第9話 受付嬢??





私の肩を掴んで来たのは、身長2メートルはありそうな大男で、視線が私と受付嬢を交互に見ている。




「あそこの受付は止めろ•••」



大男が小声でそう言ってきたため、私は受付嬢をあらためて観察してみた。



なるほど


綺麗な青色の髪に整った顔、カウンター越しのため上半身しか見えないが胸も大きく、全身見てもきっとスタイル抜群だろうと容易に想像できた。



となれば、大男としては、俺の女、俺専用の受付嬢に近づくな、ということだろう。


しかし、他の受付は並んでいるため、私としては譲る気はない。




「お前の女か、専用の受付嬢かは分からないが、時間が惜しいから彼女に対応してもらう」


「なっ!!俺の女な訳ねーだろ!!聞かれたらどうするんだ」


「よく分からんが、だったら問題ないよな?」


「ああ。俺は忠告したからな」



大男はたったこれだけの会話の間に随分汗をかいたようで、額から大粒の汗が滴っていた。


冷や汗?

と少し気にはなったが、私は受付嬢の元に向かった。




「すみません。ここの冒険者ギルドの利用が初めてなので、どんな依頼があるか教えてもらえませんか?」


「ほう。私のカウンターに来るとは、余程の実力者か、それとも、ただのバカか、どちらだろうね?」




あれ


見た目はとっても美人なのに、雰囲気と話し方は傲慢な貴族令嬢のような、悪女のような、とにかく想像とまったく違っている。



「どうした?早く冒険者カードを見せてみろ」


「は、はい」




やや圧倒されながら、私は冒険者カードを手渡した。


受付嬢は冒険者カードを受け取ると、水晶玉の中に入れ、水晶玉の横に浮かび上がる画面を見つめた。




「はにゃ!?」



しばらく画面を見ていた受付嬢は突然変な声を上げ、顔が真っ青になり、額からは汗も流れている。



「あ、あのー?」



「な、なんだ、これは•••」

「冒険者ランクA•••」

「ランクAの魔物討伐数1,022体、ランクSの魔物討伐数405体•••」

「依頼達成率100%•••」

「冒険者ランクSへの昇格条件達成。本人の希望で保留中•••」

「実質、Sランク•••」



受付嬢はワナワナと震えながら呪文のように私の個人情報を呟き続ける。

辛うじて他の冒険者達には聞こえてないようだが、個人情報を勝手に話されるのは正直迷惑だ。




「すみませんが、個人情報を声に出さないでもらえますか?」


「は、しまった!!」



受付嬢はハッとして顔を上げると、物憂げな表情で私を見つめてきた。



「わ、私ったら、つい。本当にごめんなさい」


「い、いいえ。分かってもらえれば•••」



先程までと真逆の話し方と雰囲気に戸惑ってしまう。



「どうなさったんですか?あ、そうだわ。依頼のことを聞きたいんですよね?よければあちらの部屋でゆっくり話しましょう」



受付嬢は満面の笑みでそう言うと、カウンターを飛び越え、私の腕を掴んで部屋に移動を始めた。




「お、おい。なんか、乙女になってるぞ」

「ああ。どうしたってんだまったく」



受付嬢のあまりの豹変ぶりに冒険者達が騒めき始めると、俺の腕を掴んだまま受付嬢はギロッと冒険者達を睨んだ。



「お前ら、いつまでそこにいるんだ!?早く仕事に行って来い!!」



受付嬢が睨んだまま怒鳴ると、冒険者達は悲鳴を上げながら外に走って行った。



「やだわ。仕事なんですよ。いつもの私はあんな汚い言葉は使わないんです」



受付嬢は笑顔でそう言うと、今度は私の腕に自分の腕を組んで来た。

豹変ぶりには驚いたが、美人が腕を組んでいるこの状況の方が頭が追いつかない。



そんな私に構うことなく部屋に連れていかれ、受付嬢はお茶を出してくれた。


それにしても通されたこの部屋は、一般的な打ち合わせに使う部屋とは違い、大きな書斎用の机と、それとは別に私が今座っているソファーの前にも立派な机がある。



「それでは、改めてお互いに自己紹介をしましょうか」


「は、はい。私は冒険者のマルティナ•プリズムです」


「ありがとうございます。私は、この冒険者ギルドのギルドマスター、ナナイロです」


「んっ??ギルドマスター??」


「はい」


「ナナイロさんが?」


「はい」


「えぇぇぇーーーー!!」




受付嬢だと思っていたナナイロがギルドマスターだと知り、私は部屋の外まで響いたであろう大きな声を出して驚いてしまった。



話を聞くと、受付にいる理由は冒険者が受付嬢に舐めた態度を取らないように牽制することと、直に強い冒険者を探していたかららしい。




「それでマルティナ様」


「マルティナでいいですよ」


「もう呼び捨てを許してくださるなんて。分かりました。私のことも、ハニーと、読んで下さい」



ブハッ


ハニーと言われた瞬間、私は出されたお茶を口から噴き出してしまった。




「•••。ナナイロで」


「もう、分かりましたわ。それでマルティナ様。ここからは真剣にお願いがございます」


「はい。何でしょうか?」


「ここから馬で1日程行った場所に小さなイチボという村があるのですが、そこでモウモウ(A)が現れたのです」


「牛肉が!?」


「ぎゅう、にく??」


「•••失礼しました」



モウモウ(A)は体長5メートル、大きな角を持った凶暴な魔物で、普通の冒険者や王国の騎士では倒せず、100名集めてようやく1体を倒せるかどうかのレベルだ。


だが、私からすればモウモウ(A)はただの牛肉であり、『すき焼き』であり、『ステーキ』であり、『牛丼』であり、挙げればキリがないが、要は貴重な食材と言うことだ。




「この依頼を受けれる冒険者はいない状態で、王国にも応援要請をしていますが返事がなく•••。もう、マルティナしか頼る人がいないのです」


「いいでしょう。分かりました」


「急に言われても困りますよね?」


「場所を教えて下さい。直ぐに行きます」


「やはり難しい•••。えっ!!引き受けて下さるんですかーーー!?」



先程の私のように、いやそれ以上にナナイロは冒険者ギルドの外まで聞こえる大声で言った。




私はイチボという村の場所を聞くと、直ぐに冒険者ギルドを後にして、馬車で向かった。




急げば夕食は『すき焼き』だ。










★★★★ ★★★★ お知らせ★★★★ ★★★★



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