#8 保護者
「オマエすげえな! なんで分かったの!!?」
目を光らせて少し背の高い俺を見る。
「俺が入ってきた瞬間に視線が集まったからな。それも、俺のことを食い物のように
見る視線ばっかり。弱い魔物って人間のフリが下手くそなんだろ? それにみんな気
持ちが悪いくらいに無言だったよ。ナイフを持った現世人なんか怯える様子のない真
顔で。誰かの指示を待つように無言だったし。そしたらたまたま俺の真後ろにいた奴
が親玉みたいなやつだったんだろうな。ただ、俺が筆談した質問の内容に動揺。空気
が揺らぐくらい息が荒れて鉛筆も落としたことで、怖いのは現世人じゃなくて滅魔っ
てことを確信した」
「よく分かんねえけど、すっげえ!!」
「分かんねえのかよ」
無邪気に笑う野生児。
「俺は出雲喜福。こないだお前らと同じ滅魔になった。お前は?」
「あっはは! すげえよ! お前はすげえ!」
「お前の名前は?」
「ははっ!」
「…」
俺の質問を無視して一方的に興奮する野生児。会話にならない。
「レオだよ」と紹介したのは別の声だった。
夜道に現れた長身。黒いロングコートを纏った、全身が黒のビジネススーツ。厳格と
かフォーマルとかをイメージさせる風貌。
「この子はレオ。僕はサモン・ソロモン。彼の保護者みたいなものかな」
朗らかに笑いながら停滞した会話に潤滑を与える黒髪の紳士。
「ああごめんね。現世では、この子は山中玲央(やまなかれお)、僕は左門景道(さもんかげみち)で通してるから、できればその名前で、と言っても同じ発音が偽
名に組み込まれてるから心配ないか」と思い直して笑う。
「俺は」と再び自己紹介をしようとしたが、その必要はないな、と判断する。ソロモ
ンは確か、滅魔名家とかいう滅魔の名門。
判断は正しかった。「君が、出雲喜福くんだね」と紳士は確信をもって尋ねた。
「『20の質問』で質問の過程を省き、即座に『断言』を行い魔物を瞬殺する滅魔。
ラグナくんは現世からとんでもない逸材を拾ってきたわけか」
「褒めてくれてる、ってことでいいんですか?」
「もちろんだとも。普通の滅魔なら不正解による死のリスクに怯えて質問は必ずする
けど、君は死による恐怖がないと見た。そして並外れた観察力と直観。最低限の魔力
があれば間違いなく4公に匹敵する滅魔になれた」
買い被りだ。
「闘うすべがないから、噓をつかれたら俺の場合はおしまいなんですよ。6割削れて
も無理ゲーだから止むを得ない。ただそれだけ」
俺は必死で謙遜する。というか事実を述べているだけだ。
「確かにそうだね。その年齢にして奢りはない。素晴らしきメンタリティー。少なく
とも僕は君のことを評価しているよ」
「オレもオレもー! キフク最強ー!」と野生児、レオが割り込んでくる。
「こらこら、こんな夜遅くに叫ばないよ。近所迷惑だからね」
と子供を引率する大人よろしく、レオの手を引いた。「じゃあね」という言葉を合図
に彼らの身体が次第に透明化していく。
「命の危機に申し訳ないが、さっきのバスの中でこっそり拝見してた。だから君の強
さをよく知ることができた。また会おう、出雲喜福くん。あと、レオは学校にいるか
ら仲良くしてやってくれ僕もこんな風に姿を消してレオの隣にいるからさ」
同級生の父親のような眼差しが完全に透明化すると、ポツンと俺一人、夜の街路に残
された。
家に帰り着きスマホの画面を見る。
22時02分。
まずは精神の疲労を強く感じた。
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