14話 男の欲望は何処までも
情報でしか聞いていないが目の前でクロと対峙しているのが元部下である悪魔の1体。
風貌は明らかな原住民のような見た目で蛮族が着ている衣装に身を包み、それらとは明らかに場違感する近代的なチェーンソーを巧みに扱っている。
私はクロと契約をしている。
契約内容は60体のソドールの能力が封じ込められている人形を回収すること。
そのための力をクロから与えられた。曲芸じみた動きも可能であるが自分がその動きを知らないため、見よう見真似をやっても身体が追いつかない。
クロ達悪魔と違って私は人間の部類に属しているため、傷を負えば完治まで時間もかかるし、先程、クロがやって退けた回避技は多分、私達は出来ない。
黄華(こうか)ができると思うがベースは私の身体なのであんな曲芸はやるものなら後日、身体が動かず人として終わるかもしれない。
悪魔との契約には当然、対価が必要だ。お金や物だったりなんでも。
私は2つの願いを叶えてもらう。
その願いに釣り合うように相応の対価を支払う。
クロへの対価は元部下7体の悪魔の回収。本来、悪魔が現世にいるだけで何かしら影響が出る。1体でも最低、戦争が起こるレベルになる。それが7体も現世に出現したため、早急に対処しなければなれないとされている。
本来なら悪魔が裏で手を引いている組織が世界を手に入れ完全なディストピアになっていても不思議ではないらしい。だが、今普通に生活ができている時点でクロは違和感しかないと常々口にしていた。
そしてもう1つはーー。
研究所から脱走して数ヶ月が経った後に聞いた対価。覚悟はしていたが、それなりの代償だった。クロは魔王と呼ばれている絶対支配者の1個下に位置している階級の持ち主だったらしく
その契約も高価なものとなっている。なんの力も持っていない10代の女には支払えることは出来なかったが、魔王からの直々の計らいで軽めのものになったらしい。
因みにソドールの戦う前にやっていた罰ゲームは悪魔との契約には関係ないらしく、友達との遊び感覚と考えてほしいと言われた。
本来のクロの力は今私の中にある。残っているのがいろんな容姿に瞬時に変身できる技と悪魔を封印する技のみ。
なので、基本クロは支援に徹している。だがクロはやはり元部下が暗躍し情報も皆無に等しかったので見つけ次第少々、冷静さを失って状態で前に出てしまった。
先程の攻撃後、少し冷静さを取り戻していたのでいつもの動きになっていた。
内心、ホッとしている。
クロの方は大丈夫と確信し自分は目の前のソドールと対峙した。
一言で表すと人間サイズのクワガタだった。後ろに膝まで伸びている輝く虹色のマントを羽織りながらこちらを向きながら身構えていた。
全身黒光の金属のような光沢を放ち甲虫のクワガタとは違い6本の足はなくちゃんと2本の腕のみとなっている。両腕には肘から手首まで無数の刃がついている。頭にはクワガタの特徴を表す2本の大顎がある。
確かクワガタは挟む力が非常に強靭とされていたはず。それに両腕の刃も厄介ね。
しかし、なぜこうも私は無傷ではいられないような能力を持っているやつばかり現れるのか。
もっとスマートに成分を回収できれば楽に仕事ができるのに。
さらに全身が金属のような光沢であり皮膚も硬い外皮に覆われているため注射器の針が通らない。
やれる行動は各部位の甲殻の隙間に針を刺すことと各関節をとりむき出している切断面に刺すこと。
さらに、警戒しないといけないのがあの虹色に輝くマント。
わざわざ膝よりも少し長いのは何か意図があるのではないのかと考えてえしまう。
なぜなら、膝ぐらいの位置にあるなら自由に移動ができず行動に制限がかかり自分の攻撃の邪魔になってしまい無茶な動きも出来ない。あと単純に絡まると思う。
なら、あえてそれを身につけているのはあたかも弱点だらけですよって誘っているはず。そう油断した相手をなんらかの能力で倒す。
となれば、近接戦闘は避けるべきね。鋭利な刃と正体不明のマント。
不安要素しかないこの状況では回避特化にして【スパイダー】や【アイヴィー】などの捕獲系の能力で迎え撃つしかない。
