#7 はぁずれええ!!!!!!

白い紙切れが座席の隙間から伸びてきた。


『どうにかしてあいつを取り押さえませんか』という提案に、俺は動揺し始める。今

はとにかく動きたくなかったからだ。


紙切れは2つあった。1つは何も書かれていない白紙、返信用ということか。小さな

鉛筆も添えられている。


『今は待った方がいいと思います』と一筆し、バスジャックの視線をかいくぐり返信

する。ちなみに、俺の真後ろは確か男性の風貌だった気がする。


『分かりました』と俺の意見を受け入れてくれた。


紙が無くなったからだろうか、今回は返信用の白紙が届かなかった。仕方がないので

『取り押さえませんか』の裏面に、尋ねてみたいことを書いた。


『あいつって、いつから乗ってるんですか? 俺の直前とかですか?』


返信すると、直後、微かに空気が揺らぎ、カラン、と何かが落ちる音がした。


まずい。


「なんだ、これは?」


バスジャックの男が音に気付き、鉛筆を拾い上げた。


慌てて後ろを振り返ると、男は恐怖で動揺を隠しきれなかった。


「お前か?」


バスジャックが詰め寄ろうとするところを、


「はい!」と俺は手を真っすぐ上げて静止した。


「俺が提案しました! この人、かなり怯えているように見えたので、あなたを取り

押さえませんか、って、俺の方から吹っ掛けたんです!」


「なんだと?」


怒りの矛先が俺の方に向いた。


「急なことだったので、俺も気が動転してしまいました。でも、もうしません。です

ので、どうか、一部だけでもいいので、バスジャックをする理由を教えていただけま

せんか? 俺たちと同じように気が狂ってしまう人が出るかもしれないので」


こんな感じで大丈夫だろうか。どうか丸く収まってくれ。


「分かったよ」


「ありがとうございます」


どうにかこの場を収めることに成功した。この人は、曲がりなりにも人間なんだな。


「俺は、一か月前、会社勤めだった。エンジニア系の職種でそれなりにやりがいを持

ってやってたよ」


男は、身の上話を始めた。


「でもな、俺は痴漢冤罪の被害に遭ってから人生がめちゃくちゃになった。職も家族

も失って、世間からの風当たりも最悪。だから俺はある程度の人間を巻き込んで殺し

てやりたいのさ…ごはぁっ!!?」


突然、男の頬に拳がめり込んで、気持ちがいいくらいに吹き飛んだ。


「はぁずれええ!!!!!!」と雄たけびのような野太い声。


声の方向を見やると、背たけは大きくないが、どこか凄みのある少年が「たはは」と

大笑いしていた。


気絶したバスジャックは息がある。


俺は事態をすぐさま把握し、後ろの席にいた男性に『発動』。「『断言する』」と

早々に言った。


「お前は魔物だ」


「『20の質問』!? いきなりっ!? ぐあ!!」とやはり爆散した。


「オマエ、滅魔かぁ!!? 共闘だぁぁ!!」


「バスジャックと運転手は人間だから! ちゃんと確認して殴れよ!」


俺は野生児のような同業者に檄を飛ばすが、反省の色を見せずそのままバスの中で暴

れ回った。


「当たり!! 魔物! 魔物! こいつもぉ!!」


殴ってすぐに魔物だと判断するや、次は魔力を込めて人間に扮した魔物17体の頭を

拳だけで殴り潰した。


バスジャックと運転手を死なせないように立ち回っていた俺の苦労は、見た目も中身

もイレギュラーな金髪の野生児に、ことごとく叩き割られた。


ぐちゃりと潰れていく魔物の頭を呆然と見守るしかなかった。


「あのー、内緒にしてもらっていいですか? 下手に広めたらあなた方も多分こんな

ふうになります」


運転手は、バスジャックの時以上に怯えた様子で何度も首を縦に振った。


ズボンから尿が染み出ていることから魔物や滅魔に関する秘密はちゃんと守れそう

だ。後は運転さえしっかりしてもらえれば、死人は0。


時刻は21時半。


帰って風呂入って晩御飯食べて宿題して…、考えたくない。

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