第7話 大根は捕まってしまった。

 なんだか、懐かしい音がする。トントンと、うるさいはずなのに安心する音。そして、いい匂いが……。


母さん……?


 そうだ、この音は母さんが料理を作っている時の音だ。眠気に重く引きずられながら、俺はハッキリと意識を取り戻していく。

 俺が目を覚ますと、そこには懐かしさを感じない台所があった。


……っ! 違う。俺は死んだんだ。母さんじゃない。誰だ、このおばさんは……。


 俺は足の高いダイニングテーブルの上に寝かされており、このダイニングテーブルから人が二人分通れる程のスペースを確保して、壁際にシステムキッチンが設置してある。目の前では、見知らぬおばさんが俺を背にして料理をしていた。誰なんだと思っていると、どこから来たのか、ギャルがいきなり俺の顔に近づき、物珍しそうな表情をしている。


「え〜、すっごー! この大根、脚生えてるんですけど。大根脚じゃねえし。アタシより美脚なんじゃね?」


 そう言うと、ギャルは息をするように、様々な角度からパシャパシャと、ド派手なカバーをつけたスマホで俺を撮ってきた。俺はなんだか恥ずかしくなってしまい、ないはずのアソコを隠したくなり、モゾモゾと少し動いてしまった。するとギャルの手が止まり、スマホで見えなくなっていた顔が、ゆっくりと姿を現しながら、不思議そうな表情をしていた。


「ん……? ねえ、お母さん。今この大根動いたんですけど」


 ギャルは、表情と同じように不思議そうな声で言うと、料理をしていたおばさんが振り返った。


「そんなはずないでしょ。あなた、早起きして畑作業を手伝ってくれたから疲れているのよ。さぁ、もうすぐしたらご飯にするから、シャワーを浴びてらっしゃい」


 このおばさんは、ギャルの母親か。ギャルのハキハキとした口調とは似つかない優しそうな口調と声色でギャルの母親がそういうと、ギャルは慣れたように、でも少し後ろ髪を引かれながら「はーい」と言い、台所を去っていった。

 俺は、台風のようなギャルが去っていったことと、ギャルの母親の優しそうな雰囲気に安心してしまっていたが、しばらくして自分の置かれている状況に、ハッとした。


まてよ。俺って今、ピンチな状況なんじゃねえか?


 確かあのじじい、調理をされてしまうと、その食べ物の消費期限が寿命になってしまうって言ってたよな? 俺は今、台所にいて、目の前ではおばさんが料理を作っている。つまり……


俺、これから料理されるのか!?

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