第18話 王子様の孤独

ギャル二人を撃退して感想会再開、と思って部屋に戻ってきた勇者:私達。

だが、先程のブチギレを引きずっていた三崎はそれとは別のことを話しだした。


「ドラクルの城では俺、あんな感じなんだよね。

 たまに「直感眼」使って先を見るけど、部屋の中ではあんな感じだから、

 せっかく揃えてくれた枕やベッドも傷だらけでさ。

 たまにくるメイドにキレたのも一度や二度じゃない」


意外だな。三崎はもう少し外面良い器用な男だと思っていたが。


「ごめんね、ミヤビちゃん。迷惑かけちゃったよね。」

「まぁ、あれについては不可抗力ってことで。

 あそこまでやったら大学でも話しかけて来ないだろうし、問題なし」

「ミヤビちゃんは優しいね」


とりあえず、人の頭にちょくちょく手をやろうとするのはやめれ。


「ここだけの話、一木も二条も同じなんだよ?」

「はい?」


くすりと笑ってそう言った三崎だが……

何? あいつらもキレると怖いタイプ?

出会ってから数日だからまだ見えてない部分があるのは普通だけど、

あの二人も部屋で暴れてたってのもこれまた意外。


「俺みたいに暴れてたかどうかはともかく、

 二人も道具としてカゴの中にいたのは変わらない。

 自由が欲しかったのはみんな同じってことだよ」

「言われてみればそれも設定としてはおなじみか……

 一木はともかく、二条くんには悪いことしちゃったかな。

 いきなりこっちの世界の特定のゲームやれって指定しちゃったし」

「ミヤビちゃんには二条が自由じゃないって見えるの?」


……この質問は正直答えにくいんだよね。

やることを指定した中での自由を満喫している気もするし、

実際自分から「囲碁やりたい」って言って教本見てるってことはそうなんだろう。

だが、見方を変えればそれはゲーム以外の自由を縛っていることになる。

と、いうわけで。


「ノ、ノーコメント」

「少なくとも二条は自由に楽しんでるよ。

 安心して」


よし、とりあえずこの話題は終わりそうで一安心。

そんなわけで本来の話題に戻ろうか。


「それじゃあこの世界の感想会を再開しよっか!」

「いや、それはもういいかな。

 さっき暴れてスッキリしたから」

「へ?」


マヌケな声を出してしまったが、納得できない話ではないな。

世界に驚けないことへのフラストレーション解消の手段としてはあの二人はよくやってくれたわけだ。


「それより、ここって本来歌を歌うためのところなんだよね?」

「そうだよ。けど三崎の世界の歌は流石にカラオケには入ってないね」

「俺はミヤビちゃんの歌が聞きたいな」


何故に。と思ったが、歌も文化の一つだから興味をもつのは自然な話か。

しかしだね。


「私、あんまり三崎の耳に合いそうな歌得意じゃないんだよね……」


私の歌えるのはボエーと声を出すデスメタル系が主だ。

よくよく考えたら、んなもん王子様の耳に入れるべきじゃないよね。

さっきまでは歌うと思っていたが、三崎との会話で私のフラストレーションも消えてたし。


「それじゃ、俺が歌うか」

「え? さっきも言ったけどカラオケにはそっちの歌は……」

「伴奏がいらない曲ならいくつか知ってるから」


ああ。伴奏なしでいいなら確かに歌うことは自由なのか。

私の納得した顔を確認した三崎は、ゆっくり立ち上がってすぅっと息を吸った。


「んじゃ、いくよ」


その後数分間の記憶が私にはない。

春風のように心地よい歌が聞こえる、まるで夢のような時間だった、という感想だけはあった。

それ以外を忘れるくらいの、素晴らしい歌の時間であった。



そして夕方、私たちはカラオケ店を出て、帰りの電車の中に居た。

まだ三崎の歌の余韻は残っているが、ここで私はある重要なことを思い出した。


「三崎、自分の課題は見つかったかい?」

「……あ」


そう。今回の外出は「外に出て課題を見つける」というテーマで行われたものだ。

が……トラブルもあったから仕方がないね。私もその前の早い段階で遊びモードになってたし。


「そうだね、まだ見つかってないかな~。

 だから今度また別の所連れてってよ」

「わかった。今度は三崎がナンパされないようなところにするよ」


ニヤリと笑う私に微笑む三崎。

これで少しは「直感眼」持ちの予言者の孤独が紛れていれば良いんだけど、ね。

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