彼女の未来に祝福を

@snow_kiss

第1話 神保町

「体調が優れないので、早退します。」


特に体調なんて悪くなかった。

ただ、今日はどうしてもサボりたかった。

ありがたいことに、派遣で働き始めた会社は恵まれていて

体調が悪いといえば、直ぐに帰らせてくれるホワイト部署だ。


岩田めぐ 27歳

18で鹿児島から上京し、早いもので10年目となった。

東京の冷たい風にも慣れ、もはや染まりつつある。

楽しみといえば、配信サイトで動画を見ること

昔よく好きだったアイドルのライブ動画を見たりしている。

あのキラキラとした弾ける笑顔に憧れた日もあったが

人見知りで容姿に自信もないため、憧れるだけ無駄だと思い素直にオタク側でいる事にした。


さて、サボったものの予定はない。

最近、生理前なのか全体的に不調なのだ。

家に直行することも考えたが、それでは勿体無い気がして

隣駅の神保町まで歩くことにした。


神保町という街は、人々の思い出と熱狂が集まった街である。

懐かしさを求め、時代を求め、皆、店に足を運ぶのだろう。


10分ほど歩いたところで気になる店があった。

店の前に置いてあるラックへ、無造作に置かれた古いアイドル雑誌。

ここは、アイドル好きにはたまらない店だと直ぐに感じた。

アイドルオタクだった私も、興味を惹かれた。

ここは、入らずにはいられないだろう!


そこには、昭和から平成まで音楽史を彩った輝かしいアイドルたちがいた。

もちろん私がかつて好きだったアイドルのグッズも売られていた。

懐かしい想いにふけながら、私はあの頃の時代を掌と目で感じた。


そろそろ出ようかと思って、手に取った雑誌を棚に戻したときだった。

ふと、横に目をやると「柏田結衣、ついに歌手デビュー!」と書いてある背表紙

なんとなく気になって、これを見てから帰ろうと思いその雑誌を手に取った。


そこに写っていたのは

健康的な小麦色の肌に、ブラウンの髪色、髪型はショートボブ。

吸い込まれるほど大きな目に、ピンク色の可愛い唇。


私の心臓がドクンと大きく跳ねた。


柏田結衣、彼女は一体誰なの。


私は650円の彼女を抱きしめ店を出た。


今日はサボった甲斐があった。でなければ私は柏田結衣に会うことはなかった。

私は早く彼女を目で感じたいという気持ちが膨らんだ。

心地よい風が吹いている。足取り早く駅へ向かった。








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