人形は人間に憧れる
「エキドナ公爵のこと、このまま放置なさるんですか?」
オレは手に持っていた紙束をバサーッと落とした。セオドアに問いかけられて、驚いてしまった。書類を読むふりをしてセオドアの顔を見ていたからだった!
なにしてるんですかとブツブツ言いつつ、一緒に書類を拾ってくれる。
「あ、いや……その……放置はしない。ちゃんと考えてるさ」
そうですかと聞いたわりに興味無さそうに無表情になる。
セオドアが恋?本当に?リアンにはああ言ったものの、実は内心とても驚いていた。セオドアは幼い頃から一緒にいるが、どこか感情を無くしてきたようで、いつも淡々としていた。
同じ年頃でオレの影だと言われて紹介されたときから人の感情も自分の感情もどこかに置き忘れてきたようなセオドアが恋だって?
それは喜ぶべきことだと思った。やっと自分を取り戻したか、自分を1人の人間として認めることができたのかと。
オレはずっとこの時を待っていた。こんな日が来た時に話すことも決めていた。
「セオドア、おまえオレの影を辞めろ」
目を見開いくセオドア。
「な、なにを!?」
動揺している。オレは笑った。
「表舞台に出ろ。影になる必要はない。オレはもう幼い頃のウィルバートではない。大丈夫だ」
「そんな……こと急に言われましても……」
「1人の人間として生きていけ」
「嫌ですね」
え?イエスじゃなくてノーか!?嫌とか言ったか!?セオドアは怒った顔をしている。なぜだ!?
「何を考えているのか教えてください」
「え?いや……」
「陛下?いきなりこんな話を出すということは理由があるはずです」
オレの顔をジイイイイッと見る。こ、怖い。
「と、特にない!」
リアンに様子を見ようとカッコよく言ったのにオレが話してどうする!?ごまかせ!冷や汗が出てきた。
「最近、セオドアが自分の思いを表すようになって嬉しくて……」
「ならば、もう言いません!」
「なんでだよ!?」
「陛下のお側に置いて頂けないのなら、自分など要らないからです」
こじらせてるなぁ………。リアン、ごめん。先に口を開いたのはオレだったと心の中で謝っておく。
「アナベルのことを好きなんだろ?オレの影から出て、好きな女性のために生きていけ。おまえなら騎士団長でも将軍でも狙える!」
そういうことですか……とセオドアは言った。
「リアン様、起きていらしたんですね。聞かれてしまいましたか。……ついアナベルさんの顔を見たら言葉が出てしまったんです」
それを恋と言うんだ!セオドアーー!とオレは心の中で盛り上がる。
「でも自分はずっと陛下とこの国の行く末を見守りたい。その気持ちは変わりません。陛下とリアン様を見ていて、人形だった自分は人間に憧れてしまった。それだけです。アナベルさんもリアン様のもとでずっと仕える覚悟だそうです。目を離せないと言ってました」
「オレとリアンを見て……どうしてそんなことを思う?」
「わからないですか?」
セオドアはそう言って視線をオレから外した。
このセオドアとアナベルって似たもの同士なんじゃないだろうか?主人への忠誠というか思いが強すぎるだろ。
セオドアの心を動かすことは難しそうだった。オレは後でリアンに報告し、怒られる覚悟を決めた。
しかし意外にも彼女は怒らなかった。なぜか優しく微笑んだだけだった。
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