20話 神聖な大人の憩いの場へようこそ

 どうも、皆さん!! 天織灯(あまおりあかり)。高校2年生です。

 ちょっと前まで緑溢れる森林にいましたが、色々、ありまして無事に帰ってくることができました。帰ってきて早々、坂本零冶(さかもとれいじ)さんに連れて行かれ何故か今、とある大人な店にいます。大人って言ってもその......エロい店ではありません。絶対です。信じてください。

 私がいるのは大人な雰囲気が漂うバーに来ています。


 名前は「バーSIRIUS」

”光輝くもの”を意味する最も明るい恒星からとっているそうです。


 高校生なのでバー、お酒のお店には行けないので妙にソワソワしています。

 まだ、開店前なのでスタッフ以外はいないので他のお客さんに見られていないのでソワソワする必要はないのですが、落ち着きません。

 私は今、バーカウンターでポール部分が長い椅子に座ってここのオーナーの凛田景子(りんだけいこ)さんからミルクを頂き、飲んでいます。


 そして......。私をここに連れてきた張本人の坂本零冶(さかもとれいじ)さんは床で伸びています。右頬には殴られた後があり、カエル足になっていてピクピク痙攣しています。


「ごめんなさいね......。このバカのせいで怖い思いをさせてしまって......」


「いえ......。大丈夫です。最初は驚きましたけど、何かあるのかなって思いましたし......」


「良い子ね!! 貴方!! お名前は?」


「天織です、天織灯(あまおりあかり)です!!」


「灯ちゃんか、よろしくね!! 私は凛田景子(りんだけいこ)よ!! この”バーSIRIUS”のオーナー兼バーテンダーをやってるの」


「バーテンダーって確か、お酒をつくる人のことですよね??」


 バーテンダーとはお酒に関する深い知識を持ち、シェイカーなどの道具を使用することでカクテルの調合を行う人たちのこと。

 カクテルとは、数種類のお酒、果汁、薬味などを混ぜ合わせた飲み物。

 ミックスやドリンクのことを指すらしいがベースがお酒なためアルコールが入っている飲み物は未成年は飲むことができない。


 凛田さんの背面にはジン、ウォッカ、ウイスキーなどのドリンク類、種類によって使い分けているグラス類が多く並べてあった。



「安心してよ、それ本当にただのミルクだから!!」


「はい、いただきます!!」


 1口飲み、グラスを置き、早速、本題に入った。


「それでーー私が呼ばれた訳は何なんですか??」


「そうよね。良い加減、話さないとね。その前に......」


 バー・カウンターから客間に出てきた凛田さんは伸びている零冶さんを叩き起こした。


「良い加減に起きなさい!!!!!」

 零冶さんの身体を前へ後ろへと力強く揺らしていた。


 ようやく、意識が戻った零冶さんは何事もなかったかのように私の隣に座った。


「景子!! ジャックローズを......」


「全く、開店前だっていうのに......」

 ため息をつきながら凛田さんはバー・カウンターに戻り、注文したカクテルを作って行った。


「突然すまない。どうしても、早急に連れてきたかったんだ」

 そう言って、コートの内ポケット何かを出した。


「ーーーーーこれを見てほしい」

 零冶さんが取り出したのはーーーーーーーー数枚の写真だった。


 零冶さんは写真を取り出すなり、テーブルに広げてみて、私に見るように促した。


「これは一体何ですか......?」

 私は写真の中から1枚手に取り、中身を見た。暗くてシルエットしか分からなかった。

 1mぐらい長い太い棒、馬顔とよく似ているようだが顔部分には2本の棒?が刺さっており、両肩に縦長に盛り上がっている姿がそこにあった。


 なんだこの奇妙な姿......??


