変わったししょー

「ただいまですぅー」


 ソフィアさんとししょーと出掛けてから一週間が経ちました。

 相も変わらず、この街は平和そのもの。最近、近くの森の魔獣が活発になってきたという話はありますが、冒険者が間引きをしているので街への心配はないでしょう。


「お帰りなさいです、イリヤさんっ!」


 私が孤児院の玄関を開けると、エプロン姿のソフィアさんが現れました。

 恐らく夕飯の準備でもしてくれていたのでしょう。美味しい匂いが漂っています。


(っていうより、この光景にも慣れちゃいましたね……)


 私が孤児院で暮らし始めて結構時間が経ちました。

 初めはししょーの面倒を見るためだけに渋々寝泊まりしていましたが、すっかり馴染んでしまったようで、私自身も気に入っているんだと実感してしまいます。

 文句があるとすれば、子供達の感性についていけないところですかね? 私はドロドロした恋愛には無縁なので厳しいです。


「ただいまです、ソフィアさん」

「もうすぐお食事の準備ができますよ───って、あれ? イズミさんはご一緒じゃないんですね?」

「ししょーはもう一つ依頼をこなしに行きました……」


 今までは基本的に一日一つの依頼しか受けてこなかったししょーがこれで三つ目です。

 流石の私は疲れちゃいましたので先に帰りましたが。

 おかしな話です。いつものししょーならソフィアさんの顔を見るためだけに早く帰ろうとするんですけど、最近はこんなことばっかりです。


「イズミさん……働きすぎではないでしょうか?」

「もっと言ってやってください。ししょーは両極端すぎます」

「分かりましたっ! 帰ったら「メッ!」って言っておきます!」


 なんでしょう……ちょっと私も言われてみたいって思っちゃいました。

 い、いやっ、それより───


(ししょー、何考えてるんですか……?)


 私は、最近少し変わってしまった最愛の人が、やっぱり心配です。

 ししょーに限って、何か危ない目に遭うこととかないとは思うんですけど───



 ♦♦♦



「むっ? 今、弟子からの心配コールを受けた気がする」


 横にはイリヤの姿はない。

 流石に三つ目の依頼となれば付き合わせるわけにはいかない。そのため先に帰ってもらった。

 故に、森の中にいる俺にはイリヤが何を喋ったかなど分からないはずなのだが……不思議と、何故か心配されたような気がする。

 フッ、よき弟子を持てて俺は幸せものだ。


「なぁ、イズミさんよぉ? そろそろ休まねぇか?」


 後ろを歩いていた冒険者集団の一人がそんなことを言い始めた。

 今回、依頼の同行者ということで行動を共にするようになったメンバーである。


「馬鹿野郎!? 俺は早く帰ってソフィアたんの顔が見たいの! ただでさえ、最近は忙しくて全然顔を見る時間が減っているんだぞ……てめぇらが休んでいる間に、ソフィアたんの顔を5分も拝めるんだ分かったかアァン!?」

「お、おぅ……悪かったなイズミさん」


 っつたくよぉ、こっちの身にもなってほしいぜまったく。

 俺だって好きで同行者を抱えているわけじゃないんだし、最低限足を引っ張らないで頑張ってほしいものである。

 下を育成するのもS級冒険者の務め……なんて受付嬢さんに言われなければ、とっくに一人で先に向かっていたのに。


(だが、ここで文句ばかりではいけないな……ソフィアたんの学費を稼ぐためには、依頼をこなしていかないと)


 学園に通うためには、特別な枠の生徒でない限り8000万ゴールドもかかってしまう。

 貴族御用達の学園だからというのもあるが、あまりにも莫大なお金だ。一介の平民や爵位の低い貴族であれば諦めてしまうような額だが、生憎と俺は一応S級───頑張れば届いてしまうような額。

 故に、最近は依頼をこなして目標額を達成するのに必死である。

 何せ、主人公がどっか行ってしまったのだから。


「にしても、どうしてまた魔獣が増えてきたんだろうな? 分かんねぇぜ」

「ついこの間まではそんなことなかったのにねぇー」


 確かに、どうしてこのタイミングで魔獣が増えてしまったのか?

 直接的な被害こそないものの、街の外にある農家や村の人間には少し被害が出ているみたいだ。

 そのため、最近では森の魔獣の討伐依頼が多く張り出されてしまっている。

 魔獣が溢れる……なんてイベントは記憶にない。

 それもそのはず───ソフィアたんが学園に向かってからの街の描写が何一つなかったのだから。


「……燃やすか、この森」

「何考えてんだ、イズミさん!?」


 いや、その方が早く片付くし、魔獣も全部いなくなるかと思って。


「そんなことしたら、今後この森で薬草も肉も採れなくなっちまうよ!」

「一理ある……って」


 そう思っていた時、ふと先の茂みから物音が聞こえてくる。

 この音は間違いなく魔獣がいる証拠だろう。さっさと片付けて、早く孤児院へと帰らねば。


「魔獣、来るぞ!」


 俺の声に合わせて、後ろの冒険者達がそれぞれ構え始める。

 次の瞬間、茂みを掻き分けてイノシシに似た魔獣が何体も姿を見せた。


雷装填アル・ガーサ


 だから俺も、すぐさま全体に青い電気を纏い始める。

 そして、俺は拳を魔獣に向けて振り下ろした。

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