イスカ④
■
──この術師の青年に声を掛けたのは早計だったのかもしれない
そんな思いを抱きながらも、セシルは仲間と共に単眼大蛇の巣食う森へと足を踏み入れた。
勿論ヨハンもいる。
だがセシルの懸念とは裏腹に、森でのヨハンの振る舞いは経験を積んだ冒険者とはかくあるべしと言った様で不安どころか頼り甲斐すらも感じるものだった。
「ねえ、リズ。どう?蛇の痕跡はあった?」
セシルがリズへ話しかけると、リズは難しい顔をしながら首を振った。だが、単眼大蛇の痕跡が見つかりづらいと言うのは分かっていた話だ。
単眼大蛇は勿論大地を這って移動もするのだが、樹木を伝い移動する事もある為だ。
樹上からの奇襲に対応できずに絡みつかれて、絞め殺される冒険者も毎年必ず何人かは居る。
危険な存在なのだ。まあ危険でなければセシル達に依頼などはおりてこないのだが。
彼女達はこれでイスカの認可冒険者である。
元はといえばセシルとシェイラの二人組のパーティで、リズは後から加入した形だった。
「蛇の痕跡はない…ないんだけど…」
だけど?とセシルが先を促すと、リズは周囲を見回した。
その様子はどこか不安そうだ。
「人の足跡…みたいなものがあるんだよね。複数…。森の、こんな奥地に冒険者は来ない…とは言わないけど、ここまで来るのって私達みたいに単眼大蛇を狩りにきたって事でしょ?でもギルドではそんな依頼はおりてないはずだよ…」
それを聞いたセシルはヨハンをちらりと見た。
ヨハンはその視線を受け、1つ頷く。
「探知を打つか?半径10キロメル程度だな。ただし、お前達の誰かが触媒を寄越すなら別だ。処女であるならなお良い。50キロメル位までは拡大できるだろう」
未通女の拗れ歪んだ情愛と執着を術に乗せ、対象の存在をねちっこく捜索する探知術である。
■
結局探知は打たなかった。
リズが強く拒絶したからだ。
「そういうのは私の仕事だから!あんたは蛇を倒す時の為に雇ったんだからでしゃばらないでよ!」
リズもリズなりに必死だったのだ。
セシルとシェイラに比べて自分は弱い。
努力はしていても、認可冒険者とはとても言えない程には弱い。
しかし、セシル、シェイラと同じパーティに所属している事で自身まで認可冒険者として扱われている。
その事にリズは忸怩たる思いを抱いていた。
だから、ヨハンが自分の仕事に手をかけることに強い拒否反応を抱いてしまったのだ。
そんなリズをヨハンは冷たい目で眺め、口を開いた。
「ああ、分かった」
──こいつは早死にするタイプだな
今度は本音と建て前を取り違えずに済んだ。
・
・
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探索は続く。
1時間、2時間…周囲に気を配りながら森を探索すると言うのは心身共に非常に疲弊する。
リズは勿論、セシルもシェイラも表情に疲れが滲んでいる。
平気そうな顔をしているのはヨハンだけだった。ヨハンはじっとセシル、シェイラ、リズを見つめている。
ヨハンの凝視めいた視線の言わんとする事はセシルにだって分かっていた。
だがリズの気持ちを優先した。
ヨハンは一時的な仲間に過ぎないが、リズはそうではない。
まあヨハンは別にセシルに圧力をかけているわけではなく、その疲労度を量っていただけに過ぎないのだが。
(もう暫く付き合って、それでも見つからなければ時間切れだな)
夜間に単眼大蛇と戦闘するのは、ヨハンは良くても他の者にとってはよろしくない。最悪、死人が出る可能性があった。
ヨハンとしてはパーティに死者を出したくない。それは人道的な理由からではなく、自分の仕事に瑕をつけたくないという利己的な理由からの思いである。
■
「あった!これ!単眼大蛇の這いずった跡よ!」
リズが喜びを滲ませた声で叫んだ。
セシルとシェイラが見ると、確かに大きな蛇が這いずった様な跡がある。
(やった!私はちゃんと自分の仕事が出来た!)
