第16話「ふん、副ギルド長だからあたりまえよ」
「先般の動乱で使われた人造アーティファクトです。ベルクカーラのハンターギルドは、今回のキング盗賊団がそれを使っているのではと睨んでいましたが」
「緋石――か。聖血教会の動乱については人並みに聞いているが、このようなものが用いられたとは、知らなんだな」
ルイーバ町長が、銀色の笛に組み込まれた小さな紅い結晶を、部屋のランプで照らしながら顔のしわを深くしつつ見つめていた。
「カデン兵長は知っていたかね?」
「う、噂程度には聞いていました。なんでも魔獣を操れるとか」
「そりゃ、今しがた俺が言ったぜ」
「うるさい! 私とて貴族の出だ」
そう息巻くカデン兵長だが、荒い鼻息にチョビ髭が揺れてロレッタが小さく吹いていた。
「魔獣に組み込まれた奴は俺が砕いたもんだから、爆発して消えちまった。回収出来りゃよかったんだが」
「グハハハ、兄貴にそんな器用な芸当期待してねーぜ」
「ガハハハ! ったりめーだ。敵・即・断。姐御の教えは守らねーとな」
役場の狭い応接室に響く野太い笑い声。
「しかし嬢ちゃん、よく緋石のこと知ってたな」
「ふん、副ギルド長だからあたりまえよ」
「副ギルド長 “見習い” な」
「煩いわね! そういうあんた達こそ、なんで知ってんのよ。これ重要機密でしょ?」
「なんでってなぁ」
そのイカつい顔を見合わせる兄弟。随分と鬱陶しい絵面だ。
「まぁ、嬢ちゃんと町長のオヤジならいいか」
「待て、私もいるぞ!」
「はいはい、兵長様もな。俺たちゃあの動乱で戦場にいてよ」
「たしかハンター全員が動員されてたんでしょ? 私はそのころまだ学園にいたけど」
「ああ。俺たち割とその渦中にいてな、首謀者を追ってクリムヴァルト領にも行ったし、戦場じゃあベルクカーラ王と一緒に敵の親玉の間近にいたりしたんだぜ」
「一応俺たち、勲章もらったしな」
「は? 嘘でしょ?」
「こんな嘘つくかよ」
「あ、それであの通行手形……」
「そういうこった。で、戦後処理にもかかわって、一時は動乱で散らばった緋石狩りをしてたんだが」
「きりがねーんだよな、これが」
肩を寄せつつぼやくオットーに、アニーもそうそうと同意する。
「だからよ、見つけ次第優先して何とかすることになってる」
「小遣いもらえるしな」
言いながら親指と人差し指で輪を作り、お金のジェスチャーをして下卑た笑いをするオットー。どう見ても盗賊だ。
「……私、聞いてないんだけど」
「ま、副ギルド見習いじゃ、そこまでだろーよ」
「ちょっと、頭触らないでよ!」
アニーがワシワシと撫でたせいで乱れた髪型を整えながら声を荒げるロレッタだが、その不満はアニーだけではなく、全てを伝えていなかったギルドマスターへも向けられていた。
「とりあえず、俺たちはしばらくここに留まって盗賊団の動きに警戒することにする。いいかオットー」
「構わねぇよ。
「ああ、姐御に手紙出しておくか」
「ちょっと待ちなさいよ!」
ロレッタが立ち上がり椅子を鳴らす。
「私、あんたたちを連れ戻すまで帰るなって言われてんのに、どうすんのよ!」
「ああん? そんなん知らねーよ。勝手に帰れ」
「それじゃ職務放棄になるでしょ!」
「帰ってこいって言われても、俺たちゃしばらく帰れねー」
「緋石もアレだが、久々の帰省だしな。親孝行もしねーと」
「なに言ってんの! そしたら帰れない私はどうすればいいのよ」
アニーがルイーバ町長を見るが、フルフルと首を振る。
「しかたねぇな。町長のオヤジ、尋問は明日だな」
「先ほど領主さまのところに連絡を走らせた。それが来るのも明日の夕方だろうからのう。警備隊に夜の見張りは頼んでいるから、今日は休んでくれ」
「じゃあ帰るか。いくぞ」
「おう、腹減ったな」
「あ、ちょっ」
アニーとオットーが椅子を立ち、部屋を去るのをロレッタが困った顔で見送ろうとする。
「何してんだ。行くぞ嬢ちゃん」
「行くってどこに?」
「決まってんだろ。俺たちの実家だ」
その瞬間、ロレッタの脳裏に浮かぶのは、崩れかけた石造りのあばら小屋。二人に似た感じの世紀末な両親や兄弟が待ち構えているだろうと、当然二の足を踏む。
「おら、野宿して―のか。いくぞ」
「あ、待ってよ」
魔術で光球を作り出したオットーとしんがりのアニーに挟まれ、まるで悪党に連れ去られる少女のよう。
ロレッタは不安で胸を満たしたまま夜道を急いだ。
―――――――――――――――――――――――
《あとがき》
先般の動乱については、完結済み作品『骸骨剣士は眠れない!』をご覧いただければ。
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