王と王妃は互いに知謀を働かせる

 ウィルが今回、自分で策を回そうとしていることに私は気付きだした。私も動き始めていた。だけどその私の動きすら利用し、自分の策に入れてしまおうとしているように感じた。


 この私を駒にするつもり?いつもならプレーヤー側の私が盤上に置かれている。そのことがとても不安に感じ、嫌な予感がする。


「ちょっと待って!」


 部屋から出ようとしたウィルの服の裾を私は掴み、この部屋に私とウィルのみの気配しかいないことを確認し、扉に鍵をかけた。


「なにするんだ?夜には早いけど?積極的なリアンも嫌いじゃないけどな」


 そう冗談っぽく笑ってそう言い、顔を近づけてきたウィルのおでこをペチッと私は叩く。


「冗談だよ。怒った顔をしないでくれ」


「ウィル、ふざけてないで、もうすでに策を考えているならば、話をしてほしいわ」


 私は腕組みをした。問い詰められたウィルは肩をすくめるが、目に譲らないという強さが込められている。


「誰かに話してしまうことで策は崩壊することがある。だからリアンも話さないだろう?リアンも動き出しているけど、策の全貌をオレには話さないだろう」


「いつもならばね。今回はウィル、おかしいんだもの。冷静に動けるなら、私はいつどおりするわよ!クラーク家の事情の情報も早すぎるわ!……エキドナ公爵から脅されているわね?」


 一瞬、ウィルの目が細まった。当たりらしい。


「どんな脅しをされてるの?」


「リアンは知らなくていいこともある」


 それは私が傷つくことだとわかる。ウィルはそんな時は決して話さず、私を守ろうとするだろう。だけど、それをウィルだけに背負わせたくはない。


「私、普段なら一人で策を組み立てていくわ。ウィルが譲れないならば、私とウィル、協力するべきよ。今回はその方が……」


 そこで、私は間をあけ、ウィルをみつめる。


「……その方がどちらかが犠牲にならずに済むわ」


 シンと静まる室内。そしてはぁ……とため息を吐き、ウィルは前髪をくしゃっと手で崩した。穏やかな表情が崩れるウィル。


 やはりそうだった。私は確信した。お互いのたてた策が、よく似ていたことに気付く。


「わざとエキドナ公爵を夜会に行って煽ったな?」


「ウィルもしてるんでしょう!?」


 互いにエキドナ公爵を煽って、自分に矛先を向けようとしている。私は最初、私に向かえばいいと思った。でもどこか違和感を感じた。公爵は私の方をなかなか向こうとしていない気がしたのだ。


「リアン、今回は退いてくれ。オレがなんとかする」


「王がしてどうするのよ!あなたに何かあったら、この国が乗っ取られるわよ!」


 ギュっと私の肩をいきなり掴むウィル。


「それでも!……もう見たくないんだ!二度と目の前で一番大切に思っている人が冷たくなる姿を!そうなるくらいなら、自分がなった方がマシだ!」


 その強い言葉と手に込められた力強さに私は圧される。この声は今のウィルが発したものではない。きっともっと昔の小さなウィルが言いたかったことなのだと私は気付く。今、やっとそう言えた。


「ウィル……」


 ウィルの目は真剣で絶対に今回は譲ってはくれないことがわかった。決して動かない彼の心は。

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