27話 5月19日 Ⅰ
5月19日
昨日と同じようになんてこともない日だった。
すずちゃんと綾ちゃんは少し遅れるということで私だけ修練場と化した自分の家に向かっていた。
帰る道を歩いていると、前を歩いている女性に目がいった。
明らかなブランド物に身を包んでいて両腕には大きな紙袋を左右合わせて6個位抱え込みながら歩いていた。
あまり知り合いではない人を注意深く見る趣味はしていないが、それでも気になってしまう姿だった。
そういえば、ニュースでやっていた例の連続強盗が狙っている条件に目の前の人は当てはまる。
まぁ、わざわざこんなところに来ずとも中心地の方がさらに凄い人がいると思うしなんて事ないか......。
1台のタクシーが私を追い越し進んでいた。
タクシーが通るなんて珍しくもないし当たり前の光景だった。
だが、一瞬、運転席側の窓が開き、そのまま走り去っていったのを私は見た。
目の前の女性がいきなり挙動不審になっていた。
その場でしゃがみ込みおそらくブランド物が入っているであろう紙袋を無我夢中で弄っていた。
次第にその動作がゆっくりゆっくりとなくなり、手を止めその場に呆然としていた。
奇妙なことが起きたので私の周りにいた人達も恐る恐るその女の人に声をかけた。
「あの......大丈夫ですか?」
「ないの......」
「はい?」
「ないのよ、さっきまでここに入っていたネックレスや指輪が入っているケースが箱ごと」
それを聞いた周りの人はざわざわと様々な声や響きが遠く近くで交差した。
「あれって、ニュースでやっていた強盗の仕業じゃね」
「マジかよ、初めて生で見たよ」
「怪しい人なんていなかったのに」
「また、新たな被害者か〜」
「取り敢えず、警察に連絡しようぜ」
私は目の前の女性より今尚、遠くに進んで行っているあのタクシーに目がいった。
どういう理屈かわからないけど、あのタクシーが何かしらの鍵を持っている。
群衆の中を進み、ようやく抜け出すことに成功した。
息を整えて急いでタクシーの跡を追った。
初めは走っていたがそのその人間がスピード全開で走っている機械の塊に追いつけるわけがなかった。
何で、急に走ったのか自分でもわからなかった。数分前の私を殴りたい。
握った拳を納め、深く深呼吸した。深呼吸したことで冷静になり次どう行動するか考えた。
1.引き続き走る。
2.こっちも別のタクシーに乗って、前のタクシーを追跡してもらう。
3.変身して【スパイダー】で移動する。
1.の方法をもう1回やるなら、私は相当バカである。
人と自動車には明確な格差がある。
例えば、比較的走るのが得意で周りよりも足が速いという人の走る速度ですが、仮に100mを12秒ちょうどくらいで走れるとする。100mを12秒で走る人は平均時速30km/hで100mを走り切るという事になる。
有名な走る選手の場合はそれ以上早いはず。そして逆に走るのが苦手な人や女性の方などは100mを本気で走った場合でも20秒以上かかる人も居る。その場合は平均速度として18km/hとなる。このように同じ一般人でも人によって走れる速度というのは大きく変わってくる。
比べてタクシー......自動車は人がアクセルを踏めば、それが力となって徐々にスピードが上がり歩いている人を置き去りにできる。
人は絶対に走って自動車に追いつくことはできない。なので、この案は却下。
2.どこまでいくのか分からず、しかもお金が......。
お金はないわけじゃない。理事長を務めている巌(いわお)さんや璃子さんが株や何やらで稼いだお金を一部私の口座に入っている。一応、別名義の口座になっている。約10年も行方不明として扱われ、脱出しても組織の目がどこにあるか分からない以上、迂闊に本名で登録はできない。意外と登録が完了になったので、私専用の口座ができた。
今回、タクシーに乗れるだけの軍資金はある。それもえらい数字でして......。
正直、高校生の私が全て使うのは早いということで、今はクロに管理をお願いしている。私もあれだけのお金は金銭感覚が狂うと感じていたため、必要な額をクロに言ってもらっている。
