46.罠!?

「有里ねぇ、怖いとか言って、その……ごめん」


「……」


「……正直、あの日記を見せてくれたこと、嬉しかった」


「……」


「なのに、それを怖いとか言って……」


「本当にごめん」


顔を俯けている有里ねぇの方に頭を下げて謝った。


今日は心なしか、謝ってばかりいる気がする。


しばらくの沈黙があってから


「……本当に、悪いと思ってる?」


有里ねぇは顔を俯けたままそう言った。


「……うん」


「本当に?」


「うん」


「本当の本当に?」


「だから……思ってるよ」


「そう……」


なぜかそう言っている有里ねぇの声色からは落ち込んでいる様子が微塵も見られない。


何かおかしい……。


俺が、そう思った時にはもう遅かった。


「ふーん……じゃあ、私のお願い事を一つ聞かないといけないってことで許してあげる!」


「……え?」


「だって〜! 優太、私に悪いと思ってるんだよね?」


「……うん」


「それじゃあ、お願いごとくらい聞いてあげないとダメだよね〜?」


「……はい」


さっきまで落ち込んでいたはずの有里ねぇは、今はその面影もなく顔を上げてニヤニヤしている。


「あのさ、もしかして……さっきのって初めから……演技?」


「ん? あ〜……まぁ、自分でも怖いって思ってたしな〜。だって、だいぶ前に、凛津とテルに見せた時は『キャー!』って言って逃げられたんだから! 全く酷い話だよ!」


「……」


一体、その日記に何が書いてあったんだ……。


そこまで行くと、サイコホラーだぞ……。


一体、何が書いてあったのかテルと凛津の二人に目配せして確認しようとしたが……


「……」


「……」


両者とも首を横にぶんぶん振っていた。


「ん? どしたの? 2人とも」


「ん、んっ!? なっ、何でもないですよ! 別に、優太君が浮気した時にどうなったのかを想像した日記の事なんて考えてませんよ!」


「……」


どうやら俺は有里ねぇの脳内で浮気をして、酷い目に遭わされたというのは察した。


怖いからこれ以上、それについて考えるのはやめたけど……。


「まっ、まぁ! 有里ねぇも本当に落ち込んでる訳じゃなかったんだし! 良かった、良かった!」


俺が平穏に場を収めようとすると


「優太?」


目が据わっている有里ねぇがこちらをじろっと見ていた。


「はっ、はい? ……まだ何か?」


「お願い、まだ話してないよ?」


「でも、本当に落ち込んでる訳じゃないって……」


「さっき言ったよね〜?」


「……はい」


結局、俺は有里ねぇの戦略にまんまと嵌められ、お願い事とやらを一つ聞く羽目になってしまった。


「それで……願い事って?」


「それはね……明日のデートの時に話そうと思う」


「今じゃないのかよ! てか、明日? デート?」


突然、有里ねぇの言い出したことに理解が追いつかずにおうむ返しになってしまった。


「あれ? 言わなかったっけ? 明日デートするって」


「いや……初耳たけど」


「そう……それじゃあ今話したから! お願いについては、明日話すね!」


「ちょっ、ちよっと! 急すぎるだろっ! ていうか、どこでデートするつもりなの?」


「それはね〜! 明日になってからのお楽しみ! ねぇ、凛津?」


さっきまで黙っていた凛津は突然名前を呼ばれて驚いたのかビクッとしたけれど、すぐにいつも通りに戻って


「そうね、明日のお楽しみよ!」


そう言った。


「それじゃあ……帰ろっか!」


「そうだね」


2人はそう言って教室を出て行く。


教室に取り残されたのは俺とテルの2人。


「……結局、この学校に来た本当の理由は何だったんだ? 別に、わざわざわこの学校まで来て、する事でもなかったような気がするんだけど……」


俺はテルにそう問いかけた。


すると、


「多分……見てほしかったんじゃないんですか?」


テルはこちらを向いてそう言った。


「見る? 見るって何を?」


「それは……2人が、優太君と離れてからずっと過ごしできた場所とかですかね?」


「……でも何で?」


「うーん……」


テルは少しそこで間を置いてから


「有里香さん、島の外で色々な人達と会ったり、色んなことに触れたり……そういった経験があって私達は成長出来たんだって言ってたじゃないですか。だから、その場所を優太君にも見せたかった……こんな感じじゃないですか?」


「……そっか」


2人は何か目的があって、この学校に俺を呼んでくれたと勝手に思っていた。


けど、2人にとってはこの学校を俺に見せる事、つまり自分達が成長して来た場所を見せたかったってことか。


「ありがとう、テル。俺、全然分からなかった」


「まぁ、無理もないですよ。こんなやり方じゃ伝わった方が凄いですからね」


テルはそう言いながらニコニコ笑っている。


テルはやっぱり、凄いやつだな。


俺が少し、テルを見直していると  


「2人とも何してるの? 早く行こうよ!」


「そうだよ! 船出ちゃうよ!」


先に教室を出た2人がそう呼びかけてきた。


「んっ? あっ! 時間もうあと少しじゃん!」


「本当だ! 優太君、急ぎましょう! ……って、もう走ってるじゃないですか!」


俺達は、急いで船の乗り場までかけて行った。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る