6話 蟷螂と鏡へトゥギャザー
遡ること1時間前。
灯とクロは家に帰宅していた。
2階の事務所の奥にある秘密の扉を開け、中に入っていく。
そこは、事務所のように落ち着いた雰囲気のある部屋とは違い、サイエンス色が強めな開発ラボに何か作業をしている璃子(りこ)さんがいた。
入って目の前に、大学の研究室で使われているらしい黒色の机。左側には上部分が半透明で中が見えている縦長の冷蔵庫のような形の箱が設置されており、後ろには、その箱と直結しているスーパーコンピューターが置いてある。奥で背を向けながらパソコンで何か操作している璃子さん。
「お帰り、2人とも」
キーボードを目にも留まらぬ速さでタイピングしながら作業していた。
「よし、出来た!!」
右側に設置されていた箱が光り出し、光が収まると、電子レンジで温め終わったような音を出しながら、半透明のドアが開いた。寒い時に息を吐くとでてくる白い煙が出ていて天井に向かって昇っていきながら、璃子さんは中に入っていたモノを取り出した。
「お待たせ!! ちゃんと、正常に使えるようにしといたから」
渡されたのは、片方には黄緑色、片面にはNo.59と彫られている弾倉だった。
「前回、採取したソドールは蜥蜴と蔦の複合でちゃんと使えるようになったのは蔦のほうだったよ」
ソドールの成分を回収しアイテムにすると敵が使っていた能力の内、1つが受け継がれる。
ガチャの様なもの。良い性能悪い性能もある。成分が入っているマガジンを装填し、引き金を引くことで入っている能力が活性化し使用できる。しかし、出てくる能力は本来のソドールより劣っている。
例えば、今回出てきた能力【アイヴィー】だとソドール本体は無制限に蔦を排出できる。灯達が使用すると養分がないとすぐ使えない。全力の能力を使用できる人はかなり精神力・忍耐力・感情のコントロールに長けていないとソドールに侵食されて理性的な行動が一切なくなるため本能的な行動を取ってしまう。
No.59 【アイヴィー】
可変式変身銃クィーンズブラスターASKに装填することで使用可能。
トリガーを引くと弾丸の代わりに種が発射され、種が発芽し4本の蔦が出現。
対象者を捕捉し、動きを止める。葉は掌状に浅く裂けるか、完全に分かれて複葉になり、落葉性。巻きひげの先端が吸盤になり、基盤に付着する。
「さっそく、試してみますか」
私はラボの右側に備えられている部屋に行き、広々とした空間に移動した。
この空間は実践場となっており、浄化品となったソドールの能力を試し、実用可能まで練習する場所。かなり頑丈な造りをしているため、多少暴れても外には響かないようになっている。
白いフレームを懐から取り出し、左腰に付けているホルダーには、赤・青・黄、3つのスライドキーが収納されている。赤いスライドキーを持ち、フレームと合体することで高校生、天織灯は怪盗レッドクイーンに変身できる。
『レッド!』
愉快な声が鳴り、私はトリガーを引いた。
黒髪から真っ赤な髪に変更になり、モデル体型のような細い体は烏の羽のような艶のある黒色のワンピース・ドレスに包まれている。ドレスの上に羽織っている深みのある華やかなワインレッドカラーのコート。
今は、身内しかいないためマスクは付けていない。
【アイヴィ―】
No.59の弾倉を装填し、地面に向かってトリガーを引いた。
打ち込んだ場所から4本の蔦が出てきた。通常は、無数に葉が連なっているがこの蔦は4本全ての先端にしか葉は存在せず、表は光沢のある鮮やかな緑色で、裏はギザギザの模様になっており、掌状に浅く裂けている。
どんどん伸びて行って10メートル位出てきてから、すぐに枯れて消失してしまった。
「どうして?」
「エネルギーが足りず10メートルで成長が止まっちゃったみたいね」
「エネルギー?」
「この【アイヴィ―】から出てくる蔦は敵を捕捉するだけじゃなくて敵のエネルギーを奪い、動きを止めることができるの」
「じゃあ、次は実践ね!」
璃子さんが板状の端末を操作し、私の目の前に木製の棒人形を出現した。
もう一度、地面に打ち、蔦を出現させ、目の前の棒人形に向かって伸びて行った。蔦の先端に巻きひげが変化した丸い吸盤があること。始めに吸盤が吸着し、後に巻きひげを出すことで活着を強固になっていた。
「本当は、エネルギーを吸って、相手の動きを止める実践データが欲しかったけど......」
さすがに実際にエネルギーを吸う行為をするためには手っ取り早い話、人を使っての検証だけど、世間一般的にそれは、アウトの部類に入る。それに、もしそれをやるものなら私達はあいつらと同類になってしまう。
「ソドールが出てきたら、実戦で使うしかないね。全部のエネルギーは吸わない様に設定してあるから、その目印は敵のエネルギーが規定値を超えると、先端の葉が赤く染まるから。赤くなるとさらに、吸盤部分が広がり、より絡みつく」
結構、良い性能してない? これなら、安心してソドールから成分を採取できる。少なくとも、致死量のエネルギーが吸われることはないため、対象者が死ぬこともない。無駄な力を消費せず、効率的に怪盗活動ができる。
そんなことを色々、考えていると......
