王妃の資格

「えっ!?王妃様が怒られてしまったのか!?」


 エリックが大きい声を出す。シッ!とセオドアが人差し指を唇に当てている。


 ……何を話してるんだ?まだ会議中だぞ。無邪気なエリックがオレの視線に気づいて、悪い!気になっていたんだーと笑う。セオドアはリアンに肩入れし過ぎだな。三騎士になぜばらす? 


「陛下、セオドアを射殺すような目で見ないでください。どうしたのかと三騎士の我々が気になったので、尋ねたのです」


 トラスが落ち着いた声でそう言う。


「どうもしない。王妃はオレを心配するあまり、塞ぎ込んでいて、体調を崩してしまった。しばらく療養のため、クラーク家へ帰す!以上だ!」


 怒鳴って立ち上がり、会議を切り上げてオレは出ていく。


「陛下!?」


 三騎士とセオドアが立ち上がって追いかけてくる。他の臣下はザワザワし、その場に残る。廊下で追いつかれる。


「なんだ?」


 オレが鋭い目をし、低い声音で聞き返すと、ウッと勇敢なフルトンすら怯む。


「怒りすぎでしょう?あの王妃はでしゃばりすぎたものの、あの策がなければ我が国は救われなかった」


「トラス、リアンを気に入ったか?」

 

「陛下……落ち着いてください。なにをそんなに……」


「リアンは敗戦した時、自分の首を賭けていたんだぞ!オレはそこまでさせてしまった!」


 ギリッと奥歯を噛み締める。その瞬間、珍しくセオドアが抑揚のない声で長い言葉を吐き出してきた。


「陛下はたった1人です。王妃は代わりがいる。それだけだと思います」


「オレにとって王妃はたった1人だけだ」


「だからこそです。最愛の王妃だからこそ負けた時に差し出すものが自分であれば価値があるとリアン様はお考えになった。王妃や子供を政治に利用する国は多いでしょう?陛下が1人しか娶らないのはけっこうですが、このような時に困るのでは?差し出すためにリアン様以外にも後宮に他の女性も入れるべきです」


「……セオドア」


 影のようにオレの傍にいて、最近はリアン寄りだなと思っていたのに口から出る言葉は残酷なものだった。


「あなたの影となるべくして育てられたのです。すべてが陛下優先の考え方かもしれません。無論、リアン様のことは嫌いではありません。出過ぎたことを申しました。申し訳ありません」


 言わせたのはオレだ………そう思った。


「まあ、王妃様の権限は越えてるから罰は必要かもねー。陛下、騎士団の皆のところへとりあえず行って、労ってくれるかな?なんか答えは落ちてるかもよ」


 エリックがそう明るく言った。オレは無言で身を翻し、その場を去った。


 騎士団の区域に入ると皆が忙しそうに戦の片付けをしていた。オレに気づくと胸に手を置き挨拶をする。


「皆、今回の戦、よくやってくれた」


 そう言うと顔を見合わせる騎士たち。そして笑った。


「今回の功労者は陛下とリアン様でしょう!?」


「見事な策をありがとうございました」


「行く前は恋人に別れを告げていったくらい死を覚悟していたのに、驚きましたよ!」


「リアムなんて名乗って、最初からバレバレの変装してる王妃様には笑わせてもらいましたし……」


「勇敢な獅子王と賢き王妃がいる我が国は最高ですよ!」


「エイルシア王国に栄光あれ!」


 ウオオオオ!と盛り上がる。


 ……なんだ?これ?


「おー。留守番してて、話を聞いて驚いた。その場にいたかったぞ」


 ガルシア将軍がつまらなさそうにそう言って、スッと真面目な顔つきになった。そしてオレの前に跪いた。


「騎士の部下達を誰一人として、死なせずに帰ってきたのには驚いた。心より感謝する。素晴らしい王と王妃に最大限の礼をする」


 将軍が跪いた!?オレはしばらくその場から動けなかった。


 将軍の跪いた姿を見て……他の騎士たちが次々と膝をついていく。しばらく動けなくなった。


 ……王と王妃。背中合わせで戦える。そんな王と王妃がこの世界にいたって良いのかもしれない。二人で立ち向かえることはオレを孤独な王にしない。 


 離縁しようと言ったのは、リアンが王妃であれば無茶をするからだ。でも必要なんだ。オレにはリアンを手放せない。わかってる。あの日からずっと寝れない。夜になると一人でいる孤独がヒシヒシと感じられる。その感情囚われてしまい眠れない。


 自分勝手だなと思う。リアンの安全と幸せを考えたら手放すことがきっと正しい。


 だけど跪いた将軍と騎士達がオレに勇気をくれる。あの天才彼女を迎えに行けと。オレだけじゃない。


 皆が必要としている。


 だけどリアン、オレはこの先、君を守れるだろうか?

 

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