彼と彼女の故郷
無事に帰ってきてホッとしました。そうセオドアが馬車に乗りながら言った。エリックまだ帰ってこないとソワソワしていたようだった。
「無理を言ったのはわかってる。悪かったな」
「いえ……リアン様の表情が明るくなっていますので、良かったことだったとわかります」
チラリと馬車の外でアナベルやエリックと話してるリアンを見る。確かに笑顔になっている。
まぁ……効果あったみたいで良かった。ホームシックとまではいかないが、慣れない王宮、事件、環境の変化でさすがのリアンも心が疲れてくるだろう。
何も考えずに後宮でまったり怠惰に過ごしていても良いのに、国の先を読み、策を練ってるし……。でも止めてもリアンの性分だから無理だろうな。
師匠に会えばなにかしらヒントをくれる。確信してた。だけといなかった。訪ねて来ることを知ってていなかったのか、いつものようにフラリといなくなっただけなのかはわからない。あの人は一筋縄ではいかない。王宮で仕事してほしいと頼んでいるが、父が王の時代から断られ続けている。
でもそれでいいのかもしれない。おかげでこうして王ではなくただのウィルとして遊びに来れるわけだし。
「学友達に王様からリアンを奪えとか言われた」
フフフッとオレは思い出して笑い声が出た。セオドアが眉をひそめる。
「ウィルバート様は素性を明らかにしないのですか?」
「バレたら気軽に来れない。でもあの私塾へ通う人達は優秀な者が多いから、そのうち王宮で会うことになるだろう。その時のためにとっておこうかと」
「驚かせたいんですか?」
「そのくらい楽しみにしてても、良いだろ?」
良いですけど……と苦笑するセオドア。バレるまであそこはオレとリアンが普通でいられる故郷のようなものであってほしいんだ。そうオレは願う。
リアンはいろんな面で天才的な才能を見せるけど、恋愛に関しては普通の女の子で、それはオレの前だけにしか見せない。オレのことで、不安になってくれ、それが嬉しいなんて言ったら怒られてしまうかな。いや……殴られるかもしれない。
ウィルの僕は学友達が言う通り、ずっと君に片想いしてた。自分から気持ちを打ち明けたかった。だけど王としての自分がそれを阻んでた。
今、やっとリアンから好きと言われたんだ。
あの木の下で寝たふりをしたのは内緒にしておこう。じゃないと、もう好きって言ってくれなさそうだしな。
可愛かったなぁとニヤニヤ笑っていたら、馬車に乗ってきたリアンにその笑い方なんなの?変なんだけど!?とドン引きされてしまったのだった。
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