前世で推してたVTuberに似ているメインヒロインにスパチャ(※寄付)投げまくったら、主人公よりも先に認知されてしまった件

楓原 こうた【書籍6シリーズ発売中】

プロローグ

 愛に〜で〜きる、こと〜はま〜だあ〜るか〜い♪


 ───もちろんありますとも。

 まずは推しに全力でスパチャを投げましょう。


 己の食費げんかいを超えてこそ、一流のファンというもの。

 ライブは逐一リアタイで視聴し、ここぞというタイミングでスパチャと最小限の応援コメントを飛ばすのです。

 男たるもの、中途半端な行為はいけません。上限ギリギリまで光熱費スパチャをお送りしましょう。

 最後に、たっぷりと情熱を注いだ瞳で拾ってくれるのを待つだけです。

 安心してください、次の給料までたったの二十日。もやしのフルコースで乗り切れば更に家賃だって溶かせます。


 確かに、もやしだけの生活は苦しいものです。

 あまつさえガスも止められてしまったとなれば、水風呂という江戸時代さながらの気分を無理矢理味合わされることになるでしょう。

 そう考えると、自ずと恐怖心に駆られて推しへの携帯代とうしに抵抗があるかもしれません。


 しかし、それでいいのでしょうか?

 一流のファンであれば、推しの幸せこそ最大の喜び。

 自分の生活費スパチャ程度では推しの懐は温まらないかもしれませんが、少しでも推しが幸せになってくれるのであればそれでも全力投球なげせんを行う。

 推しに認知してもらえた時の多幸感は己の苦しみを一気に解放してくれます。

 大丈夫、まだ電気は止められていません。


 ───というわけで、今日もまた僕は推しに全力で愛を注いでいきます。


『イズミさん、スパチャありがとうございますっ!』

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!! ルミアたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」


 現在夜の十時。

 画面越しに映るのは、修道服を着た愛に愛に愛を重ねた愛苦しいキャラクター。

 ウィンプル越しから覗く金の長髪に、可愛らしくもあどけない顔立ち。発する声はなんとも無邪気で心をくすぐるものか?

 名前を呼ばれただけで、俺───水無瀬伊澄みなせ いずみは思わず叫んでしまった。この部屋がすこぶる鉄筋でよかったと思う。


 この子こそ、俺の推し───VTuberのシスター・ルチアたん。

 つい先日某大手VTuber事務所から出た異彩の新人Vである。

 トークは20代モテない男性の脳汁を促し、ちょっとした仕草に胸を打たれ、愛苦しいキャラクターには目を奪われる。

 今までただの社畜だった俺は正直に言って、そこまでVTuberに興味がなかった。

 しかし、しかしである。


「神よ……こんな聖女に出会わせてくれて……ありがとうッッッ!!!」


 激ハマリである。

 それはもう、一瞬でオタクに昇華してしまうぐらいには。

 故に、今日も俺は交通費あいじょうを上限ギリギリまで注いでいく。

 フッ……これで来月は10キロある職場まで徒歩通勤だ。


「ちょっとお兄ちゃん!? お湯が……お湯が出ないんだけど!?」


 俺が推しのライブ配信を見ていると、ふとバスタオル姿の妹が慌てた様子で姿で現れた。


「なんで俺の部屋にいるの? 一人暮らしの男の家にバスタオル姿で現れるとは……ははーん、さては誘ってるな?」

「実妹にセクハラはやめてくれない? 家庭崩壊が一歩近づくんだけど」

「そうだよな……未成年に手を出したらマズいもんな」

「年齢の前に関係性に危機感を覚えてほしいんだよ」


 言うまでもなくジョークである。

 そもそも、妹相手だとおっ立つところもおっ立たない。


「それよりお湯! シャワー浴びようと思ったら水しか出なかったんだけど!?」

「ガスが止まっているのにお湯が出るわけないだろう?」

「当たり前のようにガス代を払ってないことをカミングアウトしないでっ!」


 今月は配信が多かったからなぁ。

 光熱費を捧げる機会が増えてしまった。


「大丈夫……次の給料が出た瞬間に払えばブラックにはならない」

「……お兄ちゃんの生活が心配になった妹です」


 はぁ、と。ため息を吐いた妹はバスタオル姿のままソファーに置いたカバンから一つの箱を取り出した。

 どうやらその箱はゲームみたいで、パッケージには『萌黄の聖女』というタイトルとどこかで見覚えしかない可愛らしい修道服を着た少女のイラストが───


「ルミアたんっ!」

「ね、似てるでしょ?」


 似ているというか、著作権侵害という名のパクリを疑うほどの瓜二つさである。


「これ見つけた時、お兄ちゃんが好きなVTuberさんと似てるなーって思って買ってき───」

「ありがとう! 今日から寝ずにプレイするよ!」

「……まだ何も言ってないけど」


 なんて兄想いの妹なのだろうか?

 こんな素敵なプレゼントをもらえて、お兄ちゃんはとても嬉しいです。


「じゃ、私は帰るから」

「あれ、もう帰るのか? 飯でも食っていけばいいのに」

「もやしのフルコースはもう嫌なのっ! それに、帰ってお湯の出るシャワーを浴びたい!」


 そう言って、すぐさま制服に着替えた妹は「じゃ、推し活も程々にね」と言い残して部屋を出ていってしまった。

 せっかく素敵なプレゼントをくれたのだからお礼をしたかったのだが、兄妹の間にはお礼など不要らしい。


「さて、続き続きー」


 ───それから、俺はルミアたんの配信を全力で見終わり、早速妹からもらったゲームをプレイした。

 どうやらこのゲームは聖女であるメインヒロインを中心としたギャルゲーで、好感度を上げつつ仲間を増やして魔王討伐を目指していくものらしい。

 案の定というべきか、メインヒロインの聖女様は推しとそっくりであった。

 だからからか、もちろん激ハマリ。寝ずに何度も周回プレイをして───


 死にました。


 前方不注意、トラックどーん\\\ ٩( 'ω' )و ////

 俺の人生はここで終わり、若干22歳という若さで三途の川を渡ることになったのです。


 だけど───


「あ、あの……大丈夫ですか?」

「……へ?」


 目を開けると、何故か推しの顔が目の前にあった。

 あとから気がついたのだが……どうやら、俺はなろう系でよくある『転生』というものをしてしまったらしい。


 ───そしてこれこそが、俺と推しとの出会いである。




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