9.有里香の初恋②

私の名前は椿有里香だ。


また、この前の話の続きになってしまうけれど、もう少しだけわたしの話を聞いてほしい。


優太が久しぶりに島にやってきた翌日……



私はいつもよりも、早く目が覚めた。


せっかく早く目覚めたし、久しぶりにこの辺りを散歩しようかな?


私はそんな事を思いながら、朝ごはんを食べた後、そのまま着替えて外に出た。


外に出た途端、ジリジリとした日差しが照りつけてくる。


「今日も暑いな〜」


私はそのまま歩き始めた。


凛津との約束の時間まではまだかなりあるしな……。


どこか行く所…………あっ!


久しぶりにあの山に行ってみよう!


あの山というのは、昔よく優太や凛津と一緒に登った山の事だ。


昔は良く凛津や優太と一緒に登ったっけな〜。


そんな事を思っていたらあっという間に山の入り口の方までやってきた。


すると……同じタイミングで遠くの方から誰かがやってきた。


目を凝らして、遠くの方をみると…………


「優太?」


私は優太と会うのは8年ぶりなのにも関わらず、彼の姿を見た途端すぐに分かった。


そのまま直ぐに駆け出して、優太!!と出て行きたい所ではあったけれど……何故か私は反射的に隠れてしまった。


優太はそのまま私に気づくことなく、山の中へと入っていく。


優太が完全に山の中へと入っていったところで、私は遅れて優太を追いかけるように山の中へと入っていく。


山の中は、外よりも比較的涼しい……と思っていたのだが、今日は全然涼しくない。


むしろ、山登りをしているという事で余計暑く感じる。


「お茶でも持ってくれば良かったな〜」


私がそうぼやいた時に突然、前を歩いていた優太の足が止まった。


はっ! このままじゃ、私が尾行してきてるのバレちゃう!


私は咄嗟に近くの茂みに隠れた。


どうやら優太は疲れて休憩しているようだった。


私は音を立てないように動かず、おとなしくしていた。


それからどのくらい時間が経っただろうか。


しばらく茂みに隠れていた私も、そろそろ疲れてきたので、一度立ち上がると……


「えっ?」


「だっ、だれかいるんですか?」


ばっ、バレた!?


ガサッ、ガサッ


優太がこちらの方へと近づいてくる。


「あっ、あの〜〜」


優太の声がどんどん近づいてくる。


ガサッ、ガサッ、ガサッ


もっ、もう、バレても仕方がない!


いや……待てよ? 


私も偶然、出会ったみたいに振る舞えば誤魔化せるのでは?


「うわっ!!」


「うわっ!!」


山奥の中で2人の声が綺麗にハモった。 


「えっと、だいじょ……」


よし! 幸いまだ優太は私に気がついてない!


それじゃあ私が初めに!


私は優太が全てを言い終える前に


「優……太?」


と口にした。


「えっ」


ふーん。 まだ気がつかないんだ〜〜?


私は追い打ちのように


「わぁ〜〜っ!! やっぱり優太だよね〜!!」


「私! 私だよ〜!! 有里香!!」


と続け様に話し続けた。


すると……ようやく


「ゆ、有里姉ちゃん?!」


優太は私に気が付いたようだった……のだが


「むー。優太どこ見てるの!! 久しぶりに会ったのにそんな所ばかり見られたらお姉さん恥ずかしいよ!!」


本当に優太だ! 私は久しぶりの再会にとても感動した……けど、やっぱり急に胸を見られるのは恥ずかしいよ!


まっ、まぁ……優太だったら……そのうち……って!


私は何考えてんのさ!!


たぶん今頃、私の顔は真っ赤になっていることに違いない。


「ごっ、ごめん。そんなつもりじゃ」


そこで優太の声が聞こえてきた。


「あははっ! 分かってるよ〜! 優君も男の子だし仕方ないよね!」


本当はちょっぴり恥ずかしかったけれど、ここはお姉さんの余裕というやつだ。


「……」


すると、優太は黙ってしまった。


からかったつもりだったのに優太は本気で恥ずかしがっているようだった。


は〜〜っ! 優太可愛い! 好き好き!!