まだ蛇を見つけたわけでも倒したわけでもないのに、リズは何かを成し遂げたかの様な達成感を抱きながら喜んだ。しかし、そんなリズに冷や水が浴びせかけられる。
「違うな。それは大山主だ。大きさだけなら単眼大蛇に匹敵する蛇。温厚で、牙はあれども毒性はない。下草を見てみろ。べったりと潰れているだろう。オオヤマヌシは温厚ゆえに鈍間だ。移動速度は遅い。遅いがゆえに、その下敷きとなる草もそこまで潰れてしまうのさ。単眼大蛇は非常に素早い。よって地面を這いずった跡の下草もそこまで潰れたりはしない。大体、単眼大蛇が地を這いずる時は周囲に樹木等がない時だ。この辺の様子だと…まあ木を伝って移動するだろうな」
リズはヨハンの言葉を聞きたくなんてなかった。
だが聞いた。
話している内容は有益だとリズも分かっていたからだ。
名状しがたい苛立ち、悔しさ、怒り…そんなモノを押し込めてリズは手を握り締めてヨハンの話を聞いていた。
だが
「そうなの?教えてくれてありがとう、ヨハン」
セシルがヨハンに礼を言った時、リズの中で何かがパァンと音を立てて破裂した。
──セシルは、私よりアイツの方が…
理性もなにも吹き飛んで、リズはヨハンに向かって駆け出……せなかった。
なぜならヨハンの目を見てしまったから。
「シェイラ、リズを抑えておけよ。そいつが襲い掛かってきたら殺す。最低でもその右手に握ったナイフは没収しておく事だ。殴りかかってくるだけなら殺さずに済ませてやるが、それを握って向かってくるなら殺す。仮に止めようとするなら、止めようとした者も殺す。お前達が3人とも掛かって来るなら3人共殺す。この距離で近接戦闘職3人を同時に相手にするのは苦労しそうだから、できれば俺の言葉を聞いてくれると有難いのだが」
ヨハンの目は冷たくも熱くもなかった。ただ、話すべき事を淡々と話す、そんな様子であった。一切の感情も感じられないヨハンの無機質な視線に、リズは今度こそ折れた。
「…うっ…うう…」
膝をつき、涙を流すリズに痛々しそうな視線を向けるセシルたち、そして"なんなんだかな"と言いたげなヨハンの表情には酷い温度差がある。
■
結局その場は仲間同士の殺し合い…とはならず、相当にギクシャクした雰囲気を残しながらもその場は収まった。
「まあまあ、ヨハンもそうピリピリしないで!リズが不作法でごめんよ、強く言っておくからここは、ね?…こらぁ!リズ!いきなり襲い掛かるなんて本当に殺されても仕方ないんだよ!おばか!」
ごちん、とリズの頭にシェイラのゲンコツが落ちる。リズは頭をおさえてウウウと唸り、再びしゃがみ込んだ。
そしてヨハンを見ると、まるで自分の下唇が世界で一番おいしい食べ物であるかのようにむちゃむちゃと歯でこねくり回す。
「ご、…ごめんなさい」
そんな様子にヨハンも毒気を抜かれ、蹲るリズの姿にフッと鼻を鳴らして短く言った。
「良い」
敵意を見せた時点で始末すべきだなどという野蛮人の様な冒険者もいるが、常識的に考えて敵意を見せた時点で殺すなどただの犯罪者的思考である。
冒険者はならず者ではあるが、犯罪者ではない。リズの振る舞いは確かにチンピラめいていており品に欠けるが、それを言うならヨハンとて育ちは路地裏のチンピラだ。目があっただけで暴行を振るった事などいくらでもある。
仲間の制止を振り切って襲いかかってくるならばそれは排除すべき敵となるが、短気を起こしただけならゲンコツが精精と言った所であろう。
ヨハンもリズが謝罪したことで水に流す事にした。何事も筋が大事なのだ、と彼は常々考えている。誤ったならば謝罪、これは人として当然の筋だ。有害鳥獣ではなくて人扱いされたいのならば筋を通すべきだと言うのがヨハンの主張だ。
(助かったわ、シェイラ……)
