スパチャしたいスパチャしたい!
「えぇっ!? 今日は盗賊団を倒してきたんですか!?」
この世界の最推しであるソフィアたんが帰宅してから少し。
ソフィアたんから「今日はどんな冒険をされたんですか?」と聞かれたのでありのままをお伝えすると、目の前でルミアたん激似の聖女が驚いた顔を見せた。
「お疲れ様ですっ! イズミさんのおかげで、また誰かが救われましたねっ!」
「いやぁ~、それほどでもないよソフィアたぁ~ん!」
神様、推しからのお褒めの言葉はどうしてここまで心揺さぶられるのでしょうか?
思わず鼻の下が情けないぐらいに伸びてしまいます。これでは弟子に幻滅した瞳を向けられてしまいます。どうにかしてください。
「ふふっ、でもそれは素晴らしいことですよ。人として盗みを働くようになってしまった人の背景にどのようなものがあったかは知りませんが、その方々のせいで誰か傷ついてしまうのであれば、イズミさんの行いは褒められるべきことです」
ソフィアたんがお皿を洗いながらも褒めてくれる。
てっきりがっつり殺してきたから少し責められるかと思っていたが、どうやらそういうこともないらしい。
盗賊の人間にも少なからずそうなってしまった経緯に同情する部分もあるだろうが、これからのことをソフィアたんは思っているのだろう。
逆にそうやって否定せず味方になってくれる部分は、手にかけた俺の心を救ってくれる。
「そう言ってもらえて嬉しいっす」
俺は皿洗いを手伝いながら、素直にそう口にした。
「あ、そうだソフィアたん」
「ふぇっ? どうかされましたか?」
俺は懐から今日もらった報酬が入った小袋を取り出す。
そして、それを俺はソフィアたんに差し出した。
「これ、いつもの
「えぇっ!?」
「あ、また投げればよかった? 困ったなぁ……手を洗ったから木に登っちゃうとまた洗わなきゃいけなく───」
「別に手段に驚いているわけじゃないですよ!?」
いや、あれから色々と考えたんだが、結局いい案が思いつかなかったのだ。
いつものように木の上から放り投げてもよかった。でも、そうするとすぐに相手が俺だとバレてしまい、すぐに問いただされてしまうことだろう。
ガキンチョ経由も同じこと。結局相手が俺だというのは分かる。
だったら初めから素直に渡せばいいじゃないか。もう、推しと話すことで鼻血を出すことも過呼吸に陥ることなどなくなったのだから。
「う、受け取れませんっ! 今までたくさんいただいてきたんですからっ!」
「でも、こうして住まわせてもらっている恩もあるし……」
「それは今までのご恩を返しているだけですっ! ご、ご自身のために使ってください。そのお金は、イズミさんが文字通り命を張って稼いだものなのですから」
むぅ。案の定というべきか、ソフィアたんは
だがしかし、案の定ということは想定内ということ。
こういう時のために、俺はしっかりと対策を練ってきたァ!!!
「ソフィアたん……君がそう言うのであれば、俺も考えがある」
「か、考えですか……」
俺があまりにも真剣な顔だったからか、ソフィアたんがゴクリと息を飲む。
推しを困らせるというのはなんとも心苦しい。
だがしかし、これはなんとしてでも受け取ってもらわなければ。食費を削ってスパチャ投げたのに拾われなかった時の苦しみが分かるかい、レディ?
フッ……俺の推し活のため、押し文句に屈するがいいッッッ!!!
「ソフィアたんが受け取らないのなら、俺はこのお金を領主に渡して街の繁栄に使ってもらいます」
「えーっと……それはいいことですね」
…………。
「もしくは、お店を開きたくても開けない人に開業資金として!」
「素晴らしいことだと思います」
…………。
「な、ならば、この金でスラムで暮らしている子供達に食糧を分け―――」
「流石です、イズミさんっ!」
どう、して……褒められる……ッ!
「諦めましょうよ、ししょー。提案すること全部ただの慈善事業になってますから」
俺が涙を流しながら膝をついて打ちひしがれていると、子供達と遊び終えたイリヤがひょっこりと顔を出してきた。
心配してくれているのか、俺の頭を優しく土で汚れた手で撫でてくれる。
こら、遊んできたならちゃんと手を洗いなさい。
「だ、だが……これじゃあ俺の推し活が……」
「しなくてもいいじゃないですか」
「ファンが推し活できなきゃ、ただの強くて優しい歌のお兄さんになっちゃうだろう!?」
「自意識高くてめんどくせぇー、ししょーですぅ」
俺の生きがいなんだ、本当に。
推しの幸せを願うことが、そんなに悪いことなのか? お金があった方がいいじゃないか。
ソフィアたんだって子供達の面倒ばかりじゃなくてオシャレとか美味しいものとか食べたいだろうし、そういう個人の幸せを追ってほしいって願っているだけなのに。
「ソフィアさん、ししょーが面倒くさくなってるので受け取ってくれませんか?」
「ふぇっ!? で、でも……これはイズミさんが一生懸命稼いだお金ですし……」
「いいんですよ、ししょーはソフィアさんのために稼いだようなものですから。こうして突き返すよりも、可愛いお洋服とかお菓子とかソフィアさんが買って幸せそうにしてくれた方がししょーも喜びます」
イリヤの言葉に、ソフィアさんは何か言いたそうに口をもごもごさせる。
それが数十秒ほど続き、やがて考えがまとまったのか徐に口を開いた。
「わ、分かりました……では、ありがたくこのお金を受け取って幸せな姿をお見せしますっ!」
「イリヤ、ありがとぅっ!!!」
「はぁ……私、なんだか損な役割です」
流石は俺の弟子だ。
ソフィアたんが受け取ってくれたのも、全ては可愛い可愛いイリヤのおかげ。
今度何かお礼をしてあげなければ。その前に手を洗え、手を。
「あ、そういえば」
お金を受け取ったソフィアたんが、唐突に何か思い出したかのような反応を見せる。
そして—――
「最近の剣って光ってるんですね。私、勉強になりましたっ!」
「……へ?」
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