第10話 サービス外なんて言ってられない!
店番でも服作りでもなく、恋愛相談を受けることになっちゃった!? 僕はどうすればいいの……!?
「という事で、アンリにあなたを紹介してもらったんです」
——近くの喫茶店でミムンさんから話を聞いている。
ミムンさんはアンリくんと同じく軍人さんで、同期だから仲がいいんだって。
それでアンリくんは僕の変化を見て、僕ならミムンさんを変えられると思ったから僕に紹介した……って経緯らしい。
すごいのは僕じゃなくてモコちゃんなんだけどな!?
「それで、アデールさんのお眼鏡にかなう人になれそうですか? 僕は……」
アデールさんというのがミムンさんの好きな人らしい。
改めて、数日前の僕を鏡で見ていると錯覚するような見た目のミムンさん。
「まず……アデールさんについて知りたいですね」
モコちゃん曰くこの世界はミステリアスな人がモテるらしいけど、僕はまだアンリくん以外の男の人と接客以外で話した事がないし、何よりもアデールさんの好きなタイプは分からない。
「アデールさんは……あっ、丁度ほら、来ました」
店内にいる僕達には気付かず、テラス席に座った赤くて長い髪をふわふわに巻いた、青い目の綺麗な女の人が多分アデールさんだろう。
お店で働いてるドールがアデールさんから注文をとってる。
「あの方ですね……」
服は灰色の膝丈ワンピースと、白いカーディガン。
ふくらはぎに届かないくらいの紺色ソックス。
全部が無地だ。
——初めて街を見た時は中世ヨーロッパとかそういうのを想像したけど、着物の人とか、ズボンを履いた女の人とかも居るからいろんな文化が混ざりあった世界なんだと思う。
——アデールさんは顔が華やかな分、服装はシンプルで控え目。
だけど、生地は傷まず綺麗だし、シワもシミもヨレも無い。かなり服装に気を使っているのが分かる。
何よりも姿勢が良い。
手足が長くてスラッとしてるから、1つ1つの仕草が絵になる。
……対してミムンさん。
服はシワシワのヨレヨレ、着回しコーデかつ毎回適当に着ているのが見てとれる。
猫背だし、動きに落ち着きがなくて周りからの視線を気にしつつ気にしてないのが分かる。
かんっっぜんに昔の僕だ……。それもモコちゃんを好きになる前の僕だ……。
「ミムンさん」
「はいっ、や、やっぱり僕なんか釣り合わないですよね……へへ……」
何も言ってないのにこの諦めっぷり……サービス外なんて言ってられない!
僕が絶対にミムンさんとアデールさんを結んでみせるっ!
「サラさんは肌の色や質感を統一させ、10代後半の恋する乙女風に変えましょう」
アデールさんは1人で喫茶店に来て優雅にお茶を飲みながら本を読める強い人みたいだ。
そして、今読んでる本は彼女の表情を読み取るに癒し系。
サラさんの見た目はすごく強そうだけど、サラさんの見た目だけでもなんとかしてと言われたのは別に周囲に強さを求めてないから。
でもミムンさんは強さの方を重視してそうだから、10代後半の女の子の強さと、恋する女の子の儚さを併せ持った見た目にすれば2人の好みに合わせられる……はず!
人と話す時はお互いに共通した話題が無いと続かないし、サラさんを共通の話題に出来れば自然とミムンさんも喋れるんじゃないかな。
モコちゃんと会話が弾むのってドールとか服の話してる時だし。
むしろそれ以外で会話出来てないけど……一応会話は有るから些細な事だよね。
「恋する乙女……ですか」
「はい、具体的にはこんな感じ」
アンリくんにもらったメモとペン——ペンのインクの色も好きに変えられる事をモコちゃんに教えてもらった——で完成図のサラさんを描く。
健康的に日焼けした目が金色の女の子。
色合いで強さが強調されすぎるから、若干タレ目気味にして優しい表情を描く。
髪の色はほんのりと赤みがかった茶髪がいいかな。髪の長さは肩くらいで。
服はサラさんもルネちゃんも同じ服を着てるから、そのまま軍服で。
「わ……すごい、よく見かけるドールみたいになった……」
ミムンさん……サラさんが異質なのには気付いてたんだ……。
「どう? サラ、こんな見た目になりたい?」
ミムンさんがサラさんにメモを見せると、サラさんの目が輝いた。
「憧れます♤」
「ならこれで決まりですね。後で注文書を書いてください」
「はい!」
それで……次はミムンさんだ。
多分顔は悪くない。というかすごく隠れてるから善し悪しとか分からないけど、多分美形だと思う。
なぜならこの世界に来てから美形以外見た事が無いから。
……美形しか居なかったら美形の中から醜形が選ばれたりするのかな……だとしたらお手上げだけど、さすがにそんな事は無い……よね。
「ミムンさん。服を買いに行きましょう」
「服……ですか」
アンリくんみたいに常に軍服を着てるとかなら悩まなくていいけど、ミムンさんは私服と制服を分ける派みたいだから、ちゃんと選ばないと悲惨だ。
「その着古した感じの服は……清潔感を失わせる原因です」
小学生の時に両親が事故で他界し、親戚の家に引き取られてからは物を大事にしないといけないと思い込みすぎて服がヨレヨレのズルズルになっても着続けたけど、今思うとアレは無い。
生地が傷んで透け始める前に服を変えないと、どれだけ清潔にしててもすごく汚らしく見えたからね。
消毒済みのゴキブリを好きになれますか? と同じ論だと思う。
「……僕も好きな人が居るんです。一緒に恋を成就させましょう!」
「お、おー?」
僕に釣られる形でミムンさんもやる気を出してくれたから、服を買いに行って、2人で誰よりもカッコよくなってみせる……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます