茶菓子だった。プチケーキ、三種のクラッカーサンド、ナッツ入りクッキー、干したフルーツのブランデー付けパウンドケーキなどが並ぶ。


「お茶の種類も選べますから、よろしければどうぞ。後はのんびりしてください」

 

 ゆったりと座ってお茶とお菓子にソフィーは手を伸ばしかけて止まった。


「いやいやいや?ちょっとまって!?これだけ!?何もしないの!?普通、王族のお茶会こんなんじゃないでしょ!?」


「私はやり方を知りませんし、今日はとてもいい天気ですもの。特に何もせず、外の空気を吸って花々を愛でるのも良いかと思います。クッションに寄りかかり、ボーッとするのもおすすめです」


 本当はやり方を知っているメイド長に難色を示されたことは内緒にしておく。


 何もしない。ただボーッとお茶するだけ。怠惰な王妃の私にピッタリなお茶会である。


「眠くなっちゃうんだけど?」  


「その場合、お昼寝してもらっても構いませんよ。そのためのフカフカクッションです」


 ニッコリ私は笑う。ソフィーがお行儀悪いわと顔をしかめる。  


「ここには私とお義姉様しかいませんもの。お行儀が悪くても良いと主催の私が言ってるのですから構わないのでしょう?懐かしい場所で気を張るよりも子供の頃を思い出し、自由にお過ごしくださいな。庭園の散策もどうぞ」


「あなた……」


「リアンとお呼びください」


 フッとほほ笑むソフィー。


「じゃあ、わたくしのこともソフィーって呼んでくれる?」


「もちろんです。ソフィー……のんびりまったり過ごすことが私は大好きです。付き合ってくださいな」


「喜んで。リアンは思っていたのと少し違うわね。やっぱり会ってみることって大事だわ」


「私の噂を何か聞きましたか?」


「怠惰に過ごす王妃、王宮の壁を魔法で壊した。だけど国を救ってくれたとも……どういうことなのかサッパリの噂に一度、会ってみたかったのよ」


 怠惰なのも城の破壊も間違いではないけど、それだけ聞くと、とんでもない人じゃないの。


「良い方にイメージが変わってくれているなら良いのですけど」


「フフフ。本当ね。大丈夫よ。わたくし、リアンのこと、好きになりかけてるわ」


 この何もしないお茶会で、どうイメージが良くなったのかわからないけれど、概ね上手くいったようだった。


 チチチと小鳥が歌を口ずさむ。時折、そよそよと風が吹く。温かなお茶と甘いお菓子と共に静かなお茶会の時は過ぎてゆくのだった。


 穏やかな顔をし、目を閉じているソフィー。


 そして目を開けて語る。


「ウィルバートのこと、この庭園で見たことがあるのよ。小さな男の子が美しい金の髪をした女性と歩いていたわ。わたくしたちに気づくと恥ずかしそうに後ろに隠れていたの」


「可愛らしい時もあったのですね」


 恥ずかしがり屋の幼いウィルバートを想像すると可愛くて、私は微笑む。


「だから、後宮に乗り込んできて、即刻でてけ!と叫んだ時の話を聞いた時、悲しかったわ。でも今ならわかるわ。ウィルバートがずっと苦しんでいたことが……」


 ソフィーはそれ以上なにも言わず、お茶に口をつけたのだった。

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