第16話
「なにを固まっておるのだ。ついてこい」
視線の高さにいた猫が、とんと足元に降りて見上げてくる。
そのまま長いしっぽをゆらして進む先には、深い緑色のドア。
ギィィィ―――――…
と、さび付いた音をさせながらゆっくり開いた先は、不思議な空間だった。
所狭しと様々なものが溢れていてきらきらしている。
蝋燭の光が揺れるたびに違った表情がみえるので、つい入り口で見入ってしまった。
「おい、薬爺。客だ!」
さきほどの猫がカウンターらしき場所に飛び乗って、奥に向かって声を荒げている。
勝手知ったるということか、来客を知らせるベルをしっぽで連打というおまけつきだ。
「うるさいのう…。またお前かエヌ」
「客だといったろう」
奥から出てきたのは、みるからにおじいちゃんです、という風貌をしていて、名前そのままと納得してしまう。
白くふさふさとしたひげを蓄え小柄な薬爺はこちらに気づき、ありゃ!と声をあげた。
「こりゃあ失礼を。お客さんだったんだね」
「ふん!」
喋る猫はエヌというらしく、ふんと座り心地のよさそうなソファの上のクッションにもたれかかっている。
どうぞ、とその横のソファを進められ素直に腰掛ける。
「あの、これ」
おかあさんに渡された手紙を渡せば、ほう?と中身を確認している。
内容を読み終わったのか、あいわかったといい奥に引っ込んでしまった。
「…しばらく待てばいい」
「あ、ありがとうございます。いろはといいます。」
「…エヌ」
「あぁ、わしが薬爺じゃ」
ひょっと戻ってきていたらしい薬爺さんはテーブルに実験器具のようなものを置いていく。
「さぁ、ポーションをつくろうか」
「ん?」
「あぁ、薬草を使ってつくる薬じゃ。知りたいのじゃろう?そのためにそんなにたくさんの薬草を持ってきたんじゃろう?」
「あ!はい!!」
エヌさんは、くわっとあくびを一つして丸まってしまった。
ポーション作りは、基本的に薬草ありきらしい。当たり前か。
一番簡単なのが、薬草をすりつぶして水を追加して、さらにすりつぶして濾したもの。それをビンに入れるだけ。
じっと見つめると―ポーション―と表示される。
なにがどう効くのか…。と思ったら、小さく表示された補足文。
「んー?軽い頭痛・腹痛・歯痛・肩こり・小さい切り傷・火傷に効く?」
「なんじゃ鑑定持ちかい」
「レベル低いんですけどね。これがポーションの基本なんですね。」
「そうじゃ。濃くすれば、効き方が変わる」
言われるままに、薬草を二倍に増やしてみると、先ほどの捕捉に書いていた「軽い・小さい」が消えていた。
効くというのは、そのままの意味で、切り傷や火傷は跡がなくなるほどに消えるということらしい。
小さい切り傷に効くというポーションを大きな切り傷に使用してもその効能分しか効かないという。
「一応ポーション、ポーション2.0としておるのだよ。」
「わかりやすい」
正直ここがややこしかったらめげていたかもしれない。
ただ、ポーションは飲むことを前提としている家庭薬のようなものらしく、2倍以上の濃さにするとしぶくて飲めなくなるらしい。
「じゃあ、ハンターはどうやって回復するんですか?もっと大きな怪我とかするでしょう?」
「これじゃ」
机に置かれたのはぷるぷるのゼリーのようなもの。
知らんのか?と聞かれ、もしかしてぷるるんの?というと、そうじゃとうなずかれた。
どうやらこれはぷるるんを倒すと出てくるドロップ品のコアと言われているものらしく、やや硬めのゼリーのようであり、スライムのようであり。
2倍以上の濃さにする場合は、煮詰めてどろどろにしていくらしい。
それをこのコアで包むという。
適当な大きさのコップにコアをゆるくラップをはるように伸ばして、煮詰めたポーションをいれ、包む。
水風船のような、楊枝でやぶるゴムでつつまれた羊羹のような見た目だ。
これは戦闘時に投げつけて使うことが多いらしい。
なるほど。投げやすい大きさにすることも大事なのね。
「一応、回復魔法はあるがの。」
「あるんですか!」
「ただまぁ難しい。それに…教えてくれる奴はかなりの気まぐれじゃからのう」
「じゃあいつか教えてもらえるタイミングがあえばいいなぁー。楽しみです!」
「そうかい、じゃあその要領でいろいろポーションとポーション玉作ってみなさい。コアはたくさんあるし、あげよう」
「あー…いえ、えぇとこの器具はいくらしますか?」
「それは300Gだが…」
「じゃあ、ください!折角だから、自分でコアも集めて作ってみたいんです」
「そうかい、いい心がけじゃ」
法外な値段でもないし、ひとまず一式購入する。
初心者用らしいが、これでも丁寧に使えば充分だろう。
薬草を入れていたカゴにいれ、教えてもらったお礼にイチジクを渡す。
「あ、エヌさんはイチジク食べるかしら…」
「あぁ、好きだと思うが」
「じゃあ、これ渡しておいてください。案内してもらったお礼です、と」
また何か困ったことがあったら相談させてください!とお願いしてから、薬爺の店を後にした。
これで自分でぷるるんを狩って、作ってみよう!どこまでできるのか実験をしてみようと思ったのだ。
たが、ふと時間を確認すれば3時間も経過しており、集中してポーションを作っていたことに気が付く。
うーん、運動して寝るか、とログアウトを押した。
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