クロの管理はありがたい......。
なので、これも却下。
3.前2つの案をなぜ、出したのか分からないが、初めからこれにすればよかったんじゃ......。
という訳で気を取り直してタクシーを追うことにした。
いつものごとく、表通りの道から外れ、念の為、サングラスで認識阻害してから【レッド】に変身した。
【スパイダー】の糸を使ってタクシーを追いかける。
確かに糸を使う移動手段は良いんだけど、もっとこう、文明の利器を使いたいというか一応、この怪盗装備も十分、高度な技術。科学の成果である。
でも、飛行機から飛び降りて奇襲したり、バイクで移動したりと一度はやってみたい衝動に駆られる。今度、璃子さんに提案してみよう。
などど考えているうちに目的のタクシーが近くに見えてきた。
自動車を破壊することになるが、悪さをする方がいけないんだと心で思いながら、【スパイダー】の糸を戻し、マガジンを別のに装填した。
『ライオン』
長押しするかのように引き金を引くと銃口に黄色球体が出現し中にオーラが溜まってきていた。
時間が経つにつれてどんどん大きくなりハンドボールぐらいの大きさになったところで一度、引き金から指を外し、もう一度、軽く引き金を引いた。
その結果、球体は目的のタクシー目がけて空気抵抗を一切ものともしないように、一直線に向かって放たれた。次第に黄色球体から段々、形を変え、ライオンを模した姿に変わりライオンが大地を駆けるような動きでタクシーに攻撃した。
あのライオンには狙った方向に必ず向かう性能をしていたのかタクシーに直撃だった。
まともに食らったのでタクシーは燃え、次第に炎上した。
足を止めるためにやったが、モロに当たってしまい絶賛、タクシーは炎上している。
「これ、力加減が必要だな......」
ハンドボール位の大きさでこれだけの威力だ。もっと時間をかければそれだけ威力が上がるし逆に少し引き金を引けば威力が低いが数弾のオーラショットが可能かもしれない。
今回の決定は威力の匙加減の調整が鬼仕様ということと引き金を引くこと。少なくとも2回は必ず引き金を引く動作をしないとライオン弾は出てこない。
自動車が炎上したのを見た運転手たちは急ブレーキしていた。普通に停止したり、中には勢い余ってハンドルを切って横向きに止まってしまった自動車もいた。残念ながら最前列で走行していた車は横転して、車のルーフ部分、即ち、車の屋根が下になりアスファルトと擦れる感じで走行しタクシーと同じように燃えた。
自動車の動きがなくなると私と目の前のタクシーを取り囲む感じのステージが出来上がっていた。
タクシーと数台の車の影響で辺り一面、灼熱の炎が広がっていた。そして、その炎は近くを歩いていた通行人、運転手にも襲いかかり、瞬く間に日常が恐怖に塗り替えられた瞬間だった。
次第に人々の悲鳴が大きく響き、それにつられて1人、また1人と同調するかのように悲鳴を上げた。
燃え上がっているタクシーはその形が見る影もなく散っていったかと思えば、炎を背にこちらの方に歩いてくる1人の影がいた。
全身ブルーグレーのネコ型のソドールがいた。毛色はブルーグレーのみで統一されており、瞳の色はゴールド。本当なら綺麗な毛並みに明るい瞳で佇むに優雅さと愛くるしさを兼ね備えた魅力的な猫を想像できる。しかし、目の前にいる猫型のソドールにはそんな美しい猫からは想像もできない位の滑稽な笑みを浮かべていた。
右手には猫の手を模したと思われる熊手を所持しており、左手には指先まで伸びている鋭い爪を展開していた。
身体の各部に黄色の装飾品を身につけていた。
胸部分には車のヘッドライトをアーマーの様に纏っており、手の甲、肩、足には黄色がペンキで塗られたようになっていた。
「いきなり後ろから攻撃するとは卑怯じゃなくて? おかげで背中がまだヒリヒリするんだけど」
柔らかい笑みを出しながら私に話しかけた。
「ごめんなさいね〜! この子の調子がどうにも良くなかったからー!」
持っていたクイーンズブラスターASKの銃口に軽くキスしながら相手を挑発もどきをして見せた。
それよりもさっき自分の背中が痛むって言ったのかしら?
