泊まるが暮らすにジョブアップした
「同い歳ぐらいの人と一緒に寝泊まりは初めてですっ!」
そう言って、鼻歌でも鳴らしてしまいそうなほど上機嫌で孤児院の中を案内するソフィアたん。
ゲームをプレイしていた時の画面越しとは大違い。
こんなにコロコロと変わる表情なんて見たことがなかった。
これも転生してこの世界に入ってしまったからだろう……最高です。ルミアたんに負けないぐらい最高です。
───そんなソフィアたんが案内してくれている孤児院の中は意外と大きなものだった。
子供達の部屋がいくつか。キッチンにリビング、お風呂場に勉強部屋だってあるみたい。
設備の充実に、案内されながら関心してしまう。
「(なんで私達、こんなに詳しく案内されているんですかね?)」
かれこれ2時間ぐらい孤児院の中を案内され続けたイリヤが、同じく脳内にソフィアたんのお姿を焼き付けていた俺にひっそりと耳打ちする。
なお、ソフィアたんは現在、廊下に飾ってある昔お世話になったシスターの写真を見て一生懸命魅力を説明してくれている。
「(ソフィアたんが孤児院にいた頃は同年代の子供はいなかったらしいからな。浮かれてるんだろうよ、俺達歳も近いし)」
「(……なんでそんなこと知ってるんですか?)」
ジト目を向けるな、ジト目を。
ゲームでソフィアたんが自分から主人公に言ってたんだよ。
「(っていうより、お風呂場とかリビングとかキッチンだけ教えてくれればいいじゃないですか。なんですか、この「しばらく使うからしっかり教えましょう」的な空気は?)」
「(まぁ、確かになぁ)」
俺としては認知されて露見してしまった以上、いられるものなら推しとずっと一緒にいたい。
でも、今回は泊まるところがないから泊まらせてもらうという目的のはず。
1泊なら最低限の説明と要所を説明すればいいだろう。
2時間もこと細かく説明を受けていると、どことなく「しばらく暮らしますよね」という空気を感じてしまう。
俺としてはばっちこいなんだけども。ばっちこいなんだけども!
「さて、次はどこを案内してほしいですかっ!?」
キラキラした瞳を向けてくるソフィアたん。
もはや泊まる上で必要もないシスターの話を聞かされるぐらい案内されたのに、これ以上何を案内してもらえというのか?
───という言葉を、こんな顔を向けられてしまえば口にできるはずもなく。
ソフィアたんの寝室を見てみたいです、としか言えそうになかった。
「も、もう大丈夫ですよ……」
俺が言えそうになかった言葉を、イリヤは頬を引き攣らせながら言った。
勇者だ。賞賛します、イリヤさん。
「あぅ……そうですか」
おいコラてめぇ、ソフィアたんを悲しませてんじゃねぇよ、ナメてんのかオラァ?
「ごめんなさい、私浮かれていたかもです……」
「い、いやっ! そんな怒っているわけじゃないですよ!?」
「同い歳ぐらいの人と一緒に暮らすって、初めてだったんです!」
おっと、1泊が暮らすにジョブアップだ。
これは区役所に住所変更の手続きに行かなければ。
「……あの、別に私とししょーはここで暮らしは───」
「よすんだ、イリヤ」
俺は否定しようとしていたイリヤの口をすぐに手で塞ぐ。
するとイリヤは驚いたのか少し頬を赤く染めると、手を払い除けて俺に顔を近づけた。
「(どうして止めるんですか、ししょー! これ、絶対に勘違いされているやつですよ!)」
確かに、どうして『泊まる』が『暮らす』に変わったのかは分からない。
案内していると浮かれ始めて思考が願望に寄せられたか、それかソフィアたんの中では『泊まる=暮らす』という方程式でもあったか。
いずれにせよ、このままいけば1泊して帰る時に「あの、どこに行くんですか……?」とつぶらな瞳を向けられるに違いない。
「(でも、それはそれでいいと思う)」
「(分かってましたよ、こんちくしょう!)」
実際にメリットだらけだもの、断る理由がない。
宿代も
「(まぁ、イリヤが嫌だっていうなら考えるが……)」
とはいえ、暮らすも1ヶ月とかそこいらのしばらくの範疇だろう。
それ以上だと孤児院が宿泊施設になりかねないし、俺達がよく分からない孤児扱いを受けてしまう可能性もある。
流石のソフィアたんも、風評のためにそこの線引きはするはずだ。
でも、イリヤが嫌というなら話は別だ。
無理矢理一緒に暮らさせるわけにもいかないし、男もいる空間で過ごすというのも女の子的には忌避してしまうものに違いない。
だけど───
「(はぁ……いいですよ、私も宿代浮きますし)」
「(宿代なんか、A級冒険者の稼ぎなら些事だろうに……でも、ありがとう。お前がいてくれて嬉しいよ)」
「(ししょーと待ち合わせする手間も省けますし)」
「(また一緒に冒険に行くんだな。いいだろう、それぐらいはお安い御用だ)」
「(既成事実作れますし……)」
「(そうだ……え、今なんて?)」
今、普通に聞き流してはいけない単語が聞こえた気が───
「ソフィアさん、私はどこで寝ればいいんですかね!」
「あ、はいっ! イリヤさんには私のお隣の部屋で寝てもらおうかと!」
聞いたにもかかわらず、イリヤは俺から離れてソフィアたんの横に並んでしまった。
ここ最近、聞き取れないことが多すぎる。
耳を赤くしたイリヤを見て思った。
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