「異世界王子様の憂鬱」なんて知ったことか!~日本にやってきた三人の王子と管理人の生活~

@naoyuki_sight

第1話 異世界の王子様、降臨

昔はいろいろな物語を読んでもらった。シンデレラ、白雪姫とかが好きだった覚えがある。

そしてたいていそう言ったおとぎ話にはヒロインを助けてくれる「王子様」がつきものである。

私もそんな「王子様」と出会うことをドキドキしながら待っていた……そんな時期もありました。


「ミヤビ、ポテチ切れた」

「ミヤビさん、このリモコンが急に動かなくなったんですが……」

「チャンミヤ? 外に遊びに行かな~い?」


ああ、なぜかつての私は「異世界にいるような素敵な王子様に会いたい」なんて願ってしまったのか。

なぜ今日あの本屋であんな鈍器を買ってしまったのか。

今更悔やんでもくやみきれない過去の決断を悔いながら、私は三者三様に困り顔のリアル「王子様」達を振り向き……

「一木はお菓子箱あっち、二条くんはあとでやるからそこ置いといて、三崎はとっとと自分の置かれている状況を理解しろ!!」


「「「え~?」」」


「ここはお前らの住んでた世界とは違うんだよぉぉぉぉ!!!」


与えられたマンションの一室で、何回目かもわからない叫び声を上げるのだった。




事の起こりは私がとある古本屋で1000円の鈍器、いや辞典のような本を購入したことだ。

表紙の文字っぽいデザインもいいし、立ち読みで見た範囲のファンタジーな絵柄も気に入った。

まぁ、一読したらインテリアにはなるだろう、と何故か思ってしまい、

家に持ち帰って改めてその本を開いた瞬間、私はその本から発せられる光に全身を包まれたのであった。


そして目を開くとそこにはいかにも神様然とした高齢の女性が立っていた。

こういうときに女の人が対応するのって珍しいよな、と思いつつ、彼女の言葉を待つと。


「カザマ・ミヤビさんですね……ようこそ、私達の世界との境界線へ……」

「……異世界転生かなんかですか?」

「あの、理解早すぎません?」

「いやぁ、私も一端のネット小説マニアなもんで……」


どうやら神様(仮)を一言目から困らせてしまったようだ。

たははと笑っている場合ではない。ここでうまいこと神様に取り入ってスキルかなんかをゲットしないと……


「厳密には、今回はあなたの世界への異世界転生、といえばよいでしょうか……」

「え? 私の世界に、ですか?」


ん? そうなると私が異世界に行ってちやほやされたり、戦場に駆り出されるタイプの話ではないのかな?

色々疑問点はあるが、私が異世界からやってくる誰かしらの接待をすることになるのだろうか。


「私達の世界には三人の……あなた方の世界で言うところのイケメンな王子がいるのですが」

「ほほぅ。異世界イケメンですか」

「彼らのうち一人をあなたの世界に派遣して、社会勉強をしてもらう事になったのです」


ここで私の創作センサーが緊急警報を鳴らす。

社会勉強をしてもらう事に「なった」、という言い方からして、これが定例行事というわけではあるまい。

つまりその王子様は社会勉強が必要なほどの変人である可能性がある。


「……あの、その王子様の性格は」

「ですが三人の王子は自分が行くと言って譲らず、転送の儀式を三人いっぺんにやらかしまして……」

「申し訳ありませんがこの件は一度なかったことにしていただけないでしょうかお願いします」

「なのであなたの世界に三人の王子が転移することになるのです。

 もう儀式は始まっていますので私としてもどうしようもなく……」

 

ダメだ。私達の世界で最大級の誠意を表すジェスチャーである土下座をしてもこの神様(仮)動じねぇ。

しかしこれはマズイ。非常にマズイ。

異世界のわがまま王子といえば悪役だろうが味方だろうが確実にトラブルメイカーポジションのキャラであることは確定。

しかもこっちの世界の一般常識もおそらくない、というか無視するような言動をするはず……

具体的には警察、あるいは自衛隊が出動するようななにかしらをやらかしても違和感はないような人物に違いない!

ああダメだ間に合わない! また視界が光に包まれていく!


「せめてそちらの世界で違和感がないような状況だけは作りますので、何卒彼らを預かってはもらえないでしょうか。王子の権力に何も言えない私達の世界の人々ではもう収集がつかないのです……」

「話の終盤に謝らないでくださいよ余計に不安になるでしょうが!」

「こういうとき、なんと言えば良いのかわかりませんが……」

「笑えと!? この状況で笑えといいますかこの神様!?」

悩ましげな表情でアニオタの共通語っぽいものをのたまった神様(仮)は、


「えーと、ぐっど・らっく。」

最後の最後で私にすべてをぶん投げた。


光が収まると、見慣れた天井……もとい、見慣れた我が家どころの話ではなく、

私は全く見覚えのないだだっ広い部屋に転送されていた。

窓から見える景色からして、どうやら高層マンションの一室のようだ。

適度に整った部屋には私の家にあった雑貨などもいくつか置いてある。

そして足元にはこれまた家にあったハリセンも置かれている……なぜに?


「……あー、これ、私が日本にそっくりな異世界に転移したんだねー。

 そんな状況でもなきゃ家からマンションに瞬間移動なんてありえないもんねー」

「えーと、アンタがミヤビって子か?」


後ろから活発そうなイケメンの声が聞こえる気がするが私には何も聞こえない。


「あの、僕たちと一緒にいるってことはあなたが管理人なんですよね?」


ちょっと気弱で臆病そうなイケメンの声も聞こえる気がするが私には何も聞こえない。


「うっひょー! ずいぶん高いとこだなぁ! 俺たちの城とは大違いだ!」


こっちの世界ではチャラ男と呼ばれそうなイケメンの声も聞こえるが……

というか、こいつはすでに私の視界に入ってきているのでもうどうしようもない。

私はひとまず三人目の金髪を無視して振り返り、

緊張の面持ちで私を見つめる赤髪と青髪のイケメンに頭を下げた。


「ようこそ王子様。私は風間雅と言いますが……

 くれぐれもご近所トラブルとか起こさないでくださいねこの問題児共」


訂正しよう。私が下げたのは親指だったわ。

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