姉は語るけれど真意は見えず
「なんだか……後宮、寂れちゃってるわねぇ」
それがウィルバートの姉ソフィーが後宮を見た第一声だった。
「昔はもっと華やかで、ここでわたくしたちも過ごしていたわ」
「そうなんですね。ウィルバートもですか?」
「あの子はすぐに教育が始まったからいなかったの。時々、後宮にいる母のところへ会いに来ていたのを見たわ」
「えっ!?一緒に過ごしてはいけないのですか!?」
「そうね。離れて過ごすわ。乳母や教育係がつくわね」
それは寂しいかと……という言葉を飲み込んだ。さらにソフィーは続ける。
「後宮のこと、ウィルバートはよく思っていないのよね。即位した途端にしたことは、ここから全員追い出したのよ」
「追い出した!?」
頷くソフィーの顔は複雑な表情だった。
「全王妃、そしてその娘達を全員放りだしたわけ。普通なら、他の離宮を用意したり、行き先を決めてくれたりするわけなんだけど、ある日突然『出てけ』って、それはそれは怖い顔でね」
どうりで、ウィルの姉妹たちとは疎遠なわけだわ。なんか知らない一面だわ。
「あのウィルバートは本当はすごく怖いわよ。噂で聞いたけど、エキドナ公爵、叔父様も処分したんですって?」
「それは色々あったので……」
私も加担してましたなんて言えない。
「とにかく、わたくしはもうその頃は嫁いでいたから良いけど、いきなり言われて路頭に迷った人もいたとかいないとか……」
ウィルバートの母が殺された原因が後宮にあり、自身も辛く当たられていたから、自分が王になり、不要だと思って迷うこと無くそうしたのが、目に浮かぶ。時々、私の知らない顔のウィルバートの話を聞くことがある。
少し怖いウィルバートの姿……でもそれは本当の姿ではないことも私は知ってる。だから大丈夫だわ。ニッコリ私は微笑む。
「お姉様、少し寂しい後宮ですが、人がいない分、ゆっくり過ごすことができます。後で私とお茶でもいかがですか?」
「え?そうさせてもらおうかしら?あなたがいいなら」
では、また後でと私は部屋から出ていく。自室へ帰ってくると、アナベルが眉をひそめて、小さい声で私に尋ねてきた。
「お嬢様はきっとお気づきでいらっしゃると思いますが、おかしくはありませんか?」
「なにが?」
「ウィルバート様は自分の義理の母や姉、妹たちはすべて追い出したと言ってました。それなのに、帰ってくるなんて、嫁ぎ先の王国で何かあったのでは?」
「そうよね。そうとしか私も思えないわ」
うんうんとアナベルに頷く。
「またはここでなにかを起こそうとしているとしか!」
「さすがアナベルね。だてに私のメイドを長年していないわ」
「お嬢様の周りは事件が起きすぎですから、対応力を求められるんです」
……褒められてないわね。私の姉のようなメイドはしっかり者だった。ピシっと背中を伸ばす。
「ソフィー様付きのメイドはきちんとした者を選び、その行動を見ているようにします」
「頼もしいわ。ありがとう」
いいえと首を横に振る。そしてお茶会の用意をしますねと言って出ていった。私は頬杖をつく。
幼い頃のウィルバートを助けてくれる者は後宮にいなかった。それはソフィーも同じで、仲が良かったわけではない。それなのに今更エイルシア王国を頼ってくるなんてどういう心境なのかしら?もしかしてウィルのお祖母様と繋がっていて、嫌がらせ?……嫁ぎ先の国の様子など調べてみる必要があるわね。
私はクラーク家へ手紙を書く。まずは情報を手に入れたい。疎遠だった姉の真意はどこにあるのだろう?
――――――――――――――――――――
☆『ワーカーホリックのメイドと騎士は恋に落ちることが難しい!』
https://kakuyomu.jp/works/16817330667505258598
セオドアとアナベルの恋の経過とウィルとリアンの過去や普段の様子がチラリと描かれたサブストーリーもよろしければ手にとって頂けたらと思います(*^^*)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます