いとこと子どものひ




 保育園から小学生が終わるまで、五月の連休になると父方のいとこが実家へ遊びに来ていました。

 いとこの家は同県の、車で二時間半ほどのところにあります。その日になると、みんなが乗った車が家の前にとまるまで、毎年まだかな、まだかなあ、ととても楽しみにしていました。


 いとこは三姉妹です。みな私よりも年が上なので、長子の私はお姉さん達と遊べるのがめちゃくちゃ楽しみだったんですね。

 みんな当たり前に知らないことを知っていたり、楽しいことを教えてくれたり、なによりこの連休だけは「おねえちゃん」をやらずに済みます。率先して場を整えたり、状況を聞いたりおやつを分けたり、上の子がやらんじゃいけんことをみんなやってもらえて楽ちんで、嬉しいわけです。長子特有(?)の、あー私も兄ちゃんか姉ちゃんがほしかったな、と日々思っているささやかな望みが、この日は叶うんですね。


 特に楽しみだったのが、いとこ三姉妹の長女のシイちゃんが持ってくるゲームでした。

 当時、ちょうどポケットモンスターの赤・緑から始まり、プレイステーション、ドリームキャストと変遷していく只中でした。いとこが持っていたポケモン赤がほしくてほしくて、でも君は緑を買うんだ(ロコンがこっちには出ないからね)、と言いくるめられて緑バージョン、ついでにゲームボーイも緑色のを買ってもらって普通にタケシが倒せなかったりしました。これも、「森で虫をとってきて進化させろ」と言われその通りにし、無事にバッジを手に入れて、やっぱり姉ちゃんズはすごいなと思ったものです。


 プレイステーションが出てからは、彼女らはうちにブラウン管テレビをかついでくるようになります。私らの子ども部屋の畳の地べたに直接テレビを置いてプレステも繋げて、マリーのアトリエやプルムイプルムイ(相棒の不思議生物にお菓子をあげると、はしごや耐火服になるのでそれを駆使して進むモーフィングRPG)やサルゲッチュをしてました。

 携帯機しかやらなかった私はまた衝撃を受けて、子どものころは本当にゲームばっかりしてました。真似をして買ったアトリエシリーズにものすごくハマり、プルムイプルムイはミスってレシピがないまま進んで、パン(最初期回復アイテム。ハートが一個しか回復しない、ちなみに終盤アイテムのたまごサンドはハート6個とSP(MPみたいなやつ。強技が出せるポイント)を300ぐらい回復する。ハート上限はたしか10個、SPは800か999)でラスト一個前のダンジョンで詰み、ブックオフで攻略本を見つけたときにマジでパンだけじゃなかったのかとビビり、サルゲッチュはメチャメチャ難しいし画面酔いしてギブアップしました。

 親父もゲーム好きだったので特に咎められることもなく、泰明期の素敵なゲームをこれでもかと楽しみました。


 五月の三日はゲームをして、夕飯にはお寿司を食べて、かわるがわるお風呂に入ってみんなで雑魚寝をします。これがまた楽しいわけです。潜った布団に懐中電灯を持ち込んで、顔を照らして怖い話をするわけです。ぎゃあぎゃあさわいで伯母に怒られて、それでもひそひそ話しているうちにいつの間にやら眠ってしまって、五月四日になります。


 四日はみんなで外出します。だいたい、まずトイザらスに行き、当時そのすぐそばにあったロッテリアで昼食を食べて、長崎屋のゲームコーナーで遊んで帰る、という流れを何年もしていました。

 昔のトイザらスには外国のおもちゃやお菓子がたくさん売っていて、よくそれを買ってもらっていました。

 ペンの先がスタンプになってるマーカーとか、水と一緒に空き瓶に入れて振ると石が宝石になるおもちゃとか、ポケモン緑やたまごっちやバナナチョコサンドクッキーなどを買ってもらっていましたねえ。なつかしい。

 いとこもジグソーパズルだったり、魚の風船だったりを買っていました。私の妹と末のいとこが、プーさんのはちみつちょうだいを被りで買っていて、私もそれにしたら良かったかな〜と思ったりしました。ぬいぐるみのプーさんの口にはちみつスプーンを持っていくと、接触によりはちみつがスプーンの柄の中に引っ込んで食べたように見えるあれです。

 ちなみに代金はみんなじいちゃんが出していました。ありがとうじいちゃん。孫には甘かった。


 ロッテリアではテリヤキバーガーばっかり食べていた気がします。どこのバーガーチェーンでもテリヤキバーガーを頼んでいました。毎度シェイクも飲みたいとごねましたが、おまえは吐くからだめだと言われて拗ねました。でも子どものころは、ちょっと食べすぎるとマジですぐ吐いていたので親父は正しかったと思います。


 全員が食べ終わると長崎屋に行きます。いまはメガドンキになっていますね。長崎屋のときは雑貨屋、ゲームコーナー、本屋が並んでいました。雑貨屋さんではエアーフレッシュナーや、アロマキャンドルの匂いが混ざった特有の香りがしていてテンションが上がったものです。

 昔の雑貨屋にはよく、お菓子の量り売りがありました。大中小のプラスチックのカップを選び、ずらりと並んだ透明なケースの中にはラムネだとか、ゼリービーンズだとかの小さいお菓子が入っていて、それらの中から好きなものを好きなだけカップに詰めて購入するやつです。

 あれもみんなで買ってたんですが、誰一人としてバランスよく買わずにただ一種類か二種類をみちみちになるまで詰めてました。私はなんだ、なんか雲の形の、水色の、砂糖のまぶされた柔らかいグミみたいなやつをみちみちにしてました。妹のカップにはゼリービーンズだけがひしめいていたし、いとこ三人は毎年違ってパステルカラーのマシュマロやどうぶつビスケットや、ピンクや黄色のビニールで巻かれた長いラムネが満ち満ちていました。


 そのカップを片手に、ゲームコーナーをうろうろします。行儀が悪い。ですが。ゲームコーナーという場所にはだいたいセブンティーンアイスの自販機があり、アイスを食べながらウロウロする子もまあたくさんいたため、こぼさなければ大丈夫、という微妙なモラルの設定がされていました。


 ここでも姉ちゃんズは大活躍なわけですよ。私が取れないぬいぐるみをフツーに取ってくれたり、絵柄を三つ揃えると景品がもらえる筐体の前では「ひだりみぎまんなかの順で押してみ」と耳打ちをします。その通りの順で押すとほぼ確定で絵柄が揃って景品がごろごろ取れたりして。スゲエ…と思う反面、姉ちゃんがいるとこんなに得なのか…とかも思っていました。

 当時は私の友達もみな示し合わせたみたいに長子で、家に遊びに行かせてもらっても学校の延長だったわけです。友達の弟や妹と一緒に、姉ちゃん兄ちゃんをやりながら遊ぶ。マリオパーティもスマブラも、使うキャラが被れば譲ったりする。当たり前なんですが、やっぱりたまには私もピーチとクッパを使いたい。子どもながらに、またはやっぱり子どもだから、かまってほしいし遊んでもらいたかったんでしょうね。それを『得』だと思っていたんだなあって。


 そんなこんなでひとしきり遊んで、時間になったら家に戻って、買ってもらったおもちゃで遊びます。

 全員持ってたポケットピカチュウの歩数をいかにちょろまかせるかみんなでしゃかしゃか振りましたし、魚の風船は廊下の端に飛んでしまって取れなくなったり、さっきカードダスで出てきたカードがレッドアイズ・ブラックドラゴンだったのに、それを見ていた知らん子がプライズのピカチュウぬいぐるみと換えてくれって言うからあげてしまったのをマジで信じられんと言われて、ちょっと後悔したりしました。


 そんななかまた夕飯をとり、順繰りにお風呂に入って雑魚寝をする。遊びに行って疲れたからこの日はすぐに寝てしまって、いとこが帰る日になります。


 五日の最終日は、昼を外で食べます。決まりの洋食屋さんかラーメン屋さんに入り、好きなものを食べます。

 じいちゃんはいつもレタスチャーハン、姉ちゃんズと妹はよくオムライスを食べていて、私はどっちのお店でも醤油ラーメンを頼んでいました。わかめとコーンとメンマとチャーシューと長ねぎと海苔が乗っている、細い麺の中華そばです。

 これのせいなのか今だに醤油ラーメンが好きで、特にサービスエリアで食事をするならだいたいそれです。件のラーメンと似た味だからですね。あのシンプルな、醤油ラーメンだよ!!という味の。食べると若干口の中がずっとネギの味になるあれ。

 醤油ラーメンはこういうとき、休みに外に出ていって食べるのが、行事みたいで好きです。なので家ではほとんど他の味のラーメンを食べていますね。カップヌードルのシンガポールラクサがメチャメチャ好きです。


 食事が終わるといとこは帰ってしまうんですが、さみしい反面昔の(今もですが)私はマジで体力がなくて、連日外で遊んで過ごした疲れに負けて眠くて眠くてですね。返事はするけどほぼ黙っていて、でもまあ姉ちゃんズはそれをわかっていて、五目ラーメンのなるとをくれたりしました。面目ない。


 この日になると妹もだいぶくたびれていて、帰ってふたりで昼寝をします。こたつで。このころは猫が三匹いたので、こたつの猫を足でさわさわしながら寝ます。

 しばらく眠ると夕飯時になり、昼にラーメンを食べたはずなのに、異様に麺類好きな母が焼きそばを焼いたりします。焼きうどんの年もありましたねえ。そのせいか、私もなんも考えていないとうっかり二食麺類を食べたりします。うどんが二回とかじゃないなら、いやうどん二回でも味が違えば大丈夫だな…?というぐらい、私も麺類が好きです。


 夕飯を食べてちょっとテレビを観て、その後お風呂に入りながら、早くまた子どもの日が来ないかな、と思うのです。まあお盆にもいとこは来るんですが、五月は気温も丁度よくて印象に残っていますね。


 つらつら書いたらスッゲー長くなってしまいました。書いていて、ああだいぶ楽しい子ども時代を過ごさせてもらったんだなあと思います。いやでも本当にマジで超楽しかった。ありがたいですね。



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