休暇は与えられず

「陛下はなぜ不貞腐れているんですか?」


「別にいつもどおりだ」


 不在中に溜まった書類を確認してドスドス印を押していく。セオドアがそれを見て、尋ねてくる。


「印を押す音がいつもより強めです」


 ……音で人の機嫌を測るのは止めてほしい。だが、長年一緒にいるからわかってしまうのだろう。セオドアになら、心の内を吐き出してもいいだろう。


「ユクドール王国の戴冠式を予定より早く切り上げてこれたから、リアンと一緒に離宮で1日か2日ゆっくり過ごそうと思っていたんだ!それが、顔もあまり知らない姉が来たせいで、リアンはもてなすために時間を割かれるし、オレとの時間はとれないし!」


 そう言ってから、印をドンッと力強く押した。セオドアがあきれた顔をした。


「落ち着いてください。別にソフィー様は放置しておけばいいじゃないですか。リアン様とお出かけしてきてもいいのではありませんか?」


「ダメだ。リアンのスイッチが入った。もう戦略モードだ。セオドアも見ただろ?リアンの目がキラッと楽しそうに光ってた!何かあれは考えてるぞ!?こんな時に誘っても断られるだけだ」


 ユクドール王国で少し落ち込んでいた様子だったが、すっかり元通りのリアンになっている。喜ばしいことだが……くっそー……。思わず書類の用紙が載ってる机に構わず突っ伏す。バサバサと用紙が落ちる。セオドアが呆れたようにオレを見て拾ってくれる。


「机に突っ伏して、何してるんですか?まぁ仕方ありませんよ。陛下もお仕事がんばってください」


「ハハハ……おかげで仕事がはかどるなぁ」


 オレは乾いた笑いをし、遠い目をした。セオドアがやれやれと言っている。


「陛下!大変です!」


 悪いこともしないが良いこともしない宰相が執務室に飛び込んできた。もうその時点で嫌な予感しかしない。


「どうした?」


「ソフィー様の嫁ぎ先のシザリス王国より使者が来ています」


「わざわざ使者を寄越してきたのか?なんだろう?」


「わかりませんが、怒ってます」


『怒っている?』


 オレとセオドアの声がはもる。そして顔を見合わせる。怒っている?何に対してだろうか?もしや姉は何か仕出かして逃げてきたのだろうか?


 海洋国家シザリスは海に囲まれた国で、なかなか強大な国だ。父が姉の嫁ぎ先に選んだのも納得できる。


「怒っている意味がわからないが、まあ、会おうじゃないか。姉ははっきりと理由を言わないから、これでわかるだろう」


 オレと姉の関係の希薄さを知ってる宰相が『大変ですねぇ』と呟く。


 ……おまえがオレの留守中に姉を勝手に客人として王宮内に入れたからだろう!?と思ったが、何を言ってもこの宰相には響かないだろう。私腹を肥やさないという理由だけで、宰相においてあるが、そろそろ変えてやろうかなと思い始めたのだった。

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