それをみたセシルは内心でほっと安堵の息をつく。先程のヨハンは本気で殺し合いも辞さない様子だったからだ。恐らくはシェイラも分かっていただろう。
それで致命的な事になる前に場を収めてくれた。
(とりあえず何とかこの雰囲気で…)
と、その時、ヨハンの目が鋭くギラついた。
視線はシェイラ、そしてリズに向いている。
ヨハンの視線に気付いたシェイラとリズもヨハンを警戒している様だった。
「ね、ねえヨハン。なんでそんな目でシェイラ達を見ているの?」
ヨハンは軽く舌打ちするとセシルを無視してシェイラに言った。
「奇襲だ。シェイラ、そこをどけ。左右どちらでもいい。リズ、死にたくなければさっさと立て。後ろだ!…糞!鈍間が!」
ヨハンは全速力でシェイラ達へ駆け寄る。
え?とシェイラとリズが後ろを振り返ると、背後の草むらからキリリという音が聞こえ……
■
ヨハンはシェイラを蹴り飛ばす。そしてリズの首根っこを掴んで、自身の背後へ乱暴に引っ張った。
それと同時にヨハンの肩へ矢が突き刺さる。
ヨハンは努めて無表情でナイフを取り出し、突き刺さった部位ごと肉を抉り切った。
刺さると同時に発生した強い眠気はしかし、肉を抉った痛みで吹き飛ばされる。
「ヨ、ヨハン!」
セシルが駆け寄ろうとする。
「要らん。周囲を警戒しろ。囲まれてるぞ」
ヨハンが気だるそうにセシルを制止した。
セシルがあわてて周囲を見ると、ガサガサと音を立てて周囲の草むらから人影が現れた。
男4、女2。
合計で6人。セシルには分かる。いずれも手練だ。
シェイラはリズに手を貸し、立ち上がらせ周囲をにらみつけて言った。
「ブラヒ商会のお抱え冒険者…。成程ねぇ…邪魔なあたしらを始末して、セシルをさらっていこうって事かい」
シェイラの言葉に集団のリーダーと見られる男がニヤリと笑った。
・
・
・
「なあ、兄さん。俺はゲイリーってんだ。兄さん、随分乱暴な手で睡毒を抜いたじゃねえか。そこのお嬢様方らには出来ねえ事だ。あんたは警戒に値するな。でもよ、あんたはお嬢様方らと余り良い関係じゃなさそうだよな?どうなんだいそこんところは」
ゲイリーの言葉をヨハンは肩の手当てをしながら聞いていた。そして、その質問に答える。
「そうだな、俺は警戒に値する男だ。そして、彼女達については余り良い印象がない。特にそこのメスガキについては思う所が山程ある」
ヨハンの目がちらりとリズを見ると、リズの肩がびくりと跳ねた。
それを聞いたゲイリーは重々しく頷き、まるで世界最高の提案だとでも言う様にヨハンへ話しかけた。
「だったらよ、俺達の方につかねえか?報酬は……おい、リエラ」
「ええ」
ゲイリーがリエラと呼ばれる女冒険者へ声をかけると、リエラは妖艶な笑みを浮かべ、その豊満な胸の谷間から金貨を1枚、2枚、3枚と取り出す。
銀貨にして300枚だ。
それを見てヨハンは片眉をあげた。
「随分太っ腹じゃないか。お前達は俺達をいつでも始末できるのだろう?シェイラとリズを殺すのも、俺とシェイラとリズを殺すのも、大して変わらないんじゃないのか?」
ヨハンの問いかけにゲイリーは首を振った。
経験豊富なゲイリーには分かっている。
そう簡単にはいかないと。
目の前の術師を殺すなら、少なくない犠牲が出るとゲイリーの勘が告げていた。
・
・
・
良いだろう、と答えたヨハンをセシルは、シェイラは、リズは絶望的な気持ちで見つめる。
そんな彼女達をヨハンは鼻で笑い、金を受取るべくリエラに近付く。ヨハンの視線は金貨に吸い込まれており、観察力を働かせなくとも金に目が眩んでいると分かるものだった。
(こりゃあそこまで警戒しなくてよかったか。まあいい。女二人を殺したら、次はこの男を……!?)
