贅沢は罪悪感
―――そういうわけで、急遽出掛けることが決まってしまった俺達は街へと繰り出していた。
いつも冒険者ギルドに訪れるために通っている場所も、横にソフィアたんがいるだけで新鮮に映る。
何せ、ソフィアたんの姿を映す背景がどんどん変わっていくのだから。
これは新しい発見である。周囲の活気などまったく目にも入らない……ちょっと、通行人邪魔だな。消すか?
街は先程も言ったが、活気に満ち溢れている。
先を見渡しても人がいない姿はない。店も通りをしっかりと占めるほど並んでおり、客引きや楽しむ人達の声がよく耳に届く。
恐らく一度も行ってないが、王都並みに活気があるのではないだろうか? いや、それは言い過ぎかもしれない。
気持ち的には名古屋、もしくは京都ぐらいだ。大阪ほどじゃない気がする。
それで俺達はとりあえずと、先にイリヤとの約束を履行するために一番人気があると冒険者の誰かから聞いたお店に入ることにした。
「ししょー、この服どうですか?」
店に入ってすぐ、イリヤが近くにあった服を体に当てて意見を求めてきた。
やはり女の子だからというべきか、その表情は子供達にも負けないほど浮かれているように見える。
そんな女の子の姿を見て、俺は顎に手を当てて真剣に吟味する。
「んー……いいと思う」
そう唸ると、イリヤは次々と服を持ってき始めた。
「では、これはどうですか?」
「グッド」
「じゃあ、これは?」
「ベリーグッド」
「これなんかどうです?」
「ベリーベリーグッド」
「しばきますよ?」
酷い。
「ししょー、真面目に感想教えてくださいよ……適当感が伝わってきて、結構ショックです」
「って言われても困るんだが?」
「どうしてです?」
「だって、修道服じゃないもん」
「その一点特化はある意味教会関係者全員の身の危険を感じますよ?」
別にストーカーとかそういうわけではなく、単にルミアたんが着ている服が修道服だったっていうだけである。
決して修道服フェチではない。きっと、恐らく。
「っていうか、体に当てただけじゃいまいちよく分からんだろ? チラッと見える私服が映ってるせいで、着ている姿がいまいち想像できないっていうか」
「むぅ、なるほどです。今の発言だったら納得します」
修道服では納得してくれなかったのか。
「でも、今試着室がいっぱいいっぱいなんですよねぇ」
「やっぱり人気のある店だからか? 結構人が多いな」
店内を見渡すと、そこかしらに人がいっぱいであった。
女性服を扱っている店だということもあって女性ばかりしか見えないが、それで委縮してしまうような男ではない。
基本スタンス、推しがいる空間であれば火の中水の中クリスマスイルミの中。という感じだからだ。
「そういえば、ソフィアさんはどちらに?」
「ソフィアたんなら、さっきからここにいるだろ?」
「へ?」
きっと選ぶのに夢中だったからだろう。
イリヤが不思議そうな顔をするので、俺は仕方なく一歩横にズレる。
すると―――
「わぁっ、わぁっ! お洋服がこんなにたくさん……凄いですっ!」
そこに、身を低くさせながら棚にある服に目を輝かせるソフィアたんの姿が現れた。
やはり、あまりこういう場所に来たことがなかったのだろう。
孤児院ではあまり自分のためにお金を使えない。使えるとしても、優しいソフィアたんは子供達よりも自分のことを優先するなんて罪悪感が湧いてできないはず。
今は
こういうところで喜んでしまうのは、イリヤ同様年相応といったところだ。
「……私より楽しんでますね」
「はぁ~……ソフィアたんの喜ぶ姿が胸に沁みるぅ~」
「違う楽しみ方をしている人間がここにも」
俺、この姿を見られただけでも二週間は頑張れる。
「ソフィアたん、何がほしいか決まった?」
「ふぇっ!? そ、そんな……私は眺めているだけでも……」
「ふむ、どこかで見たことのあるようなセリフだ」
「ししょーがお腹空いている状態でパン屋さんの中を見ていた姿と既視してます」
こら、一緒にしたら失礼だぞ。
ソフィアたんは「優しさ」からくるもので、俺は「ひもじさ」からくるものなんだから。
「ですが、なんだか私だけお洋服を買うっていうのは、なんだか罪悪感が……」
「だったら、俺がガキンチョに新しく服を買おう」
「それはイズミさんに悪いですよ!?」
「それが嫌なら、好きな服をたくさん買うのだッッッ!!!」
俺が胸を張って答えると、ソフィアたんは困ったように押し黙ってしまう。
心苦しいが……本当に心苦しいが、こうでも言わないと優しいソフィアたんはいつまで経っても自分のために何かを買おうとはしてくれないから。
もちろん、渋々ではあるが子供達にも服は買おう。そのために、今日このあとは依頼に行かなくては。『ソーガンキョー』を売ったお金だけでは心もとない。
「わ、分かりました……そうですよね、あまり嫌々言っているとイズミさんに失礼ですもんね」
そして、ソフィアたんは覚悟を決めたのか、胸に握り拳を作ってもう一度目を輝かせた。
「私、お洋服を買いますっ!」
「よく言った! さぁ、共に選ぼうぞ―――ソフィアたんの服を!」
「はいっ!」
フッ……成長したな、ソフィアたんも。
これで、俺がいなくなってもソフィアたんはきっとこれからも自分のためにお金を使えるだろう。
推しの成長は、やはり胸の内に感動を与えてしまうものだ。思わず瞳に涙が浮かんでしまいそうだぜ。
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