「こ、これ何ですか......??」

 私は零冶さんに訊くと、零冶さんが顔を手で覆い、なんとも言えない状態になっていた。

「3日くらい前、丁度君が林間行事に行った夜にこのバーの道路を挟んだ向かい側の工事現場で目撃されたんだ」



「でも、これーー合成写真とかじゃないんですか??」


「最初は俺もそう思ったんだが、近藤が2日前に直接行った時、現場に置かれていた資材を壊している姿を発見したらしい......。そいつに見つかった近藤は怪我して今、入院している。被害者が出たため警察が出動し、今、工事が休止している状態だ」


「それってソドールの仕業ですか?」

 カクテルを作っている凛田さんに聞こえないように小声で話した。


「まぁ、そういうこと」


 そこでふと、疑問に思ったことがあった。

「それなら、夜に現場に行けば良いんじゃないですか?」


 慌てて私を零冶さんに引っ張られてこのバーに訪れた。そもそも、工事現場の事件とは関係ないバーに来る必要がない。しかも、こんな昼間に。

「実はこの事件でここで働いている子たちが気味がるがって休んだのよ......」

 零冶さんの前に注文したカクテルを出しながら苦笑していた。


「どうぞ、ジャックローズです」

 情熱的な真っ赤な色をしているカクテルが出された。

 見た目もさる事ながら、りんごの清々しい芳香と甘味のあるカクテル。


 零冶さんがカクテルグラスの脚の長い部分を持ちながら一口、飲んだ。

「初めて飲んだけどりんごの香りが良く、甘味のある飲み口でうまい!!」




「このままだと、シフトが回せなくなるの......」


「事件が解決するまでお店を閉めれば良いのではないのですか?」


「俺も初めはそう言ったんだが・・・・」


 凛田さんが指でバツマークを作った。

「そういうわけにはいかないの。このバーに来てくださるお客様は、ここを大切な場所だと思ってくれているんだから。たとえ、私だけでも営業して見せるわ」


 それを聞いて私は自然と口角が上がった。

「それで私ですか......」

 自分に指を差しながら首を傾げた。


 零冶さんが指を鳴らしながら私の方を向いた。

「そこで白羽の矢が立ったのが、接客経験もあり、見た目よしの完璧な人物で早急に見つかる人物、天織灯様ってわけだ。姫様ならこのピンチを救えるんじゃないかとね」


「いやいや、ダメですよ!?」

 顔の前で手を仰ぐように無理無理ポーズをとった。

「それに、零冶さんも知っているでしょう、この前の私の接客の様子......」

 GW中に体験って形で零冶さんの知り合いのカフェで接客をしてみた。

 初めてだったのも相まってかなりぎこちなく作業していたのが脳裏に蘇った。


「大丈夫だって!!! あれから、色々変わってきている姫なら十分、対応できるよ。俺が保証する!」


「また、そんな根拠のないことを......」



「そうよ!! 元々はあんたのせいでこんなことになったんだからね......」

 凛田さんは細い目でニッコリした表情で零冶さんを見ていた。

 決して、笑っている表情ではなく、静かな怒りを漂わせていた。


 すかさず、零冶さんは首を横に向け、口笛を吹いていた。



「えぇ!? そうなんですか??」


「うん、こいつがさっき会話で出てきた近藤ってやつと工事現場のことをここで話していて、それを聴いてしまった従業員の子が広めたの。実際、来てくれた子がこんなに綺麗な子だとは思わなかったけど」


 勢い良く店の扉を開け、涙目になりながら無理やり引っ張って連れてこられていた私を見た凛田さんが零冶さんに向かって怒りの鉄拳を放った。


「こんな綺麗な子が中年のこいつと知り合いなんてどう考えていてもおかしいから、つい!!」


「失礼だな、ちゃんとした知り合いだ!!」


「ねぇ、灯ちゃん......。家族が人質にされていない?」



「してないわ!!!!!」



「一応、何にもされていないので安心してください!」


「おぉーい、姫さん、”一応”は余計だよ。他の人にあらぬ疑いをかけられるから......」


「何かあったら、すぐに言ってよ。今度はパンチ以外もお見舞いするから」



「そういえば、お2人はどういう関係なんですか??」


 中々、気心知れた仲だと感じる。

「同じ大学のサークル仲間だったの、私達......。なんだかんだで一緒にいることが多かったし、卒業後の時々会っていたんだ」


「恋人関係とかじゃなかったんですか?」


「なんか不思議とこいつとはそういう関係じゃなくて友達感覚だったの」




「色々、あるんですね。男女の関係って......」

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