エズラの池
佐々木 煤
三題噺 「池」「破壊」「禁じられた目的」
「オリバー、そっちはエズラの池よ。違う道を通りなさい!」
木イチゴを摘もうと夢中になっていた僕を母さんが呼び止めた。うるさいなと思いながら、くるっと方向転換をして木イチゴが採れそうな場所を探す。エズラの池は僕の住む村の外れにある小さな池だ。昔々、悪いことをした魔法使いが罰として池に封じ込められた。魔法使いの執念は今も止まず、紫の蓮を咲かせているという。でもこんなのは大人が子供を一人で森に行かせないための方便だってことくらいわかっている。去年の夏、度胸試しで隣の家のマシューと行ってみたが、どんよりとした池があるだけだった。今年で10才になるのに木イチゴのパイで喜ぶ子供だと、大人達は思っているのだ。
木イチゴがかご一杯になった頃、二人の青年が村を訪れるのが見えた。遠くからでもわかる立派な剣を携えて青いローブを羽織っていた。青いローブは司祭様からの許しを得た人しか着られない。おそらくは魔族討伐に来た勇者だ!かごにふたをして家まで走る。玄関に置き捨てて、マシューを呼びに行った。今の時間なら家で農具の手入れをしてるはずだ。予想の通り、マシューは家にいた。窓から大きな声で呼びかける。
「マシュー!勇者だ、本物の勇者が来てる!」
「本当か?この前だってただの配達員を勇者だって言ったじゃないか」
「今度は本当だよ!だって大きな剣を携えてたし、教会の方へ行ったんだ!」
「教会へ!?それを早く言えよ、行くぞ!」
走って教会まで行くと、教会の周りには物珍しさで人が集まっていた。みんな口々に勇者の様子や何で村に来た理由など色々話している。この様子だと中の様子は見えそうにない。
「魔族の討伐なら村人にも宣言するはずだ、このまま待ってみよう」
マシューの言うことに賛成し、しばらく待っていると神父様と勇者達が出て来た。一人は細目で黒い髪を後ろに束ねていた。一人は赤い目でほほに大きな傷がある。彼らは僕等を一瞥すると、紙を出して牧師様が話し始めた。
「これは司祭様から賜った言伝です。言葉を借りて私が話させてもらいます。『彼らはエズラの池の調査に参った勇者様である。しばらくは池の周辺に立ち入りを禁ずる。また、勇者様への協力は喜んで引き受けよ。』」
勇者は丁寧にお辞儀をすると僕等を見た。
「皆様、ご協力をお願いいたします。我々は早速池に向かうので道を空けて下さい。」
さっと人が引いて、勇者は悠然と歩いて行った。村人達はそうそうに仕事に戻っていった。
「なあ、ついて行ってみない?エズラの池なら去年行ったことあるし、僕たち二人行っても大丈夫だろ」
「そうだな」
マシューの袖を引っ張り、教会の裏の茂みへ誘導した。エズラの池は教会の裏から村を大きく迂回すると誰にも見つからずに行ける。ちょっと時間はかかるけど、その頃には勇者達も池にいるはずだ。
僕達がたどり着いた時、勇者は池と同じくらいの魔方陣を描いていた。一通り描き終えると、黒髪の方が魔方陣の真ん中に立ち、顔に傷がある方がぶつぶつと呪文を唱え始めた。
「マシュー、何やってるかわかるか?」
「全くわからん。結界でも張るんじゃないか?」
風がふわっと吹き抜けたかと思うと、池がぼこぼこと沸騰したかのようになり、水がどんどんとなくなっていった。蓮が枯れ、底からは小さな祠が現れた。顔に傷がある勇者が呪文を唱えたまま手を頭まで挙げ、勢いよく下げた。すると祠は破壊され、人の形になった。魔法使いだ。昔話は本当だったんだ!黒髪の勇者が魔法使いを抱きかかえて池の淵まであげ、ローブを掛けた。意識はないようだ。勇者達はなにやら怪訝な顔で話し始めた。
「魔法使いが封印されているって本当だったんだな…」
話しながらマシューの方を見ると、真っ青な顔をしていた。
「大丈夫かマシュー、どうしたんだ?」
軽く揺するも反応がない。手を握るも力が返ってこない。勇者に助けを求めようと、池を見ると勇者達がこちらを向いていた。やばい、気づかれた。マシューを引き摺りながら森の外に走る。だんだんと霧が濃くなる。まだ夕方でもないのになんで霧が?多少の不安と疑問を考えないように、必死に走った。村の外の川まで来た。村を振り返ると紫の霧に包まれていた。
「何が…あったんだ…?」
背中からマシューの声がした。意識を取り戻したようだ。僕等は隣村まで助けを求めた。隣町の神父様が暖かく受け入れてくれた。知っていること、見たことを全て話したが、神父様は村に勇者が派遣されるとは聞いていないらしい。僕等は何を村に招いたのだろう。
エズラの池 佐々木 煤 @sususasa15
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