ゲイリーの思考は途切れる。
なぜなら……
■
「俺は警戒に値する男だ、と言った筈だが」
ヨハンのナイフが、その柄までリエラの目に突き刺されていた。ヨハンは柄をぐりぐりと捻り、刃がリエラの決して損なわれてはならない部分を容赦なく破壊していく。
リエラは失禁し、舌を出し倒れた。
何処からどう見ても死んでいる。
その場の全ての者が呆気に取られていると、ヨハンは拳を突き出し取り囲む冒険者達の1人へ向け呟いた。
「雷衝・穿」
バチン、と弾ける様な音、そして閃光。
肉が焦げる嫌な匂いが辺りに立ち込める。
見ればヨハンの拳から煙が出ていた。
雷衝・穿は通常の雷衝に指向性を持たせた術だ。
この術は重大な欠陥がある。
それは、雷撃を狙った場所へ当てると言う事は非常に難しいと言う事。
そして、これはヨハンが悪いのだが触媒となる鉱石を収めるスタッフなりがないため、素手で撃たなければいけないと言う事。
ガストンに放ったものは子供騙しだ。
ちょっと痺れる程度に過ぎない。
しかし、殺傷力を持たせたそれを放つとなると…
「ヨハン、その手!すぐ手当てをしないと!」
焦った様な叫びをあげるシェイラに、ヨハンは呆れた様な視線を向ける。
「全員殺してからだ。あと4人。数だけは互角だな。しかし狙いがそれた。そこのすばしっこそうな彼を狙ったんだ。斥候だろう?手練の斥候は暗殺者みたいなものだからな。先に殺して置きたかったが、隣の女性を殺ってしまった」
ヨハンの放った雷撃に撃たれた女冒険者は倒れ、動かない。
死んだのだ。
■
「て、てめぇ…!裏切りやがったな…!」
ゲイリーは怒りで顔を歪め、ヨハンを睨みつける。
ヨハンは心外だとでも言う様に困惑そうな表情を浮かべて答えた。
「裏切るも何もないだろう、ゲイリー。お前達は敵で、彼女らはパーティメンバーだよ。正直言ってこの距離でお前達と殺り合うのは分が悪いと思うんだが、契約は契約だ。おい、セシル、シェイラ、リズ。早く正気に戻ってくれ」
ヨハンの言葉にセシル達は慌てて構える。
「ね、ねえヨハン…」
――何故裏切らなかったの?
そんな質問がセシルの喉から出そうになるが、今がどういう状況かも理解出来るため黙る。
「お前達は男だけだな。こちらは俺を除いて女が3人だ。なあ、セシル、シェイラ、リズ。お前達は怒らないのか?今回こんな仕儀になったのは元はと言えば男の欲望が原因だろう。好き放題されて悔しくないのか?」
「怒ってるに決まってるだろ!」
ヨハンの煽りめいた言葉に、シェイラがキッと眦を吊り上げて答えた。リズもセシルも表情は厳しい。
そんな3人の様子を見てヨハンは“では復讐だな”と頷いて朗じた。その2本の指には荒野狼紫茄子が摘まれていた。
「"場"を整える事が大切なのだ。因と果をその場に揃えなければ正しく術は使えない。愚かな男の欲望が原因で酷い目にあった…あるいはあいそうになった女がいる。女達は復讐を望んでいる…。そんな"場"が存在して、はじめてこの術を使う事ができる」
ヨハンの口上を、ゲイリーはなぜか中断させることができなかった。まるで舞台装置の一つであるかのように、ヨハンの言葉をきかなければならない、そんな強迫観念に囚われていた。
──哀れ、釣鐘の貴婦人は打ち捨てられた。永遠の愛は泡沫の夢。優しげな相貌は憎悪に彩られる。ならば殺せ、忌まわしき男を
荒野狼紫茄子の花言葉。
それは『男への死の贈り物』…
・
・
・
ふわりと、甘い匂いが辺りに広がる。
──香?
