秋日影少女 白秋少年、彼岸花と死の旅路を乞う。

詩歩子

第1話 心の箱庭に潜む少女


 心の箱庭に咲き誇る彼岸花。


 終末論を知りもしない、日常という水彩画に一滴の血を垂らす、不吉な花。


 感傷的な、独りきりの少女のように刹那を呪う、あの赤い花。




 君が前に読んだ本は、何というタイトルだったんだろう。


 確か、『草の花』というタイトルだった気がする。


 私も知らないような小説家の本。




 君が自らつけた、傷跡は一生消えない。


 二人だけの秘密の儀式。


 あの赤い涙はどこまでも、綺麗だったのに傷心は一生癒えやしない。




 君が声変わりする前の、幼い頃からつけてきた傷跡。


 私にはその血で滲んだ傷を癒すことしか、できない。


 己の白い肢体を残酷な戒律のように傷つける、透明な少年の月長石のような淡い影。




 透き通った玻璃によって傷ついた、たくさんの聖痕と心の闇路に飛翔する、妖霊星の秘め事。




 傷跡から滲み出した血はしとどに頬に濡れる、涙の苦い味がしたような気がした。




 道端や畦道が色鳴き風に沿いながら、無数の彼岸花が咲き乱れている。


 地区の婦人会のメンバーが植えた、彼岸花が土手や空き地まで隈なく生え、その鮮やかな花弁は熟成したワインを霧吹きで、まぶしたように赤々と染まっていた。




 その赤さと対比するように空は青く、霧島山が禊をし、幾許かの不安を祓ったかのようによく垣間見えた。


 真珠色の雲が主体的に晴天を告げれば、羊雲は綿飴のようで、ここまで空が青くなることなんてあるんだ、と私は発見する。


 遠くに続く横断歩道を見ると、ゆるりと動く人影が見え、それには確かに見覚えがあった。


「真君?」


 私はつい、その名を口にしていた。

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