過激派の一幕

 ■


 ――【光輝の】アゼルの死


 他称過激派、自称聖光派の者達はその報に驚愕、そして歓喜した。

 光輝のアゼルは教皇を除けば穏健派の最大戦力であったからだ。


 なぜ彼らがミカ=ルカの報告の前にそれを知ることが出来たか。それは率直に言って、彼らが魔族と裏で通じている為である。


 彼等には悲願があった。

 それは純度100パーセントの権力欲から成る悲願。

 要するに、故国の栄光を再び、という事である。


 彼等の多くは亡国の貴族、あるいは王族、皇族の子孫だ。

 現在でこそレグナム西域帝国が西域の覇権を握っているが、帝国がまだ小国であった頃、最近には大小数多の国家群が在った。


 だが各国がいつもの様に西域で相争っていた時、後世において第一次人魔大戦と呼ばれる人と魔の戦争が勃発した。

 ヒト種は人魔大戦にこそ勝利したが、その過程で多くの国家が滅びた。


 大地は荒廃し、人心は荒んだ。

 だが1人の小国の王…すなわちレグナム西域帝国の初代皇帝がたぐいまれなカリスマをもって……という次第である。


 なお初代レグナム皇帝は異世界より転移してきただの、異世界より転生してきただの、胡乱な逸話が付き纏う人物という事で有名だ。


 彼が異世界の人間だったかどうかは定かではないが、ソウテキという名は当時は愚か、現在でも見られない種の名前であることは事実である。

 ソウテキは戦も強ければ頭もよかったが、特に戦では負け無しであった。


 ――戦びとは魔狼ともいへ、肉食鬼ともいへ、勝つ事が本にて候


 これはソウテキが遺した名言である。

 この言葉の意味する所は、戦を生業とする者は例え魔狼とよばれようが人食いのオーガとよばれようが構わないから先ずは勝利せよ、勝つ為なら何をしようが構わないという志を持てという極めて野蛮な心の在り方だ。


 当時、騎士の名誉だのなんだのとぬるい事をいっていた各国はソウテキの容赦ない用兵術に滅茶苦茶にやられ、大戦後の混乱は極めて早く収束した。

 彼の逸話はいつかまた話すとして、ともかくも戦後の混乱を収めたソウテキの功は大きい。


 レグナム西域帝国はあれよあれよという間に領土を拡大し、各地の小国を飲み込んでいった。

 中央教会過激派はこの辺の残党と言う事だ。


 余りにも巨大な帝国に並ぶ勢力はもはや神の威光…即ち宗教権力だけであると残党共も理解していた。

 だが既存の宗教組織は最早帝国の狗も同然だ。

 ならばどうするか?


 自分達で造ってしまえばいいというのがその答えであった。そう、都合の良い宗教がなければ造ってしまえばいい。組織も、神も。


 神を造るというのは大変だが不可能ではない。

 まずガワを用意し、信仰を集める。

 簡単に言えばそれで神が出来る。

 この世界においては祈り…信仰とは趣がない言い方をしてしまえばエネルギーの様なモノだ。


 ガワとは要するにこの神はこれこれこういう神であり、これこれこういう神話がありますよ、教えはこのようなものですよ、というトリセツの事である。


 言葉にしてみれば簡単だが、神として“機能”させる為には相応の有形無形のリソースが必要だ。

 よほどの執念、情熱がなければ為しえない偉業…のはずなのだが、過激派の祖達はそれを成し遂げた。

 その礎に少なくない数の人命があった事は言うまでも無い。


 ここまでは良いのだが、彼らにも誤算があった。

 現在で言う所の穏健派だ。

 彼らは法神という造り物の神を心底から狂信した。

 その狂信は過激派勢力を飲み込む程の勢いで、最終的には勢力比が逆転してしまったのだ。


 以降過激派は組織の主導権を取り返すべく穏健派と内部でバチバチやりあっている。


 魔族と繋がったのもその流れだ。

 過激派は魔族の力を利用し、穏健派を駆逐しようとしている。


 魔族側も人間達が内輪揉めしてその力を落としてくれるなら、と過激派を利用してる………


 と、過激派は思い込んでいる。

 だが本当にそうだろうか?

 魔族が都合よく劣等なヒト種に使われると過激派達は本気でそう思っているのだろうか?


 いいや、流石に権力の光で眼が濁っている過激派といえどそんな勘違いはしない。

 ではなぜ“こんな事”になっているのか。


 それは……


【挿絵①近況ノートにて】

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