ゲイリーの鼻をかぐわしい芳香が擽り、そしてすぐに異変に気付いた。体が言う事をきかないのだ。
「何をした……?」
ゲイリーが低い声でヨハンに問う。
ヨハンは苦笑しながら答えた。
「ゲェェイリィィ、子供じゃないんだ。自分で考えなさい。まあすぐに分かるさ……」
ヨハンはナイフをクルクルと手元で回し、無造作に男達へ歩いていった。
セシル、シェイラ、リズはそれを見て慌てて男達へ向かっていく。男達も各々の得物を構えてそれを迎え撃とうとするが……
「な、ァ……ッ!?」
ゲイリーの、男達の膝が地に落ちた。
その手は痺れ、冬とはまだ程遠い季節であると言うのに妙に寒い。体の震えが止まらない。
そんなゲイリー達をヨハンはニヤニヤしながら見つめていた。
「辛いかい? その症状はとある毒を術で再現していてね。少し前まではよく使われた毒だよ。妻が夫を毒殺する時に使われていたんだ……。お前達も知っての通り、少し前の時代は男尊女卑と言うのかな。西域での女性の社会的地位が著しく低かった。当時はなんというか、女性は奴隷同然だったそうだよ。だがね、女達だってずーっとそんな扱いされていれば怒って当然だろう? 一時期、そういう怒った妻達が傲慢で暴力的な男性を毒殺しまくったんだよ。不思議だと思わないか? そんな毒、それ以前には使われた事もなかったのに。ただ、当時帝位についたレグナム西域帝国7代皇帝ハナーは帝国史上初の女帝だったのだが、彼女は継承権を持つ男の親族全員を毒殺してね、丁度彼女が帝位につく少し前に件の毒が……ってああ、もう声も聞こえないかな?」
機嫌が良さそうにべらべらしゃべり狂うヨハンの肩をシェイラがぽんぽんと叩く。
「……なんだ? 邪魔しないでくれよ」
シェイラの方を振り向いたヨハンは機嫌が悪そうだった。
「わ、悪かったよ。でも、こいつらはどうするんだい? もし何だったらイスカの衛兵へ引き渡したいんだけど……ほら、元凶の商会について証言させたいし……」
シェイラの言葉に、ヨハンは深刻な表情を浮かべるのみだった。
「え……もしかしてこいつらは助からないのかい……?」
シェイラが恐る恐る問いかけると、ヨハンはやや引きつった笑みを浮かべ答えた。
「いや、大丈夫だ。今すぐ解毒をすれば……」
「で、でも血を吐いてるよ……」
ヨハンは沈痛な表情を浮かべ、倒れ伏す男達へ目を向けた。
「大丈夫だ……1人くらいはきっと生かしておける……はずだ。参ったな、俺は殺すのは得意だが癒すのは苦手だぞ……」
ブツブツ言いながら男達に手当てをするヨハンを、セシルもシェイラもリズも不安そうに見つめていた。
■
紫狼の呪い。
これは実際の所、余り使い所がない。
特定条件でのみ起動する呪毒の術なのだが、まず敵対者が男で仲間が女である必要がある。
そして女の方が心からの怒りを……理不尽への叛逆の炎を胸に燃やしている必要がある。
男達も男達で、自身の欲望というか、そういう私利私欲を傲慢に女へ押し付けていなければならない。
単純に敵に男がいて、味方に女がいればいいというものではなく、様々な条件が設定されており、その条件を全て満たした場合にのみ起動する。
その者に毒物の耐性があってもそれを貫通するという利点はあるのだが、ただただ敵対していた場合では理不尽へのなんたらかんたら等の条件を満たす事はできない。
だが、連盟式の術とは少なからずこのように使い勝手が悪い部分があり、ヨハンは連盟式の術式のどこか不器用な部分が気に入っている。
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