ずっとこのまま見ておきたいけれど、ここままだと優太も可哀想だし……


「ところで優くんはどうしてここに?」


私は名残惜しく思いながらも、話題を変えた。


すると、優太はどこかほっとした様子で


「あ〜。散歩で昨日は来れなかったところまで久しぶりに行こうと思って……。ここでは有里姉ちゃんと凛津との思い出も沢山あったし……」


と答えた。


「そっ、そうなんだ! 実は私もここに来るの久しぶりなんだ!」


急に私の名前を出されて少しドキッとしながらも、私は平静を装って答えた。


「へ〜。そうなんだ」


「優くんも山頂まで登るんだよね?」


「そのつもり……だけど」


それじゃあ……


「よし!! じゃあ山頂までどっが先に登れるか勝負しようよ!!」


「えっ? そんなっ、急に……!!」



私は優太が全て言い終わる前に走り始めながら


「よーし。スタートっ!!」


と口にした。


「ちょっ! まって!!」


優太が何か言おうとしていたけれど、もうその時の私には何も聞こえていなかった。


「はぁ、はぁ、はぁ」


優太は汗だくになって背中を上下している。


「優くんもまだまだだね!!」


一方で私は……というと、見ての通りピンピンだ。


「相変わらず早いな~。今なら勝てると思ったんだけど」


確かに優太もかなり速くて、一瞬負けるかと思った……なんて事は勿論、口に出さずに


「ちっ、ちっ、ちっ 甘いぜ後輩!! 優太も速くなったように私も速くなっているのだよ?」


私は強がって返事をする……と優太は


「どうやらそうらしい。完敗だ~~!」


と口にした。


「ふっふっふっ!!」


私は、やっぱり勝負に勝つのは楽しい! なんて思いながら高らかに笑った。


それからは、そのまま2人で山頂にある木のベンチに腰をかけて他愛もない話をした。


高校では何部に入っているか、休日は何をして遊ぶのか、今でも好きな食べ物は変わっていないのかとか。


そんな質問をお互いしていた時、私は気になっていた事を聞いてみる。


「じゃあ、次の質問。優くんに今、彼女はいる……?」 


……ドキドキする。 これでもし居るとか言われたら私……


「えっ!彼女? いないよそんなの! 俺全然モテないし……」


やったーっ!! 彼女いないんだ!!


でも……なんだか少し悔しいな……。


こんなにカッコいいのにモテない……とか、絶対周りの子たち優太のカッコいい所知らないんだ……くーっ! 悔しい!!


私がそんな事を思っていたらそのまま優太は続けて


「そういう有里姉ちゃんは彼氏とかいないの?」


と聞いてきた。  


それに私は、


「勿論、居るわけないじゃん!! 優太以外を彼氏にするなんて考えられないよ!!」


と答えようとも思ったけれど、そんな事突然言ったら、優太も困惑するだろうし……


「いないよ……。でもね、ずっと好きな人はいるよ?私、その人の側にいる時はね、その気持ちには気づかなかったんだ。でも……その人と離れてから、初めてこの気持ちに気づいたんだ」


私はそれとなく、優太の事が好きなんだよ! と口にした……。


多分……優太はこんなんじゃ全然分からないだろうけど……なぜか急に恥ずかしくなって顔を俯ける。


「そっ、そうなんだ……」


なぜか優太も顔を俯ける。


もっ、もしかして!?


これ優太、気づいてるんじゃ!?


「あっ、あのねっ!!」


私は勇気を出して、優太のすぐ近くで口を開く。


「!?」


優太もびっくりしているようだった。


けど……今は、チャンスだし……


「あの……ね」


「うん」


優太はようやく少し落ち着いて、わたしの話に耳を傾ける。


…………よし!


「私の好きな人……知りたい?」


私は自分の顔がカァッと熱くなっていくのを感じながら、優太に尋ねる。


すると、


「おっ、俺の知ってる人なの?」


優太がそう口にしたので、私は頷く。


だって……優太がその本人なのだから……。


「でもさっ、俺なんかに教えていいの?」


私は再び頷く。


私の心臓の鼓動はドクンドクンどんどんと速くなっていって……


もしかして……私、今までずっと抱えてた思いを、今ここで優太に伝えられるかもしれない そう思うと……たまらなくドキドキしてくる。


それから数秒して……


「っ!」


……優太は、決心を決めたような顔で


「知りたい!! 有里姉ちゃんの……すちな人っ!」


と……噛んだ……。


優太はそれから真っ赤な顔でもう一度私の方を見ようとしてくれたけれど……


「アハハハっ!!」


私にさっきまでの緊張感はもう無くて、とにかく大事な場面で噛んでしまった優太を笑わずにはいられなかった。


私がしばらく笑っていると、優太は少ししょげている様子だったので


「ごめんごめん!!」  

  

と、謝っておいた。


すると、優太は


「もういいよ! で、有里姉ちゃんの好きな人って?」


とさっき私が言おうとしていた事を再び聞いてきたけれど、


「うーん。今日はやっぱりやめとく。なんかまだいいかなって」


私は、やっぱり今伝えるべきじゃないと思った。


なぜなら……それは少し卑怯だから。


誰に対して? って? 


それはまだ秘密……。


優太はしばらく納得が行かないという感じだったけれど、少しして


「………じゃあさ、この島に俺がいる間に教えてよ」


と口にした。


勿論! 元からそのつもりだよ!


私はそういう意図を込めて


「うん!! わかった!」


と元気よく返した。


それから30分後、私はまた山の入り口の方まで戻ってきていた。


ついさっきまでは優太も一緒で


「良かったら一緒に帰らない?」


と誘ってくれたのだが、私は


「あ~。ごめんね。今日この後大事な話があるんだ」 


と断ったのだ。


本当は優太と少しでも一緒にいたかったけれど、こればかりは仕方がない。


なにせ、これから話す相手とする話次第では、私は優太を懸けて勝負しなければならないのだから。


私は、まだ沈む気配のない日を見ながら、神社の方へと向かった。

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