「でも、デメリットもあるから」
「えぇぇぇぇっ!」
その場で私はうめき声を鳴らしながら四つん這いになっていた。
そんな私には目もくれず話を続けた。
「まず、さっきも見たようにエネルギーを吸わないと成長が止み、枯れてしまう。そうなると、隙を作ってしまい、攻撃を受けてしまう。もう1つは、水に弱いこと。 500ml位の容量の水又は、液体なら大丈夫なんだけど、一度に大量の水が掛かると、柔らかくなり、吸盤機能が低下、敵がすり抜けてしまう。その2点のことを頭に入れていたら、結構使えシロモノだね......」
「灯、ターゲットが動いたわ」
クロに言われ、すぐに立ち、気持ちを切り替えて行動を開始した。
「璃子さん、行ってきます」
クロと一緒に屋根伝いで移動しながら......
「ねぇ、灯」
「何?」
「今度の罰ゲームどうする?」
「えぇ、また?」
「やらないよ」
「本当に?」
「本当よ」
......
.........
............
「分かったわよ」
(チョロいわね、やっぱり!!)
「じゃあ、私が今日中に成分を回収出来たら、近而駅に人気のあるクレープ屋があるから、限定のスペシャルジャンボミックスイチゴクレープをおごってね!!」
「えぇ!? あれって、オープン開始3分で完売する限定クレープじゃない」
「じゃあ、私は、ミニスカでメイド服を着るで......」
「またぁ~~。ねぇ灯、貴方もしかして、メイドスキーなの? もっと、私みたいに限定品のスイーツをねだるみたいな罰ゲームでもいいのに......」
「違うよ! 貴方の恥ずかしい姿を見るのが楽しいからよ!!」
「えぇ。マジですか。で本音は?」
お互い、どこかのビルの屋上で止まり......
「分からないの、何も......」
少し、灯の表情が暗くなっていた。あんな、出来事があったから、なるべく楽しいことをして心のケアをしてきたが、全て終わるまで、その表情は晴れないのかもしれない。
仕方ないな......私は灯の前に立つ。
ベシィ
灯の頭をチョップした。
「痛い。何するの?????」
「それで、いいんじゃない」
「えぇ?」
「何も無いなら、今から見つければいいの」
確かに、復讐すれば、晴れるかもしれない。でも、復讐を終えた後、何が残るのか。
「メリハリが大切なの。復讐するときは一直線に復讐する。でも、それ以外は存分に楽しもよ。人生は何事も楽しんだ者が勝ちなの」
その言葉を聴き、私は口元の口角が上がった。
「いいわよ! やってやろうじゃない!!」
「じゃあ、その楽しみの第一歩としてクロの罰ゲームを変更するわ」
「何にするの?」
「さっきのクレープ屋の近くに誓約書を書くレベルで激辛肉を食べてもらう」
私に向かって指を指し、灯はそう、宣言した。
「良いわよ! さぁ、仕事を始めましょう!」
クロから手を差し出された、私は、それを取った。
「結局、私に嫌なことをして快感を得るーーもしかして、ドS?」
「違いますぅ~」
「あなたの成分頂くよ!!」
真っ赤な衣装に身を包んだ女がワタシに対して銃? を向けていた。
「コノチカラハワタシダケノモノ。ソレニコンナヨイチカラタニンニワタスワケガナイ......ジャマシナイデ......コノカマデソノオンナノミニクイカオヲズタズタニスルカラ......」
「はい、どうぞって言うわけないでしょう。これ以上、その力を使わせるわけにはいかない。それに......」
「この世界で一番美しいのは私だから!!!!」
ウインクして、ピースサインしながらあざとさ全開で普段の私が言わないセリフを言ってみた。
なんか亀裂音が聞こえた感覚があった。そして、目の前の対象者が私を睨みながら......
