寄り道回り道

「早目に帰ってきたから、ちょっと寄り道して行こう」


 ウィルがそう言い出した。これに着替えて……と、村娘のような服を渡される。自分も簡素な服に変えている。


 私はウィルの思惑に気づき出し、もしかして!?と驚きを隠せなかった。ニヤリと悪い笑いをウィルはした。


「セオドア、エリック頼むぞ」


 そう言われたセオドアとエリックは顔を曇らせてウィルに難色を示している。二人は王と王妃に変装している。


「早目にお願いします。ここが田舎と言えど、何が起こるかわかりませんから」


「女装って肩こるんだよぉ〜」


 そういう問題ですか!?そうじゃないでしょう!?とセオドアに言われて肩をすくめるエリック。


「行くところは田舎だが、相手が相手だから心配しなくていい」


 私はついた場所で察していた。見覚えがありすぎる場所だった。


「もしかして師匠に会いに行くの?」


「そうそう。なかなか結婚してから会いにこれなかっただろう?あ、リアンは一度だけこっそり行ってるか」


 師匠の私塾はけっこう広い家で……って、今日は静かね。もしかして休講日?嫌な予感がする。


「休みかなぁ〜?」


 まったりとした口調……まさか!?ウィルが昔のウィルになってる!?あのボケーっとしたウィルになっちゃってるわけ!?私がハッ!として横を見ると王ではなくなり、気が抜けたプライベート中のオフの顔をしてる……。


「ウィル、ここにくると条件反射にそうなっちゃうわけ!?」


「えー?どういうことかな?」


 無意識らしい。質悪い……。私はなんでもないわよと言いつつ、私塾のドアを開けた。


「師匠ーっ!こーんにちはー!」


 シーーーンとした静けさ。


「残念。休みだったみたいだね。師匠を探す?」


「探さないわよっ。山にいたらどーするのよ!?」


 山に籠もってしまうことがある。何をしてるのか知らないけど他の人の話では『熊と戦っていた』とか『滝に打たれていた』とか『石の上で釣れない魚を釣っていた』などという噂を聞いたことがある。


「仕方ないなぁ……」


 残念そうなウィル。帰る?と私が提案しかけると、後ろから声がした。


「えっ?お、おい!リアンじゃないかー!ウィルもいるのかよ!」


「マジ!?久しぶりだなあ」


 振り返ると以前の学友達の顔が並んでいた。ウィルがニコッと朗らかに笑って久しぶりだね〜と挨拶をする。


 一人が私を指差す。


「リアン、後宮に入ったのに帰ってきたのか!?大丈夫か!?王様の許可もらってきたのか!?」


「えっ?えーと、大丈夫よ。一時的に帰省の許可がね……」


 その王様は隣にいますけど。むしろ私塾へ行こうと企んだのは王様なんですけど。


 言葉を選ぼうとする私に学友達はニコニコしている。


「ウィルがさ、リアンが後宮に入るのを止めようとして、皆の署名を集めてて……もう涙がでたよ!」


「また会えて良かったな?ウィル、心の傷になってないか?」


「ずっとリアンのこと好きだったもんな……それなのに王様にとられちまうなんて!」


 えええ!?皆の中でそうなってるの!?


「ずっと好きだった……?」


 私が聞き返す。隣にいるウィルをバッと見た。ウィルはそうだよ〜とウンウン頷いて呑気に笑ってる。すっかり以前のウィルのようになってる……。


「気づいてなかったのかよ!?かわいそうになぁ。ウィル、今なら王様から奪って逃げれるぞ!」


 いや、だから、ここにいるのが、王様なんだけど……と、私は思いつつも、何も言えない。


「昔から好きだったって嘘よね?そんなふうな様子は……」


「うん。本当だよ。出会った時からね」


 えええええ!?!?

 

 私の口がパクパクと空気を吸い込む。出会った時?なんかウィルを水だらけにしちゃった記憶があるんだけど、どうやったら、あそこから恋に繋がるわけ?わけがわからない!


 学友達がウィルの肩をポンポン叩いて慰めてる。男泣きしてる人もいた。


「リアン!あまりにもウィルが不憫だ!王様とウィルどっち好きなんだよーーっ!」


 叫びだす学友達。

  

 ウィルと王様、同一人物なんだってば!


 私が返事に困っているのに、ウィルは眠そうに欠伸を1つしたのだった。

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