ヘリオトロープの悪魔

過去




その膨大なガラクタの記憶の中に、やけに呼び覚まされるものが一つある。




”魔法の神髄”もしくは、”悪魔の前身”と呼ばれる、ニンゲンが到達できる魔法の最高境地に、身共が初めて触れた瞬間だ。




気が狂う者、自滅する者、駆逐される者。




魔法使いとして生きる同族が、「悲劇の始まり」や「一人前の証」と呼ぶその境地に立った時、言い聞かされていたような、苦しみや、身を引きちぎる悲憎の衝動は無かった。




ただ、






これこそ、身共の在るべき姿で、居るべき場所なのだと・・・・・・安堵した。














「悪魔よ・・・・・・」


















今までに見たことのない、新たな召喚者だ。




呼び出され、言われた願いを適え、また何処かへと消える。




この青ざめた餓鬼の顔をしばらく拝むことになるのか・・・・・・。


































































ヘリオトロープに選ばれた最初の召喚で、契約の引き換えに力を得た。




身共に敵う悪魔はほかに居なくなった。








































次の召喚では、何も願わなかった。




どんな願いもかなえうる悪魔が、かような方法でしか望みをかなえられぬなど、最強を手に入れた身共には似つかわしくない。




















































初めて、女が召喚者になった年、全知全能を願った。




力だけでは、成せることには限りがあった。この契約を持ってしか、悪魔は自分自身の願いを適えられない。






あの時のニンゲンの反応は可笑しかった。




赤、青と石を体に巻き付けた輩が、契約を取り消してくれだの喚いていた。


















これで、身共は悪魔という呪縛から解放されるのだ。




あの、魔法の神髄へ、還れるのだ。












だが、この能力は、身共を縛る鎖を灯りで弱弱しく照らしただけだった。






















唾棄すべき理だった。








忌々しい”呪い”とでも言えようか。








ヘリオトロープでちまちまと願いを適え、浄化しなければ、この煩わしい依り代から解き放たれることはない。






次の願いで、この理を曲げられないかと考えた。










そこで、しまったと思った。




召喚者を殺めてしまった。










「やむなし。次の召喚者を待とう」










だが、十年待っても、千年待っても、召喚者は現れなかった。




















やっと、次の召喚者が現れた。




時間など悪魔には無意味なものだが、初めてヘリオトロープの悪魔に選ばれようとしていたときより、はるかに長かったと感じる。








だが、期待もつかの間、身共はヘリオトロープの悪魔に選ばれなかった。




その薄汚れたボロ雑巾のような下級悪魔は、身共よりさらに強い力を願った。




次も、






その次も、






その次も、






その次も、






その次も、






その次も、






その次も、






その次も、






その次も、






その次も、






その次も、






その次も、






その次も、






その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、






その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、






身共は選ばれなかった。








魔法書の、下級悪魔の一派に数えられるようになった頃、一匹の餓鬼に召喚された。




何やら、あやふやなことを言っていた。問い詰めれば、まだ願いは定まっていなかった・・・・・・。




身共はケーキ屋ではない。決めてから出直せと言った。




だが、一度召喚されれば、契約を結ばぬことには解放される術がない。








悪魔と契約したと知られてはいけないとかなんとか言って、ニンジャのまねごとをさせられ、暇だからと遊び相手をさせられ、身共の尊厳的な何かは失われたように思われた。
















「ねぇ、悪魔さん。っお願い・・・・・・、お父さんをしあわせにして」


















































身共の中に、懐かしい力が流れ込むのが分かった。






















































この餓鬼が願いを口にした途端、確信した。








































ヘリオトロープの悪魔に選ばれたのだ。






































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ヘリオトロープ ~悪魔との契約~ 雪 月花 @suzuki-sayaka-official

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