11.約束の日②

私は今、有里ねぇと神社で2人で話している。


「だから……ここからは、勝負……だね」


有里ねぇの静かな一言に、緊張感が走る。


一体この後、何が起こるのだろうか?


私が静かにこくんと頷くと……


「うーん。やっぱりこういう真剣な感じ、私に合わないわ〜!」


有里ねぇはそんな事を言いながらグーッと伸びをしながらそう口にした。


続けて


「よーしっ!! 私は優太が好きで、凛津も優太が好きってなったらやることは一つでしょ!」


と私にビシッと指を刺して言った。


私は一体、有里ねぇが何をしようとしているのか全く分からなかったので首を傾げる。


「そりゃあ……」


有里ねぇは一拍置いてから


「アプローチだよ!! 優太に私の事意識させないと始まらないからね!」


なんて自慢げに胸を張って言い始めた。


「そんなの当たり前じゃん!!」


私はツッコまずにはいられなかった。


だって、そんな事至極当然な事で


「じゃあ、そういう凛津はもうアプローチしてるの?」


当然、私は昨日から優太といるわけだし勿論…………。


勿論……全くしてない。


むしろ逆効果?


嫌われたんじゃないかっていうくらいだ。


私はそこで、昨日から今日までの優太に対しての態度を思い返しながら


「そっ、そんな……のあっ、当たり前じゃん」


私は有里ねぇにはバレまいと必死で取り繕った


のだが、当然


「凛津……そこまでして意地張らなくても……」


有里ねぇには、すぐバレてしまった。


「……」


「まっ、まぁまぁ! 凛津そんなに落ち込まないで……これからだよ!」


ううっ! 


敵に励まされるなんてなんて惨めなんだろう……。


私が一人で落ち込んでいると、有里ねぇは


「よーし! もうこれでお互い遠慮する必要はないからね! もし負けても恨みっこなしだよ!」


と言って私の方を見た。


「勿論」


私はまだ落ち込んでいたけど、もう落ち込んでいる暇はないと自分に言い聞かせるように大きな声でそう言った。


「ところでさ……せっかく神社来たんだしお参りして行こうよ」


「……うん」


そしてなぜかそれから、お参りすることになった。


私と有里ねぇは賽銭箱に向かってお賽銭を投げて、礼をする。


私は今回絶対、有里ねぇに勝たないといけない。


でも……有里ねぇは私なんかよりも綺麗で、誰とでもすぐ仲良くなれるし……


いっそ、私が有里ねぇだったら……


私は気がつけばそんな事を考えていた。


そして、再び頭を上げて、帰ろうとしたとき……


「よし! それじゃあ、帰ろっか!!」


なぜか隣で、私の声が聞こえた。


「えっ? どうして私の声が?」


すると、なぜか有里ねぇも


「うん? どうして私の声が隣から聞こえるの?」


なんて言っている。


そういえばさっきお参りした時は私が左で、有里ねぇは右にいたのに、逆になっている。


きっと、有里ねぇの悪戯か何かだと思い、左を向く。


すると…………


「え?」


「私!?」


二人の声が同時に響いた。


私は何が起こっているかさっぱり分からない。


だって、信じられないことに今、私の向かいにいるのは……私なのだから。


それじゃあ……私は?


下を向いた時に見えた水たまりには……


「えぇっ!? 有里ねぇ!?」


私ではなく有里ねぇが写っていた。


当の有里ねぇも自分の姿を見て驚いている。


まだ理解が追いつかないけれど……これは


「入れ替わり……」


私がそう言うと(私の姿をした)有里ねぇは


「えぇ〜〜っ!?」


なんて言いながら、私の体を触り始めた。


「なっ、何してるの! 有里ねぇ!」


「うーん。 確かに本当っぽいね……。 私、もっと胸あった気がするし……」


「……」


私も自分の胸の辺りを触ってみる。


すると……なぜか……ムニュ。


えっ? 


