警察小説ということで、メインキャラクターたちが身を置いているのは警察庁。公平・公正に犯罪者を捕まえ、更生に導くことがお仕事です。
しかし主人公の大場一恵は、憎たらしい犯人相手には過剰な制裁を加えてしまったり、反対に哀れな犯人には同情から罪を責めきれなかったりと、私情を挟みまくり。同僚や上長たちを日々困らせているじゃじゃ馬職員です!
そんな大場さんの姿が、作中でひときわまぶしく、胸を打ちます。
人口減少により、人生の選択肢が減らされた社会。終わりの足音が聞こえる中で、それでも目の前の誰かを思い、懸命に自身の正義を貫こうと突き進む彼女の姿に、あなたもきっと魅了されるはず。
真面目な中にもユーモラスでほっこりする、職員たち同士の掛け合いも一興です。
このレビューをここまで読んでくださったあなたは、間違いなく楽しめます。ぜひ読んでみてください!
罪を犯した者は、更生できるのか。
これは、人類に与えられた命題のひとつである。
わが国においても、依然として高い再犯率、罪に対する量刑の軽さ、死刑廃止論などなど、さまざまな議論が取り沙汰されるが、いずれの場合も本格的な議論には至らず、喉元過ぎれば話題にも上がらなくなるのが現状である。
これは、「だれもが犯罪に巻き込まれる可能性があることへの無自覚さ」、「人が人を裁くことのむずかしさ」を象徴しているように思う。
本作テラテクトは、人口減少の末、死刑の廃止と更生教育に力を入れるようになった日本を舞台としている。
人口を維持するための「人道的」配慮のため、警察官の装備から拳銃等の殺傷性の武器は廃止され、麻酔銃と追尾機能を有した球状手錠のみが唯一の武器だ。
時に武装して襲いかかってくる犯人に対し、あまりに貧弱な装備は、かつて銃で武装したあさま山荘の連合赤軍に、ヘルメットとジュラルミンの盾のみで相対した機動隊員を彷彿とさせる。
彼らがその身を賭して守る社会は、「終わっていく世界」なのかもしれない。
ただ、その終わっていく世界を守るのは、高度に管理された秩序なのか、人間が持つ一片の情なのか。
その問いを本作は示唆してくれている。
その答えを、今後も見届けていきたいと思う。
本作を手に取ろうとしている方々も、是非読んで己に問いかけていただきたい。
リアリティを徹底した小説が読みたい。
でも、希望やあたたかさはあってほしい。
現実世界で悲惨なことが多くても、人に、絶望したくない。
そんな人はけっこう多いのではないでしょうか?
きっと、このレビューを見て読むか読むまいか決めかねている、あなたも。
血の通った、リアリティあふれる近未来警察小説、それが本作『テラテクト』です。
もちろん警察小説ですから、出てくる事件は思わず目を覆いたくなるようなものばかり。
例えば、強制性交は一生つきまとう恐怖であり、魂の殺人。
例えば、路上生活者にもそれぞれのライフストーリーがあり、踏みにじられない尊厳がある。
例えば──国家維持のためなら全体主義的な制度は許されるのか。
しかし、それをただの残酷物語にしないのが、地に足のついた等身大のキャラクターたち。
媚びず、引かず、公僕として、警察として、何が正しいか迷いながら、最善の幕引きを目指して進む姿は、あなたの心にきっと希望を残します。
近未来日本を舞台とした、警察小説。
ソレはあまりにも、目を奪うほど格好良くて、惹き込まれていて──
あなたは、はた、と気づく、全ての登場人物に、すらすらと入ってくる設定に呑み込まれて、更新分まで読み終わっている、と。
◆
筆者は最初、この手の小説を読むのを躊躇した。
なにせ純文学を愛する身であるからして、小難しい設定や無数の無個性なキャラクターが押し寄せてきては読む気も削がれるというものだ。
しかしどうだ、この物語はその全てを裏切った!
一章を読みきる頃には、だいたいこの物語のバックボーンが分かることだろう。もちろん、「だいたい」で良い。全てを完璧に理解しないと進めないような不親切な設計はしていないからである。
そして何より、登場人物は皆、魅力的である。
過度に持ち上げられるのではなく、どこか欠けている、それでも等身大で善良な四人のメインキャラクター。読者にとって違和感の無い心の機微、不快感の無い爽やかな善良さ。
もしあなたが、警察小説というものに「リアリティ」より「夢」「フィクション」を見られる慧眼な読者ならば。
きっとこの、サイダーのような爽やかで、かつ入り組んだ味のする、「格好良い」物語があなたを惹き込むことだろう。
きっと損はさせない。まずはその手で第一章のページを開いてみよう!