「コロス!!」
灯に邪気・怒りなどを向けながら攻撃してきた。
「危ない!」
女子生徒が叫んでいたが
「大丈夫よ」
私は振り下ろした鎌を冷静に避けて後ろに下がってそのまま、外に後ろ向きに飛んだ。
【スパイダー】
変な機械音が響きながら女が飛び降りた。
「マテ、キサマァァァ」
窓際に身を乗り出して下を見たが、あの女がどこにもいなかった......
「ドコニ、イッタァァァ」
「上よ!!」
真上から声が聞こえたので、聞こえた方向に顔の向きを変えようとした瞬間に、顔を蹴られそのまま、落下していった。
「ごめんね~ 私、相手が誰だろうと一切容赦しないから」
なにせ灯の相手は基本、目の前の敵を倒すことに命を懸けてると過言ではない位に狂気的な奴らばかりでこちらが躊躇していたらこちらが倒されてしまう。
灯は、銃口から伸びている白い蜘蛛の糸をしまい、そのまま教室の中に回転しながら入った。
No.35【スパイダー】
【アイヴィー】と同じように銃弾の代わりに蜘蛛の糸が射出される。現在生息している蜘蛛が出す糸は大体、鉄に匹敵するとされている強度、高い伸縮性、耐熱性を持っている。この【スパイダー】は同じぐらいの強度を持っている。糸の長さは理論上無限とされているが、クイーンズブラスターASKのトリガーを引き続けないといけないデメリットがある。
「貴方達、ケガとかしてない?」
2人は頷きながら「大丈夫です」と言いつつ、震えているのがわかった。
「もうすぐで、警備の人が来るから、大人しくここで待っててね!! 来るまで、私がアイツを足止めしておくから」
先程まで、月の明かりで教室が明るかったが、急に暗くなり、影が私達を覆った。振り向くと、教室の窓際に対象者が立っており、先ほどを同じ様に私に突進してきた。
今は【スパイダー】のマガジンを外しているため、実弾発射が可能となっている。近づいてくる対象者に向かって銃弾を発射したが、先ほど、その場で、止まっていたため当てることが出来たが、今は、銃弾を当たらない様に一直線に突進してこず拡散しつつ私達の方に向かってきている。3発位撃った後、当たらないと分かると後ろ腰に銃をしまい、ナイフと構えて迎え打つことした。
【レッド】専用武器ナイフ:
全長30㎝のナイフ。握り部分は黒色となっており、剣身は鮮やかな紅となっている。剣身の面には彫られた溝が黒くなっており、剣身はグリゴンテンと呼ばれている世界最強の硬度を持つ鉱物を使っており、紙位の薄さでも強度は守られている性質を持ち、強度と軽重量は十分のため、ソドールの攻撃を容易く防げる。
カマキリ型のソドールの鎌と
私の方が押し負けてしまい、廊下に体ごと飛んでしまった。反動で後ろに勢いよく吹っ飛んだが壁にぶつかり、背中に強烈な痛みが生じたがなんとか生きている。
「サッキノ、オカエシ......」
壁にもたれかかった私に対象者は口を開け、捕食態勢になっていた。捕食態勢になりながら、右腕の鎌を、バットをスイングする様に振り、私に襲い掛かってきた。この強力な鎌を持っている本来の蟷螂なら鎌を使って獲物を捕らえるのに信じられないスピードを出し、獲物を捕獲するとされている。諸説にもよるが、そのスピードは約0.05秒とされており、人間サイズでそのスピードを出すと3トン以上とされている。
私は咄嗟に、裁紅の短剣を左手に持ち替え、鎌の攻撃を防ぎ、空いた右手に銃を持ち開いた口目掛けて撃った。すぐ態勢を変え、対象者と距離を取りつつ臨戦態勢を取っていた。
正直、今の攻撃を防げたのは奇跡だ。同じことは起こらないだろう。次、同じ攻撃が来たら、私は恐らく死ぬだろう。ならば、相手の動きを止めて戦闘と終わらせる。
「オマエ、ナカナカヤルネ。サキホドノコウボウハミゴトダッタワ デモ、コレハドウカナ......」
そう言ったのを、最後に姿を消した。
来たわ!!