あるはずのない膨らみがあった。


一方で有里ねぇはというと、ずっと胸の辺りで手をスカスカさせている。


「……」


「あのさ……凛津。なんとなく、そうかと思ってたけど……控えめ……なんだね」


有里ねぇの言葉が私の胸ににグサッと刺さった音がした。


「……」


有里ねぇは、しばらくスカスカしていたけれどようやく私が、かなりのダメージを負っていることに気が付いたのか何も言わなくなった。


それから


「じゃあ……帰ろうか」


私の姿をした有里ねぇはそう言った。


帰る途中、優太にはなんて説明すれば……と考えていると有里ねぇは


「あのさ……凛津。 この事……みんなには黙っておかない?」


なんて事を言い始めた。


確かに、入れ替わったなんて言っても、そんな事普通は信じられるはずがない。


かと言って……何も言わないなんて……


そこで有里ねぇはもう一度口を開いた。


「多分ね……優太は気づくと思うよ……というか私はそう信じたいかな?」


「信じたい?」


「うん」


確かに優太なら気づいてくれると思う。


私もそう思っている。


でも……もし、このまま気づかれなかったら……


そんな事を思っていたらあっという間に家まで辿り着いてしまった。


私はそのまま家に入ろうとするが、


「あっ! 凛津! 今は私の体なんだから急に行ったら驚かれるよ!」


と有里ねぇが私を止めた。


「じゃあ……どうすれば」


「私が行ってこよう!!」


有里ねぇはそう言って、家の中へと入って行った。


それから数分後……


「遅いな〜有里ねぇ」


有里ねぇが全く帰ってくる気配がないので私はそインターホンを鳴らす。


ピンポーン


少ししてから


ガラララっ


と扉が開くと……


「おいっ! 凛津!! なんで急に抱きついてきてんだよ!!……って有里姉ちゃん!?」


「……」


そこには優太に抱きつく私、ではなく私の姿をした有里ねぇがいた。


「何かあったの?」 


「……」


「有里姉ちゃん?」 


「っ! ……私のっ……私の体でっ! なにしてるのよっ!!!」  

 

ようやく今の状況を理解して、言葉が出てきた。


私は有里ねぇの方をビシッと指差して言った。


すると有里ねぇは


「んふふふっ!」


優太に抱きついてニヤニヤしていた。


さっきは……「信じたいんだ」なんてかっこよく言ってたくせに!!


そうだ!


私と有里ねぇが入れ替わってるって事を優太に伝えれば……


「あのさ……有里姉ちゃんどういう事?」


「そっ、そいつはっ!!…………」


私は言いかける寸前で踏みとどまった。


普通はこんなこと言ったって冗談だと思われて終わるに決まってる……。


「本当にどうしたの?」


「……」


もう、それなら!!


ムギュッ! 


「え?」


「あのっ? 有里姉ちゃん?」


優太の困惑した声がすぐ近くから聞こえる。


「そっ、そうよっ!! ……わたしっ! 今、有里ねぇだしっ……? 別にこんくらいのスキンシップは普通にやる……よね? 優太?」


っ! 恥ずかしい!! でっ、でもこんなに近くに優太がいる!! はぁっ! 好き! 優太かっこいい!


私は真っ赤な顔で、優太の空いている腕に抱きついた。


すると、反対の腕に抱きついていた有里ねぇはこちらをちらっと見てから、ニシシッと笑いかけてきた。


どうせ、こんなことだろうと思ったけれど……、まぁ今回に関しては有里ねぇのお陰だし……いいか。


私はそうしてもう一度ギュッと優太に抱きつく。


けれど……なぜかそれから少しして、優太が何も言わなくなってしまった。


どうしたのだろうと思って、優太の方を見ると……気を失っていた。


「ゆっ、有里ねぇ!! 優太、気失ってるよ!!」


「えっ?! ほっ、本当だ!? 早くベッドとかに運ばないと!!」


私達は2人がかり、で優太をリビングの方まで運び、それから優太が目覚めるまでそばで見守った。
































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