ギガントピテクスの憂鬱
牛丼一筋46億年
第1話『世界から拒絶されているような毎日』
世界から拒絶されているような毎日だった。
季節は夏だった。
その夏のほとんどの夜を俺は千秋と歩いた。
ムッとする熱帯夜を、降り注ぐゲリラ豪雨の中を、やたら虫がいる草原の中を、俺たちは歩いた。
世界には俺たちしかいないみたいだった。
ひとまわり近く年下の生意気でやけに美人なガキ。
あの夏、俺にとって唯一の友達。
彼女と、教室で立ち尽くしていた俺にこの小説を捧げる
☆
目が覚めると夕方だった。週刊誌と食べ残しと脱ぎっぱなしの服で汚された部屋の万年床で俺はまどろんでいた。
俺、山中涼は横になったまま枕元をさぐってタバコの箱を掴み、一本咥えて火をつけた。煙を天井に向かって吐き出す。
夕日が部屋を赤く染めている。
起きるか起きまいかそれが問題であった。
仕事を辞めてから早いもので五ヶ月が経過しようとしていた。
まさに光陰矢の如し、青年老いやすく、動くことままならぬ、と言ったような怠惰な生活を送っていた。昼夜逆転生活。ゲーム三昧、荒れる食生活。
生産性のない毎日に俺は気が滅入っていた。しかし、生産的な毎日を送ろうとする努力もまた憚られた。
結局、俺は毎日ゲームをして過ごした。
腹の減りが限界だったので、立ち上がり、冷蔵庫を探るとひとかけのハムが出てきた。はて?これは何日前に買ったハムだろうか?と考えたが、結局腹を壊そうとも俺には予定が一切ないので大した問題にはなるまいと思い、パクリとハムに噛み付いた。ふむ、味には問題なし。
俺はバクバクとハムを食べてしまうとまた眠った。
起きると真っ暗だった。携帯を手に取ってみると夜の八時だった。
目覚めが良くて、俺は布団から飛び起きた。部屋の電気とテレビを点けてまたタバコに火をつけた。
ボーッとテレビを見ながらタバコをしゃぶる。
「正解はAか?Bか?」
テレビでは有名司会者がクイズをゲストに出題していた。うーん・・・Bかな・・・と頭の中で呟く。
「正解はA!!残念でした」
司会者のその一言で何故だか妙に悲しくなった。世界は俺をまた否定しようと言うのか・・・
テレビと言うのはダメだな。見ていると時間がどんどん過ぎ去っていく。
俺は万年床の上にあぐらをかいて結局夜中の〇時までテレビを見てしまっていた。
さてと、ゲームでもするか、その前にビールでも飲むか。と冷蔵庫を開けると、ビールどころか食べ物もない。キャベツひとかけすら残っていなかった。おいおい、誰だよ、俺の冷蔵庫から飯を盗んだやつは・・・
まぁ、仕方がない、菓子パンでも食べるかと、食器棚の上を探ってみるが、そこには領収書の山しかなかった。あれ?おかしいな、買い溜めしておいたはずなのに。
こう言うことがままある。怠惰な生活を送っていると、時間や物の感覚が著しく現実から乖離していく。そうして気がついたときには全て俺の元から去ってしまっている。
どうするか・・・仕方がなく俺はコンビニに行くことにした。
コンビニは嫌いじゃなかった。まず、店員の愛想が良くないところが好きだった。俺は嘘つきが嫌いだ。愛想が良い店員は嘘つきだ。なんで楽しくもないのにそんなに笑顔になれるのかと考えただけで腹が立ってくる。次に、売っている物が全て安物だ。高い物は丁寧に扱わなければならない気がして気を使う。そして最後に何より二十四時間開いているのは魅力的だった。
二十四時間、誰のことでも受け入れてくれる安い女みたいだ。素敵じゃないか。
俺はチョコパンとビールを三本とチーズちくわ、ピーナッツ、タバコを一箱買った。
コンビニを出て俺はタバコに火をつけた。そして、ビールを開けて、グビリと一口飲んだ。もう夜中の一時だ。なんだか気分が良かった。
平日の深夜に俺は酒飲んでタバコを吸っている。殆どの二十七歳はこうはいかないだろう。
うふふふ、ニートも悪くねえな。
俺はその日少し寄り道して帰ることにした。いつもは通らない道を通り帰ろうと思った。途中公園があったので寄った。
公園には遊具が二つしかなかった。ブランコとジャングルジム。果たしてこの二つの遊具でここいらの少年少女達は満足できているのだろうか?
俺はブランコに座って、ゆっくりと身体を揺らした。揺らしながらまたビールを啜った。
悪くない気分だった。昼間ならこの公園にはガキたちが歩き回っていて、俺みたいな髭面の成人男性が近づこうものならすぐさま警察を呼ばれるだろう。しかし、真夜中の今ならひとっこひとりおらず、ここは俺だけの公園であった。
チーズちくわにガブリと噛みつき、ビールで押し流した。うまい。笑いが止まらなくなりそうだった。うふふふ。と俺は笑った。夜中の公園とはこうも面白いものなのかと驚いた。
俺はブランコを下りるとジャングルジムに登った。登るのは意外と骨が折れた。
子供の頃はひょいひょいと登っていたのだが、大人になってからだと、そのサイズ感があまりにも小さく難儀する。途端に脇から汗が吹き出す。やっとのことで頂上に登り切った。頂上で俺はまたビールをあおった。
頂上からの景色は壮観だった。公園中を見下ろせた。ガキたちはこんな景色を眺めているのかと感慨深かった。
頂上にいると、涼しい風が俺を撫でていった。
なるほど、なかなか深夜徘徊とは乙なものだなと俺は思った。そして、その日から深夜徘徊は俺の日課となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます