第14話 私も

 好きな子と星を見る事になった。楽しみだ!

 

 夕飯を食べて、寝支度を整えて空き部屋に行くとモコが居た。

 

 体が冷えるといけないから、ルネちゃんにホットココアを入れてもらって2人分持ってきた。

 

 モコは牛乳が苦手だからね。

 

 珍しく髪を下ろして、寝巻きにパーカーを羽織った姿で空を見てる。

 

 開けられた窓から風が入ってきていてちょっとだけ寒い。

 

 ココア、貰ってきて正解だったな。

 

「来たよ」

 

「遅かったじゃん」

 

 モコがこっちを向いた。

 

「ごめん」

 

「まぁ良いけど」

 

 ココアを渡すと、モコが両手で受け取った。仕草が可愛い。

 

「星好きなの?」

 

「んー……夜空をイメージしたドールの依頼が来たんだよね。だから参考にしたくて」

 

 息をふきかけてココアを冷ます。

 

 モコは湯気がたった状態でちょっとずつ飲んでるけど、僕は猫舌だからかなり冷まさないと飲めない。

 

「本当に好きなんだね、この仕事」

 

「当たり前でしょ、好きな事がしたくてDHFのこの世界に来たんだから」

 

「それもそっか」

 

 モコが窓の縁に飲みかけのココアを置いた。

 

「ダイヤは? 楽しい?」

 

「うん! モコと一緒に仕事してるんだなぁって思う度にすごく嬉しくなる」

 

「バカだなぁ……」

 

「えぇ……そうかな……」

 

 モコがパーカーに手を入れた。

 

「元の世界にさ」

 

「うん?」

 

「髪飾り置いてきたでしょ。ダイヤがくれたやつ」

 

「うん」

 

 その髪飾りが手がかりだと思ったからこの世界に来れたんだよね。

 

「あれ、すごく気に入ってたんだよね」

 

「そうなの? 嬉しい!」

 

 喜んでほしくて時間をかけて選んだから、本当に嬉しい。

 

「ダイヤ、この世界に来てすごく変わったよね」

 

「うん。モコのためだから」

 

 窓から差し込む僅かな光だけだとモコの顔はよく見えない。

 

「ホント、私の事好きだよね」

 

「好きだよ」

 

「……私も」

 

 すごいな、モコは。自分の事好きでいられて。

 

 自信があって、かっこいい。

 

「……」

 

 風がココアの甘い匂いを運んでくる。

 

「なにか反応しなさいよ」

 

「えっ……ごめん。モコはかっこいいなって思ってた」

 

「……他には?」

 

「えっ、他に?」

 

 モコが好きだと思った? それはさっき言ったし……えっと、なんて返したら喜ばれるのかな。

 

「私が! アンタのこと好きって! 言ってるの!」

 

「えっ……」

 

 あ……わ……き、聞き間違い?

 

 いや違うよね、顔はほとんど見えないけど、モコの体に力がこもってるのは見えた。

 

「ぼ、僕も好きだよ!!」

 

「知ってるわよ!」

 

 まっ、待ってなんでちょっと……、心の準備が……!

 

 両思いだ〜なんて感じじゃなくて、なんだろう……すごく、すごく……些細な事じゃない!!

 

「顔がうるさい」

 

「なんかごめん! 」

 

 え……夢だよねさすがにこれ……。

 

 ココアを飲む。

 

「あっっついっ!」

 

 舌がヒリヒリする……。現実だ……嘘……僕……。

 

「はぁ……もう……」

 

 モコがため息をつく。

 

「こっちに来たら元の世界では忘れられるんじゃないかなって、期待してたの。

 

 でも、なんか……ダイヤに忘れられるのは嫌だったから、忘れんなって思いながら髪飾り置いてきたんだよ……」

 

 それって……ここに来る前から僕の事……。

 

「あーあ。私の事、誰も居ない場所に来たくてここに来たのにダイヤが来ちゃうんだもんなぁ」

 

 ——モコが空を見た。

 

 つられて僕も見てみると、元の世界なら一生見れなかったんじゃないかってくらい綺麗な星空が広がっていた。

 

 雲がかかっているようにすら錯覚してしまうくらい、満点の星空が広がってる。

 

「絶対忘れたりしないし、モコの居る場所なら……どんな所でもついて行くよ」

 

 さぁっと風が吹いて、モコの髪の毛が揺れる。

 

「……私はさ、何があっても変わらないよ。でもさ、ダイヤは私のために変わり続けてる。嫌じゃないの?」

 

「どんな僕でも、君が好き。それだけは絶対に変わらない。——好きな子のためだもん。僕は何回だって変身するよ」

 

「変身……か」

 

 流れ星は見えない。

 

 だけど、流れ星に頼らなくても僕は変われた。

 

 ——沈黙が続いた後。勇気を出すために息を吸ったら、僕よりも先にモコが口を開いた。

 

「まだ付き合ってもないし、バカみたいな話だけどさ」

 

 モコが僕の左手を引いて、モコのパーカーの大きなポケットに一緒に手を入れた。

 

 心臓の音が大きくなる。

 

 ポケットの材質と、モコの手と、金属の感触が手から伝わってきた。

 

「結婚しよ」

 

 ポケットから押し出された僕の薬指は、指輪で飾られていた。

 

 シルバーの細いリングに、小さな宝石が2つ。

 

 見せてくれたモコの左手にも同じリングが付けられている。

 

「運命なんて信じないけどさ、ダイヤの行動力と愛は信じられるよ。どうせどこに行っても1人にしてくれないなら……」

 

 言葉として、これ以上をモコが伝えてくれる事はないと思う。

 

 これがモコの伝え方だから。

 

「絶対、幸せにします」

 

 ——初めて、モコを抱きしめた。

 

 夜風に冷やされた布の冷たさが、少しずつ人の温もりに変わっていく。

 

 泣かないって決めたけど、やっぱり涙が出てきて止まらない。

 

 ダメだなぁ、宣言してない事は本当にできないみたい。

 

 でも、モコも泣いてるみたいだし、些細な事かな。

 

 こんなに暖かいのは、何年ぶりかな。

 

 モコも、同じ気持ちだといいな——

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