第12話 どこを好きに

 勇気を出して、堂々と過ごし始めた。

 

 背筋を伸ばして接客する。

 

 とにかくずっとそれを意識して、できるだけお客様の目を見る。できる限り笑顔で居る。

 

 1週間くらいはしんどかったけど、今は慣れてきた。

 

「ダイヤ、最近良い感じじゃん」

 

 お昼ご飯を食べてたらモコちゃんが唐突に褒めてくれた。

 

「そうかな? 嬉しい、ありがとう」

 

 前までなら思うだけで口に出せなかったけど、嬉しいとかありがとうとか、言っても減らないんだよね。

 

 声に出した方がモコちゃんも嬉しそうにしてくれてるし。

 

「最近お客様増えてきたし、ダイヤのおかげじゃないかな。装備品の依頼も結構来るし」

 

 お店が休みの日にまとめて服を作ってるんだけど、確かに日を追う事に依頼が増えてる気がする。

 

 嬉しいな……周りから認められはじめてるんだ。

 

「モコちゃんのおかげだよ、全部」

 

 モコちゃんのためじゃなかったら、見た目も性格も変えようとは思わなかった。

 

 服を作り始めたのだってドールのためだし、ハマったのもモコちゃんに近付きたかったから。

 

「ホントに私の事好きだよね」

 

「大好きだよ」

 

 この世界に来る前より、ずっとずっと好きになってる。

 

 モコちゃんのために変わるたびに、世界が楽しくなってる気もする。

 

「……モコって呼ばない? 私のこと」

 

「えっ」

 

 突然の提案。モコちゃんの方から提案されると思ってなかったから動揺した。

 

「か、考えてみる!」

 

 人の事呼び捨てにしたことなんて無いからハードルがすごく高い。

 

 堂々と振る舞うのよりも何倍も!

 

 ——ご飯を食べ終えてお店に出たはいいけど、モコちゃんの事ばっかり考えちゃう。

 

 いや、いつも考えてるんだけどね。

 

「いらっしゃいませ」

 

「こんにちは、ダイヤさん」

 

「ミムンさん! お久しぶりです」

 

 日が落ちて来た頃にアデールさんとサラさんと一緒に来店してきたミムンさん。

 

 お揃いのアクセサリーとか付けちゃって、すっかり仲良しカップルだ。

 

「アデールと2人で新しいドールを迎える事にしたんです。だから制作をお願いしたくて」

 

 ミムンさんがあらかじめ用意していたであろう注文書を差し出した。

 

 イラストも添えられている。顔はミムンさんに似ていて、赤毛の長髪。2人と同じアクセサリーを付けている。

 

 なんというか……お子さんだ……!

 

「アンリから聞いたけど、ダイヤさんはドールの文化が無いの地域から来たんだよね。永遠の証として2人の特徴を合わせたドールを作るんだよ」

 

「へぇ……そうなんですね」

 

 付き合ってすぐに永遠の証、なんて元の世界では考えられないけど……まぁ、この世界はゲームの世界だし、些細な事なのかな。

 

「服はシンプルなものにしたけど、ダイヤさんがデザインしてくれたら嬉しいな……」

 

「もちろんです……!」

 

 こんな素敵な贈り物が出来るなら頑張りたい!

 

 それに、ドールに初めてあげる服ってドールと同じくらい愛着が湧くと思うからね。

 

「ありがとうございます。こんなに幸せなのはダイヤさんのおかげです。あなたにも素敵な愛が贈られますように」

 

 ミムンさん達が退店して、僕は注文書をモコちゃんに届けに行く。

 

 アデールさんは、ミムンさんのどこが好きなのかな。

 

 僕はモコちゃんに何ができて、どこを好きになってもらえるんだろう。

 

「モコちゃん、注文書……」

 

 寝てる。1時間で起きるってメモを机に置いて机に伏せてる。

 

 ミムンさん達が来る前にここに来た時は起きてたから、まだ寝てそんなに時間が経ってないよね。

 

 早くなんとかしてあげないと体がガチガチになっちゃう。

 

 何とか出来ないかな。

 

 大量に余ってるボロ布を綺麗な布に変更して、何枚か重ねて床に敷く。

 

 どうやってここに連れてこよう。

 

 起こしたら可哀想かな……。

 

 ルネちゃんに運んでもらう……? できるのかな、そんなに力が無さそうに見えるし……。

 

「ご、ごめんね、運ぶだけだから……」

 

 そっと椅子を引いて、起こさないように安定させて抱き上げる。

 

 柔らかい……じゃないんだよ僕、変な気を起こすな!

 

 布の上に優しく寝転がらせる。

 

 それで、布を被せて……うん。多分こっちの方が寝やすいよね。

 

 ……勝手に触ってごめんねホントに。

 

 注文書を見やすい場所に置いておいて、お店に戻る。

 

 待っていたお客様に謝って相談を受けて注文書を受けとって。

 

 ——1時間経ったらモコちゃんを起こしつつ、勝手に運んだ事を謝って、また1時間したら店を閉じた。

 

「それで、考えてくれた?」

 

 夕飯中、モコちゃんに言われて思い出した。

 

 そうだった、ミムンさん達の来店で忘れてた!

 

「あーえと……」

 

「何の話だ? 」

 

 アンリくんにモコちゃんが説明をしちゃったから、逃げられない。

 

「呼び捨てくらい良いだろ。本人からしてって言われてるんだしさ」

 

「アンリくんはその顔に産まれて自分に自信があるからそういう事が言えるんだよ……」

 

「ははは、ダイヤ自信忘れてるぞ」

 

「あっ……」

 

 勇気を出すしかないのか……。

 

「モ、モコ……」

 

 恥ずかしいっ!

 

「よくできました」

 

 モコちゃ……モコ……が満足そうな顔をしてる。

 

「なんか……恥ずかしい……」

 

「なんでアンタが照れてるのよ……」

 

 今度は呆れた顔。

 

「頑張って今から慣れるね……」

 

「そうして」

 

 ふとカレンダーを見ると、もうこの世界に来てモコちゃ……モコと暮らし始めて1ヶ月が経過してた。

 

 毎日何かが変わってる気がする。

 

 明日は何が変わるのかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る