「今回の対象者は鏡を利用していると考えている」
どうやら、対象者は鏡の能力を持っている。うちの協力者様に感謝するしかないわね。あの資料に書かれていた対象者が学生の背後に現れ、襲ったのは後ろの鏡から出ていたと推測が立つ。この学園は運の悪いことに廊下に設置されている鏡は壁部分を抜きにすると、ちょうど大人1人の全身が写せる鏡になっており、対象者も楽々、全身が写る身長をしている。
ただ、鏡ならあの学生達が持っているであろう携帯端末のディスプレイなどの小さい鏡からでも出てこれるだろうと思っていたが、どうやら、全身が写せる鏡限定なのだろう。
ならば、答えは一つ。周りの鏡を銃弾で割り、細かくしていった。
鏡が無くなったことで外の景色が月と相まって鮮明に見えており、1枚の風景画の様だった。
さて、全身サイズの鏡が無くなってしまい、対象者がどうなるのか。おそらく......
周りの手鏡サイズの鏡から全身がねじれ曲がった姿で出現した。
「ナンデ、ワタシガカガミニハイレルコトガワカッタ......」
「何でだろうね!!!」
念のため
先程、試し打ちしたNo.59【アイヴィー】を装填し、動きを封じるために廊下の床に種を打ちこんだ。
「安心してね!! 以前も貴方みたいに全身が粉々になって再起不能になったソドールがいたけど、成分を採取したら、人間の方は無事だったから!!」
対象者のうなじ部分にソドール成分採取用の注射器を刺し、無事、採取に成功した。カマキリ型の姿から、人間に段々、戻っていき、無事な状態で女子生徒が現れた。
「大丈夫??」
「私はーー何を???」
「貴方は、ソドールに体を乗っ取られていたの」
「ソ、ソドールですか??」
「あなたの憎悪が増幅した悪魔みたいなモノよ。ねぇ、貴方、自分の容姿が気になる?」
そう言われて、私は頷いた。
「はい。自分の容姿に自信が持てず、今日まで生きていました......」
「あまり、努力や根性とか大事だからやれって言わないけど」
努力や才能は平等ではない。でも、今回はそんな当たり前の正論を言ってもこの子の霧は晴れないだろう。
有名な井戸から出てくる顔を覆う位の髪を持つ女のように私の目の前にいる女の子に対して
「まずは、その顔を覆っているこの髪を切りなさい。あと、姿勢も背筋を伸ばして歩きなさい。そうすれば、少しは自信が持てるはずだからっね!!」
まずは、1歩進んでいくこと。新しいことを始めるのは勇気がいる。でも、その勇気を出した者は進めることが出来る。
「頑張ってみます!! まだ、全て答えは出ませんが1歩ずつ行きます。」
「じゃあね!! 明日からちゃんと、学校に行きなさいよ!!」
「あ、あの貴方は一体......」
「私はレッドクィーン 欲しい物を全て頂く、唯の怪盗よ!!」
そう言って、月の光が当たっていない暗闇の校舎へ怪盗は消えていった。
「終わりました」
携帯端末で無事、ソドールの成分回収の成功報告を電話越しの相手に伝えた。
「すみません。 学園棟の一部を壊してしまって......」
「気にしなくていいよ! 夜中の内に修繕工事しておくから!」
「明日から本格的に学園生活が始まるから、夜更かしして、寝坊だけはやめてね!!」
そう言い残すと、相手との電話は終了した。
「お疲れ様!!」
「あの子、大丈夫かな......」
「まぁ、こればっかしは自分自身で解決することだから」
「そうだよね......」
「あの子のケアとかしないの??」
「あの子が養護教諭としての私に悩みなどを相談してくれれば、ちゃんとやるけど、怪盗行為の時は灯限定でやるって決めてるから」
クロが両手で一拍してから
「さぁ、帰るわよ!!」
2人の姿が夜の闇に同化していた。
「うまく、撮れなかったな~ この姿なら、どんな写真も高画質になるのに......」
噂の七つ目の不思議でも調べようと思ったが、なぜか、学園に行くことが出来ず、仕方がないので、少し離れた高層ビルの屋上から何か変化がないかと学園と撮り、写真を確認していると学園七不思議なんかよりも特ダネを得ていた。1枚の写真には少しぼやけているが黒い服に身を包んだ奴と最近、話題になっている女怪盗らしき姿が写し出されていた。
「私のジャーナリズムが躍るわ!!」
写真や映画をスクリーンに映すことができる映写機を頭部に持ち、首から下は布で覆われており、紐みたいな物が無数に出ておりそれに支えられて、光がないと宙に浮いていたみたいな姿をしているソドール。
6話現在、灯達が使えるソドール能力
No.33 ホッパー 青ピンク色
No.35 スパイダー 赤紫色
No.47 シャーク 青水色
No.52 ダイヤモンド 水白色
No.59 アイヴィー 緑黄緑色
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No.53 ??? ??色
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