彼女は宣戦布告する
庭園には素晴らしい薔薇園がある。そこでしばしばお茶会が開かれる。
エキドナ公爵を招いた。それがどんな意味があるのか彼にはわかるはずだ。ようこそと私は日がドレスの裾を持ち、挨拶した。
「王妃様からお茶会に招かれるとは光栄です」
爽やかな庭園とはまるっきり正反対の毒々しい雰囲気を持ってるわと思いながら、なるべく朗らかに見えるように努める。私は椅子に座りましょうと勧める。
「先日のパーティーに招待して頂いたお礼ですわ。素敵なペットを飼ってらしてびっくりしましたわ」
ピクリと公爵の目の端が動いた。長く楽しくお茶を飲む気は毛頭ない。さっさと本題に入り、さっさと帰ってもらおう。私は容赦ない言葉を吐き出し始める。
「私の実家のクラーク家の商売の邪魔をして、陛下になにを交換条件としてだしたのかしら?もしかして新しい王妃かしら?それもあなたの息がかかってるお気に入りの娘?」
「本性を現してきたようだな?」
公爵はニコリとも笑わず、人を圧倒してくる。だけど私はそんなことで、怖気づく可愛い女の子じゃないのよ。
ポットからカップへ琥珀色の飲み物を注いだ。ふわりと香る良いお茶の香りがした。
「女とは常に二面性を持つものですわ。特にそれが危険な場所であればあるほど。どうぞ公爵、お茶を召し上がれ。このカップの柄、素敵でしょう?後宮にあったティーセットを使いましたの」
「これは……」
エキドナ公爵は目を見開く。このティーセットはそう……ウィルのお母様が使っていた物で、お茶に毒を盛られた時、このお気に入りのものだったと、長年、後宮にいるメイド長から聞いた。後宮の奥深くにしまわれていたが、今回、特別に使わせてもらった。
彼は知っている。そう私は青ざめ、動かない公爵を見て、確信する。お茶に手が伸びない。
「この国の王妃自らが淹れたお茶が飲めませんの?」
「随分と今日は好戦的な物言いだな。分をわきまえぬ振る舞いは身を滅ぼすと思うが?先日、ウィルバートもやけに威勢が良かったな」
「この国の王妃は私です。そしてウィルバートが王です。分をわきまえぬのはどちらか明白でしょう」
な、なんだと!と怒りを表し出す。優雅さが消えてゆく。自分より身分が下のものに言われるのは身分をひけらかす公爵にとって一番我慢がならないことだろう。
畳み掛ける私の口撃と毒々しいお茶会になろうとは、公爵は予測していなかったらしい。
「私のお茶には毒なんて入ってませんわ。陛下が自ら選んでくださった希少な葉ですし、どうぞせっかくだから召し上がってください。この国の王と王妃からのものを口にできないことはないですわよね」
カップを持ち上げる手が震えている。人を信用していない男、毒を盛る男は自らに返ってきた時にどんな反応をするだろう?と思っていた。私は目をスッと細める。
カシャン!と額に汗をかいた公爵はカップを置く。口をつけれない。
「無理でしょうね」
私のその一言に、睨みつけるエキドナ公爵。尋常な人ならば怯えるほどの眼光。だけど私は怯えより怒りが勝っている。幼いウィルに……今までのウィルになんてことをしてきたのかと!許せるものでは決して無い。そして再び彼に手を伸ばそうとしている。自分の頭上に輝く王冠を載せたいがために。
「どういうつもりなんだ?こんな名誉を傷つけるようなやり方をしてただで済むとでも思うのか!?」
怯えぬ私に動揺している。今まで自分の思い通りになってきた彼は予期せぬことには弱いようだとみた。
「ウィルの嫉妬を利用し、私から三騎士、またはセオドアの護衛を外そうとした。でもそれは叶わなかった」
変な噂を立てたのは紛れもなく公爵が仕掛けたことだと確信している。噂の元を辿り、調べればエキドナ公爵お気に入りの女性が流していたのだった。
「さらに毒蛇で私を脅すか殺すかしたかったのかしら」
「なんのことだろうか?蛇が逃げ出してしまっただけだったが」
「逃げ出した蛇を仕留めたのは私。それがお気に召さなかったのかしら。籠の中に入っていれば生きていられたのにね」
クスクスと笑って私はお茶を口にした。
「小娘がっ!たかだか男爵の位であり、商人出の平民が王家の血をもつ者に対して無礼だろう!後悔するぞ!」
ガタッと立ち上がる。顔が赤い。顏が赤くなったり青くなったりして忙しいことだわ。失礼する!と言ってお茶もお菓子も手をつけずに去っていく。
私の背後に静かに手や口を出さないという約束で、護衛として控えていたトラス、フルトンがふぅと息を吐いた。
「あれでよろしいのですか?」
「怖い怖い。だけど、スッキリしたなぁ」
いいのよと私は高級茶がもったいないわと口をつける。良い香りを吸い込む。
さて、私も仕掛けていくわよ……エキドナ公爵?私とウィルバートどちらを選ぶかしら?
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