第3話 王子様の見ているモノ(前編)

とりあえず三人の王子様の名前とキャラは把握できたものの、正直まだわからないことが多すぎる。

主に私がどうなってるかとか、合計四人の食費をどう賄えばいいとか。

私がそこを質問すると、二条くんが片手を上げて答えてくれた。


「資金面については心配ないですよ。さっきの「すぽーつし」なるものの内側を見ていただければ」


そういえばさっき破り捨てたスポーツ紙は一面しか見ていなかった。

そこまで細かく破いたつもりはなかったので復元して読んでみると。


「えーと、その女子大生には国家予算から三人の王子の生活費が支給される、と。

 お金に困らないのは良いけどいよいよ厄介なことになってるなぁ」

「どうしてですか?」


可愛らしい仕草で首を傾げる二条くん。

どうやら王子様三人の中では一番話をわかってくれそうな気配だ。


「あんたら三人はともかく、昨日まで平凡な女子大生だった私は

 国家予算なんて大げさなお金はもらいたくないの。

 お金目当ての「友達じゃない友達」とかが大量発生するじゃない」

「あぁ、それはわかります……」


わかりやすく落ち込む彼を見て、いわゆるファンタジーな世界のことを空想してみる。

王子様も一人で政治をやるわけではない。お貴族様人間関係みたいなものがあるのだろう。


「そりゃ二条、お前がなぁなぁな態度取ってるからだろうが。

 はっきり断ってやれば周りに集まる馬鹿なんていなくなるぞ」

「そ、そうはいってもさ……」

「そういう一木は何人くらい友人がいるの?」

「……いない」

「なんだ、高圧的な態度しかできないだけか」

「だからなんで俺の事情にそんなに詳しいんだアンタは」


王子様キャラのテンプレですから、とは言わないが。

うろたえてるあたり一木はこんな感じで対応すれば良さそうだ。

そして三崎は……


「ねぇ、そろそろ「動くな」って指示解いてくれない?」

「あ、ごめんごめん。そんなに律儀に従ってくれるとは思わなくって」


先程の冷蔵庫事件に続き、テレビに触ろうとした三崎に「動くな」と命令してから、

彼はその場から一歩も動いていなかったのだ。


「ミヤビちゃん、自分が「管理者権限/アドミン」持ってるってわかってる?」

「なにそれ」


管理者権限/アドミン? そういえばリテラシー講座の用語でそんなのがあった気がする。

しかしその用語がどうして異世界王子様と関係するのかな、と考えていると、

両腕を組んだ一木が近づいてきた。


「文字通り「管理者」の持つ権限だ。

 この世界にいられるのは神様の力を使って俺たちの世界と「管理者」のお前を繋いでいるからだが、

 神様と接続しているミヤビもその力の一端を使用することができる」

「もうちょっとわかりやすく言うと?」

「俺たちはミヤビの命令に対して一切反抗することができないということだ」

「へぇ」


ずいぶん強烈な権限だこと。私があらぬ思いを抱いていたらどうするつもりだったんだ。


「まぁ、ミヤビが俺たちに奴隷になれ、とかあまりに過剰な命令を出したときは、

 さすがに無効化されるらしいがな」

「ちぇっ。リアル王子様のBL風景が見られるかもと思ったのに」

「「びーえる」の意味はわからんが、絶対やめろ。初めて聞いたのに寒気がする」


まぁ流石にやりませんけどね。ところで、一つ気になることが。


「三人とも、ずいぶん勘がいいみたいだね。

 BLって言葉を出した瞬間全員顔青くしてるし」

「やはり寒気がする単語だ。何かいかがわしいことの略称か?」

「一木鋭い。大正解」

「……「解析眼」の存在をこれほど疎ましく思ったのは初めてだ」


ん? 解析眼? なんかファンタジーっぽい用語が出てきたぞ?


「……もしかして、三人の実家って「魔眼」が存在する世界だったり?」

「そーだよ。ちなみに俺は「直感眼」っていって、正解に即たどり着ける魔眼なんだ!」


おぉ、ずいぶんなチート能力だこと。

しかし他二人が黙りこくっているのはなぜだろうか。


「俺の「解析眼」は物事の仕組み・構造を見ることができるものだ。

 「直感眼」や「理解眼」に比べれば性能は劣るがな」

「「理解眼」は状況を見た後に結果にいたるまでの道筋を理解できる能力です。

 「直感眼」ほど強力ではありませんけど」


なるほど。ファンタジーにありそうな設定だ。

しかしちょっと気になるのは……


「そもそも三人の魔眼に優劣ってあるの?

 一木と二条くんは「直感眼」とやらが最強だと思ってるっぽいけど」

「どう考えても未来がわかる「直感眼」の方が上だろうが。

 それに比べ俺たち二人は……」


なるほど。能力の優劣で立場が決まるというのもありがちだが、

王子様クラスでもそれは存在するわけだ。

そして三崎がちょっと静かになっているということは、おそらく私の予想通りなのだろう。


「三崎、今から「直感眼」について、特にその弱点についての考察話すけどいい?」

「へっ? 別に、いいけど……」

「どーせ君は考え過ぎと語彙のなさで話すに話せなかっただけだと思うし。

 間違ってたら間違ってる、って言ってね」

「……」


そう言うと、私はインテリアとして棚に置いてあった三色の人形をひっつかむと、三人の前に並べて。


「おそらく直感眼は実務じゃほぼほぼ役に立たないんだよ」


黄色い人形にデコピンをかました。

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