特定のマガジンを装填しようと準備するが生憎、【スパイダー】は品切れらしい。
多分、クロが使用中。ソドールの能力が封じ込めれているマガジンはオンリーワンの物。
複製はできなかったらしい。単に成分の回収量が少ないとかではなく、本当に1つしかできないらしい。
クロと共同で使用しているため、どちらかが戦闘で使っていたらもう片方は使えず、他で補うしかない。幸いにも同じ捕獲系が増えたことでいくらかその問題は解消されているが、能力の性質が異なる為、油断できない。
壁が近くにあれば【スパイダー】を起動させて蜘蛛糸でソドールの動きを封じてから成分を採取する。
私は基本、移動用でしか使わない。意外と蜘蛛糸を発射させるのは集中力と正確性が求められる。
【アイヴィー】は基本、地面と養分があればどこでも使える。
クワガタ型の周りの地面に【アイヴィー】弾を撃ち、瞬発的に成長し敵目がけ襲い掛かった。
蔦が全て一斉に敵に向かったため、固まっていた地面が削れ顆粒サイズになり、軽い煙霧のように舞い上がった。
砂霧が消えかけ前が見える状態になったが、射出した蔦が枯れ始めていた。
【アイヴィー】の蔦は瞬発的に成長し攻撃したり敵を捕縛できるが欠点として持続させるために養分を早急に必要であり、獰猛な肉食動物が獲物を狩るが如く勢いよく養分を摂らないと途端に枯れてしまう。
枯れたのなら攻撃が避けられたと考えられる。
自分の後ろが影で覆われていた。先程まで誰か居た気配はなかったがそれは突然現れ、自分の背後に近づいていた。振り返って防御しようとしたがクワガタ型の両腕に備え付けられている刃の攻撃を受け体勢を崩しながら後ろに転がった。
連続で攻撃が来ると考えられるのですぐさま体勢を戻した。
「なぜ、僕の邪魔をする......」
「貴方がその力を悪さに使っているからよ。その力を貴方が持っていいモノじゃないわ。貴方の成分ーー回収させて貰うわ!!」
「悪いが自分の目的のためにこの力は誰にも渡さない」
「目的?」
「よくぞ聞いてくれた!!!」
大きく息を吸い、そしてーーーーーー。
「この力で僕は女風呂を覗くんだぁぁぁぁぁぁぁああああああっ!!」
人とは欲望に正直な生き物。自分の心が欲しているもの・望んでいるものを得たときに、人は幸せを感じられる。
人間が欲するもの・望むもの、つまり幸せを感じられるものは、人それぞれにたくさんある。自分が望んで努力すれば得られるものがいろいろあるはず。
何かを得るために努力することは否定しない。
ただ、これはーーーー。
目の前のクワガタ型以外の周り者達は笑ったり、苦笑いしたり、冷淡な目を向けていた。
黄色悪魔はクロが臨戦体勢しているのに腹を抱えていた。
「人間はやっぱり面白いな!!」
「時々、人間ってわからないわね......」
「ちょうド、もうすぐ学校行事があるからそれまでに能力を把握してる最中ダ!!」
「学校行事......?」
「あぁ、やべぇ......。貴様ァァ!! 知られたからには生かしておくわけにはいかないな......」
「あなた、さてはバカなんじゃないの......」
「初対面の相手ニ失礼ダロうガ」
「いや、貴方が自分で喋ったじゃないの......。まぁ、そんなことのために使うのなら、ますますここで回収するしかないわね!!」
地面を蹴りながら垂直線状に進んだ。そのまま、右手に持っている
何かとぶつかり攻撃がキャンセルされ、弾き返された。
クワガタ型の分厚い皮膚ではない。明らかに金属音が鳴り響いていたからだ。
周りの縁は白く中央は紅色になっている円状の小型の盾。全身は白となっている。両肩・腕周り・膝部分に、赤?いや紅色のアーマーが付けられていた。右肩後ろには何かを収納しているバックパックの様なものを装備している。右手には紅警棒も持っておりクワガタ型の刃を防いでいた。
「以前、言ったはずだーー今度、会ったときは捕まえるとーー怪盗」
「そして、貴様もだ。ソドール!!」
正義の心を持った熱い男が対峙していた。
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