蛇に睨まれた蛙
リアンはたぶん我慢してる。口には出さないが、夜会の前はいつも憂鬱そうだ。
彼女の智謀なら、大抵のやつらは反撃されて潰されるのだが……今は王妃という立場上我慢している気がする。
それもオレのために……。
「そんな健気な娘かね?」
「なんでいるんだ?オレは今、セオドアにリアンの話をしていたんだ!」
セオドアが困ったように見つめる先にはガルシア将軍がいた。
「そう言うなよ〜。今回は騎士たちの命を最優先にしてくれた王妃には感謝している」
「素直すぎて気持ち悪いぞ」
「たいしたもんだよ……あの王妃様は。大事にしろ」
「なんでいきなり良い人になってるんだろう?」
ガルシア将軍が心外だなと、肩をすくめて、訓練に行くと言って去っていく。今回の戦ではリアンはかなり目立った。それをガルシア将軍のように感謝する人もいれば、面白く思わないやつもいるだろう。
「リアンの護衛、オレはセオドアに頼みたいんだが……」
「しかし、リアン様がウィルバート様を優先するようにと言い、引き続きトラス殿に護衛を頼むと……」
どうやらセオドアがオレの影武者とリアンは気づいたらしい。察してからはあまりセオドアには頼まない。
トラスも腕が立つから良いから構わないのだが……性格的に合うかと言われたら微妙だ。
廊下を歩いていると、珍しい人物がいた。なかなか屋敷から出ないはずなのたが、先日の夜会も顔を出していた。
オレの中で、この男が動く時は、要注意だと囁く声がした。
「エキドナ公爵、城に来るなんて珍しいな」
長い黒髪を束ね、黒服を着た公爵はオレを見て、ニヤリと嫌な笑い方をした。
「来てはいけなかったかな?たまにはエイルシア王家の様子を見に来ないと、好き勝手にする輩がいるようだね」
「そんな者はいない」
「政務に………女ごときが口をだしているとか?」
……やはりリアンか。エキドナ公爵はリアンを狙っているのか?それとも?
「オレは男だろうが女だろうが優秀な人材であれは、なんの問題も無いと思ってる。そんな狭量だと貴重や人材は離れ、他国に持っていかれる」
「ついでに付け加えると、このエイルシア王家に商人の血や平民の血などは不要だということだ」
「エキドナ公爵は血筋にこだわりすぎると思うが?」
「こだわる?当たり前の話をしているだけだがね」
言葉が通じない相手とはいるものだ。エキドナ公爵は自分の考えを持っていて、エイルシア王家の正統な血統はエキドナ公爵家だと言いたいのだ。
オレは母が平民だったから……エキドナ公爵の方が血が濃いといえばそうなる。確か、彼の母親も王家の血が入っていた。
そして言った。
「昔から言っているだろう?いつでも王の代わりを務めてあげることができるよとね」
………ゾッとするような殺気。この気配は知っている。幼い頃からずっとこの視線にさらされていた。
「エキドナ……公爵……」
強く言い返すべきだった。それなのに声がかすれる。
「いつでもだよ?ウィルバート」
そう言って、背中を見せて去っていく。
「相変わらず、ごう慢な方ですね」
セオドアが言った言葉にオレはなにも言い返せなかった。
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