その言葉に嘘偽りがなければ、タクシー自体がやつと考えられる。どういう理屈か分からないけど猫からタクシーに、その逆のタクシーから猫に変態できるということなのか。
「偶々、追いかけたらソドールに出くわすなんてついてるわね!!」
「......もしかして、あなたが噂の怪盗さんかしら? 私のような力だけを狙っている謎の怪盗」
「どうも、その噂の怪盗さんです!! 話が早くて助かるわ。早速で悪いけど、あなたの成分(力)頂くわ!!」
「生憎、この力はまだまだ有効活用できるの。誰にも、渡さないわよ」
熊手を畑を耕す様に大きく振りかぶって、攻撃してきており、左足を浮けせ、右足に重心をかけながら、斜め後ろに振り上げ、すかさず右に避け、右手に持ってるクイーンズブラスターASKを身体が斜めになっている状態で数弾撃った。ネコ型は左手の長爪で銃弾を弾いた。
私の方は右に向かって、右側にお尻を落とし、斜めに後ろに倒れながら、身体を廻し、左膝を地面につけ、右足は立て、ひざまずく様なポーズを取った。
すかさず、立ち上がり、体勢をと整えた。
ヒュッ!
槍の突きの様にこちらに向けられた音。
「おっと!」
これもまた避けることができた。今度はギリギリだったけど。
私の脇腹を熊手が鋭く過ぎ去っていく!
こちらからも攻撃を仕掛けたいが熊手と長爪の容赦ない攻撃を避けるで精一杯だった。
よっ!
ほっ!
上から降りかかる熊手の攻撃を身体を横向きにして攻撃を再度避け、左の長爪からの横薙ぎの攻撃はジャンプしたり、屈みながらやり過ごした。
また、槍のように真正面から熊手による突きを
ピカッ!!!!
ネコ型の胸部分のヘッドライトが明るく光を出し、ライトで顔を照らされた私は、眩しさのあまり、目を抑えた。
目を開けることができなくなるくらいの強力な明るさにしばらく目が見えない状態になる。
前屈みなりながら目を抑えていると、突如、身体が軽くなった。浮遊感が私を襲った。
微かに開けることができた右目で見ると宙に浮いていることがハッキリわかった。
ガッシャァァァァァンッ!!
大きな音が耳に入り込んだ。
初めに、背中に痛みが入り、徐々に全身に痛みが巡った。
「イッタァァ!」
何かに打ち付けられた私は、宙から地面に落ちた。私が地面に落ちたと同時にガラスが私に被さるように落ちてきた。
首だけ後ろを向けると転がっていた車に激突しているのがわかった。
後ろの車と自分の背中を密着させながら立ち上がった。
着ている怪盗服のおかげである程度のダメージを抑えることができたが、目を抑えていた両手に向かって全力の蹴りを入れたのか凄まじい痺れに襲われ、近くに置いてあった
「まぁ、そんだけのダメージなら当分は動けないでしょうね!! じゃあ、さようなら!!」
そう言い残したネコ型のソドールはその場で上にジャンプし、宙で高速で回転した。
次第にブルーグレーの色が黄色に変わり姿も鋼鉄のタクシーに変わった。
「バイバイィィイィッ!!」
運転席側の扉を手を振るようにパタパタと開閉動作をしながら去っていった。
27話現在、灯達が使えるソドール能力。
No.14 ライオン 白黄色
No.25 カメラ 黄茶色
No.33 ホッパー 青ピンク色
No.35 スパイダー 赤紫色
No.37 マント 黄緑青色
No.47 シャーク 青水色
No.48 ボーン 茶橙色
No.52 ダイヤモンド 水白色
No.53 ミラー ピンク赤色
No.55 クレーン 煉瓦橙色
No.56 ラッキー 茶黄緑色
No.59 アイヴィー 緑黄緑色
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