夢の世界で生きる王様に夢を見る
久守 龍司
第1話
乙女ゲームのイベントでトップランカーを維持し続けるため、何度徹夜をしたことだろう。昨今の流行りに乗ってオンライン化した運営への恨み言を口にしながら、何故か乙女ゲームなのに戦闘を必須にさせる開発に疑問符を浮かべながら、それでもランキング上位に入って推しの姿を輝かせることにどれだけ労力を費やしただろう。
私の最推し、第十二代ヴァイセンベルク王国国王であるフェルディナント・フォン・ヴァイセンベルク様。
人気ゲーム「四王国恋奇譚」の攻略対象の一人である。四王国恋奇譚は辛うじて乙女ゲームということになってはいるものの、領地経営ゲームやアクションRPGとしてのクオリティが高い、よくわからないゲームだ。
舞台は近世後期から近代初期くらいをごちゃ混ぜにした架空国家ヴァイセンベルク王国(ユトランド半島の付け根あたりをイメージしているらしい)で、各国の王侯貴族が出入りするサロンを舞台としている。ちなみにペストという名目でゾンビが出たり、おまけ程度にクトゥルフ神話要素もある。
フェルディナント様は弟君のマクシミリアン王子との会話で始めて存在が匂わされ、翌年の大規模アップデートで満を持して登場した。なおあまり人気は出なかった。メインの攻略キャラクターであるシャルル・ロデュリュー侯爵と金髪長身というキャラクターデザインが被っているからだというのが私の考察だ。
性格も万人受けするタイプじゃなかった。偉そうでオラオラ系だけど動物が大好き、実は照れ隠しで俺様キャラをやっているというギャップで人気を集めているシャルル大公。かたや昼夜逆転で情緒不安定な上に浪費癖もあり、二人称はずっと「女」のフェルディナント様。
私は強い同担拒否なので、人気はなくてもいいけれど。自分だけが魅力を理解していればいいわけじゃなくて、皆の二推しでいてほしいという謎の欲求があった。
そうしてずっとゲームではトップを走り続けてきたのだ。ランキングでは誰を攻略対象にしているかが一番上に出るから。ほぼ徹夜でゾンビを倒し続け、恋愛ゲームをやっているのかハックアンドスラッシュゲームをやっているのか分からなくなっても、ホーム画面でメランコリックに窓の外を見つめるフェルディナント様の顔が良すぎていくらでも頑張れた。
だけど、そんな不健康な生活が長く続くはずもなかった。イベント中に少し席を外そうと立ち上がった瞬間、強烈な立ち眩みが起きた。直後、全身の感覚がひどく鈍くなって私は後ろに倒れる。反転する部屋は少しずつぼやけて暗くなっていった。
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